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第九章 鮮やかなる桃花
六十五話 王と太后 1
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◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇
その時——
「そうだぞ、崔瑾。私の楽しみを奪う気か」
声が響いた瞬間、場の空気が凍りついた。まるで劇の幕が切って落とされるように、玄済国王が、その豪華な装束を翻して姿を現した。彼の隣には、華美な装飾と衣に身を包んだ太后が、背筋を一本の鋼のように伸ばし、静かに立っている。
その場の空気が一瞬にして張り詰め、一同が慌ただしく膝をつき、頭を下げる。
「大王」
王が扇を前に出して、その先を少しだけ上げる。
「立て」
玉蓮の心の臓が、微かに音を立てる。
「母上、ご覧ください。あれが白楊の華と謳われる白菊です。なんと……美しい。あれを我が後宮に……!」
玄済国王の視線は、熱烈な欲望を帯びて玉蓮に注がれていた。
「そなたが……白楊国、公主か」
王の隣で、太后が無機質な声で玉蓮に問いかける。
「はい、わたくしめが白楊国・公主、玉蓮にございます」
玉蓮は視線を下げたまま、もう一度、膝をつき、手を前で合わせると、静かに少しだけ体を倒す。周囲からは小さく、ほう、と息が漏れる音が聞こえる。
「ふむ、詩歌に違わぬな」
太后の口元に、微かな笑みが浮かんだ。それは慈愛に満ちたものではなく、むしろ獲物を見定めたかのような、冷たい光を宿している。極上の伽羅の香りが漂ったかと思うと、彼女の指が玉蓮の肌に触れ、その顎を持ち上げる。
(この香りは——)
ふと、舌の奥を刺すような苦味がないか、玉蓮は無意識に息を詰める。苦味はない。だが、その氷のような指先が思い出させるのは、肌を粟立たせるほどの冷酷な気配。
「顔をあげよ」
静かな声に、下げていた視線をゆっくりと上げる。玉蓮は、その深淵のような瞳の奥を見た。この全てを見下し、全てを値踏みする、絶対的な眼差し。圧倒的な存在感が、息を詰める。
「この美しさ。月貌とはよく言ったものだ」
「恐れ多きことにございます。わたくしめなどは、小さな灯り。太后様の輝かしい光の前では、沈んだ月も同様です」
彼女の瞳が、静かに細められた。
「ふ、口も頭もよく回る娘だ。立つが良い」
「ありがとうございます、太后様」
玉蓮は、ゆっくりと立ち上がり、視線を上げることなく、僅かに下がる。そこに、王がゆっくりと近づき、玉蓮の肌を舐めるように視線を動かした。
その時——
「そうだぞ、崔瑾。私の楽しみを奪う気か」
声が響いた瞬間、場の空気が凍りついた。まるで劇の幕が切って落とされるように、玄済国王が、その豪華な装束を翻して姿を現した。彼の隣には、華美な装飾と衣に身を包んだ太后が、背筋を一本の鋼のように伸ばし、静かに立っている。
その場の空気が一瞬にして張り詰め、一同が慌ただしく膝をつき、頭を下げる。
「大王」
王が扇を前に出して、その先を少しだけ上げる。
「立て」
玉蓮の心の臓が、微かに音を立てる。
「母上、ご覧ください。あれが白楊の華と謳われる白菊です。なんと……美しい。あれを我が後宮に……!」
玄済国王の視線は、熱烈な欲望を帯びて玉蓮に注がれていた。
「そなたが……白楊国、公主か」
王の隣で、太后が無機質な声で玉蓮に問いかける。
「はい、わたくしめが白楊国・公主、玉蓮にございます」
玉蓮は視線を下げたまま、もう一度、膝をつき、手を前で合わせると、静かに少しだけ体を倒す。周囲からは小さく、ほう、と息が漏れる音が聞こえる。
「ふむ、詩歌に違わぬな」
太后の口元に、微かな笑みが浮かんだ。それは慈愛に満ちたものではなく、むしろ獲物を見定めたかのような、冷たい光を宿している。極上の伽羅の香りが漂ったかと思うと、彼女の指が玉蓮の肌に触れ、その顎を持ち上げる。
(この香りは——)
ふと、舌の奥を刺すような苦味がないか、玉蓮は無意識に息を詰める。苦味はない。だが、その氷のような指先が思い出させるのは、肌を粟立たせるほどの冷酷な気配。
「顔をあげよ」
静かな声に、下げていた視線をゆっくりと上げる。玉蓮は、その深淵のような瞳の奥を見た。この全てを見下し、全てを値踏みする、絶対的な眼差し。圧倒的な存在感が、息を詰める。
「この美しさ。月貌とはよく言ったものだ」
「恐れ多きことにございます。わたくしめなどは、小さな灯り。太后様の輝かしい光の前では、沈んだ月も同様です」
彼女の瞳が、静かに細められた。
「ふ、口も頭もよく回る娘だ。立つが良い」
「ありがとうございます、太后様」
玉蓮は、ゆっくりと立ち上がり、視線を上げることなく、僅かに下がる。そこに、王がゆっくりと近づき、玉蓮の肌を舐めるように視線を動かした。
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