闇を抱く白菊 —天命の盤—

アリスの鏡

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第九章 鮮やかなる桃花

六十四話 正義の一手 2

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大都督だいととく、崔瑾殿。これは一体……白楊はくよう国の使節団と大王様へ嫁がれる姫君をお引き止めになるとは、どのようなお考えか」

 周礼しゅうれいの声は、まるで蜜のように甘く、しかし、その言葉の端々には、崔瑾の真意を探るような、ねっとりとした響きが混じっている。

「聞けば、公主は、大都督だいととく劉義りゅうぎ殿の学び舎にその身を置き、武芸にも通じていると。赫燕かくえん軍にて敵を撫で切りにしたその実力は疑うことなきもの。危険をはらむ姫君を不用意に後宮へ入れることは、公主ご自身の身の安全、そして何より、王の安寧を脅かすことにも繋がりかねませぬ」

 崔瑾は、そこで一度言葉を切った。

 周礼しゅうれいは相変わらず扇で口元を隠しているが、その瞳が鋭く細められた。崔瑾はそちらを一瞥いちべつし、再び前を見据えた。

「よって、まずは、いかなる危険からもお守りできるよう、我が屋敷にて、その身柄を保護いたします。これは、公主の安全を最優先に考えた上での、最善の策。そして、大王へのご報告は、しかるべき時に、この崔瑾が責任をもって執り行いましょう」

 周礼しゅうれいの持つ扇がわずかに震える。

「しかし、後宮にお入りになれば、王も姫君の美しさを存分に愛でられましょう。大王の楽しみを横からさらうような真似は、忠臣として、あってはならぬことですぞ」

 周礼しゅうれいは、あざけりの色を滲ませながら挑発的な言葉を繰り出す。だが、崔瑾は、その言葉を浴びながら、自らの呼吸一つ、乱さなかった。粘つくような視線を受けても、瞬きの回数は変わらない。

 手に持つ組紐くみひもは、風も意志も受けぬように静止している。崔瑾は、何事も起こっていないかのようにして、そこに立つ。

「忠臣として、王を危険に晒すような真似はできぬ、と申し上げているのです」

 周礼しゅうれいの顔から、微かな笑みが完全に消え失せる。崔瑾は、その視線から一切逃げることなく、真っ直ぐに彼を見つめ返した。
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