闇を抱く白菊 —天命の盤—

アリスの鏡

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第十章 正義の敵

七十八話 魅惑の才気 4

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 しばらく歩いたところで、玉蓮と翠花スイファがどちらからともなく笑いだした。翠花スイファは目を輝かせ、玉蓮を見上げる。

「奥様、本当に格好良かったです!」

「私は、やりすぎだと思います。あのような下賎げせんな会話など、捨ておけば良いものを」

 阿扇が呆れを隠さずにそう伝えると、玉蓮が首だけで振り返り、悪戯に笑う。薄紫の衣がきらりと光を放つようにひるがえる。

「旦那様が側室を娶らぬ意味もわからぬというのに。あの程度のことで怯えるような令嬢たちが、崔家に嫁ごうなどと笑止千万」

 人差し指を立てて、どこか得意げに言い放つ玉蓮の堂々とした態度に、阿扇は思わず頭を抱える。

「大人げないですよ。もっと穏便に済ませるべきでした」

「あら。きっと、わたくしと年齢はそう変わらないはずだわ」

「だからと言って、あそこまで挑発に乗る必要はなかったかと。奥様の品位を疑う者も出てくるかもしれません」

 阿扇は、なおも諭そうとするが、玉蓮は首を横に振る。

「言わせておけばいいなどと思わない。ああいった中傷は、真っ向からねじ伏せるの。大いなる皮肉でね。そうでなければ、こちらの立場がないがしろにされるだけ。わたくしは妻として、崔家の名誉を守る義務があるもの」

 翠花スイファは再び感嘆の声を上げ、阿扇はため息をついて肩をすくめる。

翠花スイファは、気分爽快です!」

「そうでしょう?」

「それも後宮で教わったのですか?」

「いいえ、獣の巣で教わったのよ」

 その、あまりにも楽しげな、悪びれもしない笑顔。

(……もう、駄目だ)

 阿扇の中で、何かが、ぷつり、と切れた。忠誠心も、警戒心も、全てがどうでもよくなった。目の前の、この嵐のような女が、どうしようもなく面白くて、そして少しだけ眩しい。

「くっ」

 己の足元を見ながら、緩む頬をそのままにしていると、玉蓮が不思議そうに顔を覗き込んできた。
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