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第十章 正義の敵
七十八話 魅惑の才気 5
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「あら。阿扇、あなた笑っている?」
玉蓮の指摘に、阿扇はぎくりと肩を震わせ、慌てて真顔を取り繕う。しかし、口元の端にわずかに残る笑みの名残は隠しきれずに、手で覆った。
「——いえ、笑ってなどおりません」
「絶対に笑ってた!」
玉蓮は、子供が駄々をこねるように、そしてどこか楽しげに言葉を遮った。彼女の瞳は、わずかな隙を見逃すまいと、爛々と輝いている。
「いいえ、気のせいです」
頑なに否定する阿扇に、玉蓮は面白そうに目を細める。顔を明後日の方に向け、決して目を合わせずにいれば、玉蓮は「嘘よ」と言いながら、悪戯っぽい笑顔を浮かべて阿扇の肩を小突いた。
「あーあ。やはり、着飾ることは向いていないわ。阿扇、屋敷に戻ったら剣術の稽古をしたいの。相手をしてほしいわ」
玉蓮は、豪華な衣装に身を包んだ自身の姿をざっと見回し、ため息を一つ。煌びやかな刺繍が施された絹の衣は、彼女の優雅な立ち姿を際立たせていたが、どこか窮屈そうに玉蓮は身を捩る。
「奥様。剣術は怪我をするから控えるようにと、旦那様からきつく言われているのですよ……翠花が旦那様に叱られてしまいます」
翠花が、不安げな表情で玉蓮に詰め寄ったが、玉蓮は涼しい顔で翠花を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「翠花、その簪が口止め料よ」
玉蓮は、先ほど店で購入したばかりの、息をのむほど美しい翡翠の簪を指し示した。その滑らかな曲線、精巧な彫刻、そして深みのある緑色の輝きは、まるで生きた宝石のよう。
「え! くださるのですか!」
翠花の顔に、驚きと喜びが同時に花開いた。彼女の大きな瞳がきらきらと輝く。こんなにも見事な細工が施された逸品は、めったにお目にかかれるものではない。
「黙っていてくれるわよね?」
「はい! 翠花は誰にも言いません! 誓って、誰にも!」
簪を両手で大切に抱えながら力強く頷く翠花と、その隣でしてやったりの顔をして笑う玉蓮に、阿扇は、思わず頭を左右に振る。
「稽古は良いですが、私は手加減などしませんよ」
「わたくし相手に手加減なんて、それこそ怪我をするわよ、阿扇将軍」
「たとえ相手が玉蓮様であろうと、戦場では容赦なく攻め立てるのが私の流儀です」
「あなたこそ、わたくしの剣の錆とならないよう、せいぜい気を付けることね」
玉蓮は挑戦的な笑みを浮かべ、こちらの目をまっすぐに見返した。その瞳には、豪華な衣装を纏った姿からは想像もできないほどの、鋭い光が宿っている。阿扇は、今度こそ我慢できずに声を上げて笑ってしまった。
玉蓮の指摘に、阿扇はぎくりと肩を震わせ、慌てて真顔を取り繕う。しかし、口元の端にわずかに残る笑みの名残は隠しきれずに、手で覆った。
「——いえ、笑ってなどおりません」
「絶対に笑ってた!」
玉蓮は、子供が駄々をこねるように、そしてどこか楽しげに言葉を遮った。彼女の瞳は、わずかな隙を見逃すまいと、爛々と輝いている。
「いいえ、気のせいです」
頑なに否定する阿扇に、玉蓮は面白そうに目を細める。顔を明後日の方に向け、決して目を合わせずにいれば、玉蓮は「嘘よ」と言いながら、悪戯っぽい笑顔を浮かべて阿扇の肩を小突いた。
「あーあ。やはり、着飾ることは向いていないわ。阿扇、屋敷に戻ったら剣術の稽古をしたいの。相手をしてほしいわ」
玉蓮は、豪華な衣装に身を包んだ自身の姿をざっと見回し、ため息を一つ。煌びやかな刺繍が施された絹の衣は、彼女の優雅な立ち姿を際立たせていたが、どこか窮屈そうに玉蓮は身を捩る。
「奥様。剣術は怪我をするから控えるようにと、旦那様からきつく言われているのですよ……翠花が旦那様に叱られてしまいます」
翠花が、不安げな表情で玉蓮に詰め寄ったが、玉蓮は涼しい顔で翠花を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「翠花、その簪が口止め料よ」
玉蓮は、先ほど店で購入したばかりの、息をのむほど美しい翡翠の簪を指し示した。その滑らかな曲線、精巧な彫刻、そして深みのある緑色の輝きは、まるで生きた宝石のよう。
「え! くださるのですか!」
翠花の顔に、驚きと喜びが同時に花開いた。彼女の大きな瞳がきらきらと輝く。こんなにも見事な細工が施された逸品は、めったにお目にかかれるものではない。
「黙っていてくれるわよね?」
「はい! 翠花は誰にも言いません! 誓って、誰にも!」
簪を両手で大切に抱えながら力強く頷く翠花と、その隣でしてやったりの顔をして笑う玉蓮に、阿扇は、思わず頭を左右に振る。
「稽古は良いですが、私は手加減などしませんよ」
「わたくし相手に手加減なんて、それこそ怪我をするわよ、阿扇将軍」
「たとえ相手が玉蓮様であろうと、戦場では容赦なく攻め立てるのが私の流儀です」
「あなたこそ、わたくしの剣の錆とならないよう、せいぜい気を付けることね」
玉蓮は挑戦的な笑みを浮かべ、こちらの目をまっすぐに見返した。その瞳には、豪華な衣装を纏った姿からは想像もできないほどの、鋭い光が宿っている。阿扇は、今度こそ我慢できずに声を上げて笑ってしまった。
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