闇を抱く白菊 —天命の盤—

アリスの鏡

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第十二章 慟哭の正義

八十六話 髑髏台の報せ(どくろだいのしらせ)

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◇ 玄済げんさい国 斥候兵 ◇

 ——鼻につくのは、血と脂の焦げる匂い。

 斥候せっこうは、玄済げんさい国の旧王都・盛楽せいらくを見下ろせる丘の草むらに腹這いになり、込み上げる吐き気を必死にこらえた。まるで、大地を黒く覆い尽くし、草一本残さず喰らい尽くすいなごの群れ。ここ数ヶ月、玄済げんさい国を震撼させている赫燕かくえん軍の進軍は、まさに災厄そのものだ。

 敵国・白楊はくようの筆頭、大将軍となった殺戮さつりくの将——赫燕。赫燕軍は、玄済げんさい国の首都・呂北ろほくの西に広がる十五の都市を、わずか二十日でとした。春が芽吹き始めるはずの大地は、あまりに生々しい焦土しょうどに変貌していた。


 くすぶる黒煙、焼け落ちた村々、炭と化した家屋、崩れたほこら。煙に混じって、乾ききった土の匂いがする。大地そのものが悲鳴を上げているかのようだ。空には蠅が飛び交い、遠くに積み上げられた「けい」——首級の山が、白く光る朝日に照らされている。その高さは城壁に届くほどで、死の証が誇示されるかのように天を指している。

 そして、城門前に築かれた、髑髏どくろ台。白く磨かれた頭蓋骨だけで組み上げられた異様な塔。どのように作ったのかなど、想像もしたくない。

 だが、何よりも恐ろしかったのは、その静けさ。これほどの破壊と殺戮を行いながら、赫燕軍からは、勝利のときの声一つ、聞こえてこない。ただ、淡々と、まるで農夫が畑を耕すかのように、彼らは命を刈り取り、大地を焼いていく。その、あまりにも無感情な営み。

 人の所業ではない。赫燕軍は、もはや軍ではない。これは、戦術でもなく、占領でもない。呪いの行軍。喰らい尽くすまで止まらぬ、とがに満ちた者たちの行進。


 黒煙は、風に押され、王都・呂北ろほくの方角へ細く長く流れていく。風のせいだ——そう思い込もうとしても、胸の奥では、都の喉にすすがたまっていく幻影が離れなかった。

崔瑾さいきん様にッ……報告、しなければ」

 このままでは、都全体が黒い煙に覆い尽くされ、生きるものすべてが窒息してしまうのではないか。そんな悪寒が、背筋を凍らせる。
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