社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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1章 春の予感

1話 はじまりの予感 2

 白鳥さんが何人かと話しながら、会議室全体を指さして笑っている。そして、そこには先ほどまでいなかった、男性の後ろ姿。ダークグレーのスーツ。

(——あれは、誰だろう?)

「会議を始めますので、みなさんご着席ください」

 司会を担当するらしい社員の声に、立っていた人間が近場の席を見つけて座って行く。ほとんどの人間が席に着く中、白鳥さんとその周辺の数人は立ったまま前を見ていた。

「それでは、日東テレビ選挙出口調査業務プロジェクト会議を行います。よろしくお願いします」

 そこで、先ほどまで白鳥さんと話していたダークグレーのスーツが動き出した。前に出ると、会議室全体に一瞬視線を送り、頭を下げてゆっくりと顔を上げた。

「初めまして。本社、経営企画所属の香取 涼です。この度、プロジェクトリーダーを務めることになりました」

 人々が息を呑む音が聞こえた。しかも、はっきりと。彫りの深い整った顔立ち。頭一つ飛び抜けた長身。大人の色気と知性を纏った洗練された佇まい。その全てが、強烈に人の目を惹き付ける。

 彼を目にした女性たちが色めきたつ。その騒ぎに困ったように眉尻を下げて彼は笑うけれど、その表情さえ余裕たっぷりに見えた。

 とりあえずわかったのは、業務よりも何よりも、この男性の人気は凄まじいということ。

(これは……会社の戦略?)

 こういう人がリーダーとなれば、女性陣はことさらに頑張るだろう。私たち社員は明らかに男性が多いけれど、実際に現場で働いてくれるスタッフは女性が多い。帰宅が深夜になることもあるこのプロジェクトでは、スタッフのモチベーションを保つためにこうした戦略も必要なのかもしれない。

 モチベーションを上げる、保つ方法は様々な面から考えることが大切、そうメモをとろうとした私の腕を隣から陽子が引っ張った。

「ゆり見て! 超カッコいい! ヤバくない? 仕事楽しくなりそう!」

 呆れた顔をした私に、陽子はきょとんとした顔を返してくる。

「あれ、ゆりちゃん?」

「……また、陽子は。そんなこと言って、本当は興味無いくせに。ノリで言ってるだけでしょ」

「——ゆりちゃん! さすが仲良しって言われるだけあるね! 私のことわかってる!」

「陽子は外見あんな感じがいいの?」

「そうねぇ……かなりカッコいいけど、私は外見より包容力。年上がいいけど、これって思う人は結婚してることが多いんだよね。でも指輪してると、いい男に見えるっていうね」

「指輪マジック……」

「マジック効果ない?」

「確かに。誰かに男性として認められてるっていう……」

「そう!」

「ていうか、あなた彼氏いるでしょ?」

「あ、あの人、指輪してない!」

「聞いてる?」

「独身なの? ステキー。遊んでそー。沼かなあ」

「沼?」
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