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1章 春の予感
1話 はじまりの予感 4
「そう言われると注意しづらいな。まぁ、これからよろしく。君たちに頑張ってもらわないと、始まらないからね」
そう言い残し、彼は颯爽と去っていく。残された私たちは、しばらく呆然としていたけれど、すぐに憲吾が目を輝かせながら私たちの方へ振り向いた。
「お前ら連携すごいな。褒め殺し作戦?」
「でしょ、仲良しですから! 連携はお手の物!」
「なに、褒め殺し作戦って」
憲吾の言葉に得意げに笑っている陽子にまた笑ってしまう。
そして発表された、グループ編成。
「このプロジェクトは全国規模だ。本番は六月末と八月の二回。それ以外はひたすら準備です」
彼は一度言葉を切り、私たち新卒を見据えた。
「六月は群馬県の県知事選のみなので、関東担当のメンバーと香取で対応します。八月は全国のセンターと連携して行います。本部の人数はアルバイトスタッフも含めれば三百人、現場の調査スタッフを入れれば二千人という、当社の中でも最大規模のプロジェクトです」
香取さんは私たち新卒に目を向けると、目を細めて、その形のいい唇から美しい白い歯をのぞかせた。
「新卒のみんなには、関東の各県に分かれてグループのリーダーを担ってもらう。それぞれの県にはサポートのために、先輩社員を配置している。でも、それはあくまでサポートだからね。先輩たちは自分の仕事も別にあるから、頼り過ぎないように」
入社二ヶ月で、リーダー。責任者として、年上のアルバイトスタッフをまとめ、プロジェクトを遂行する。
「覚悟してくれよ」
香取さんのその言葉に、私は武者震いのような高揚感を感じていた。今日から、目まぐるしくも刺激的な日々が幕を開ける。
◇
プロジェクト発表の金曜日の夜。池袋の居酒屋で同期たちはグラスを傾ける。
「プロジェクトかぁ。まだ実感ないなあ」
「最高だな、新卒二ヶ月目でデカいプロジェクトに関われる」
矢野くんはビールが入ったグラスを大きく傾けて残っていた液体をすべて流し込んだ。その流れを証明するみたいに、喉仏が上下に動く。
「矢野くんって、本当にお酒強いね」
「草下は弱いよな。まだ二杯目だけど赤くなってきた」
彼は表情を変えることなく、私の頬に指の背で軽く触れる。
「熱い」
彼は、相手が男性であっても女性であってもあまり変わらない。自然なその仕草とは裏腹に、こちらの頬が勝手に意識して更に熱を持つ。
「なんで、そんなに赤くなるんだろうな。白いから?」
ひとり戸惑う私を気にする素振りも見せず、彼は面白そうに笑う。
「矢野くんだって、白いよ」
私の言葉に一瞬目を見開いた彼は、自らの腕に視線を落とした。私もその視線の後を追う。筋肉の筋に陰影がくっきりと映る。自分の腕とはまるで違う。
「まぁ、夏前だから今は白いな」
「夏前だから?」
彼が当たり前のように、変な理由を出してくるから思わず笑ってしまう。すると、彼も柔らかく目を細めた。
「今年はスノボにも行ってないし、焼けてない。夏になったらたぶん海とか野球とかで真っ黒になる」
そう言い残し、彼は颯爽と去っていく。残された私たちは、しばらく呆然としていたけれど、すぐに憲吾が目を輝かせながら私たちの方へ振り向いた。
「お前ら連携すごいな。褒め殺し作戦?」
「でしょ、仲良しですから! 連携はお手の物!」
「なに、褒め殺し作戦って」
憲吾の言葉に得意げに笑っている陽子にまた笑ってしまう。
そして発表された、グループ編成。
「このプロジェクトは全国規模だ。本番は六月末と八月の二回。それ以外はひたすら準備です」
彼は一度言葉を切り、私たち新卒を見据えた。
「六月は群馬県の県知事選のみなので、関東担当のメンバーと香取で対応します。八月は全国のセンターと連携して行います。本部の人数はアルバイトスタッフも含めれば三百人、現場の調査スタッフを入れれば二千人という、当社の中でも最大規模のプロジェクトです」
香取さんは私たち新卒に目を向けると、目を細めて、その形のいい唇から美しい白い歯をのぞかせた。
「新卒のみんなには、関東の各県に分かれてグループのリーダーを担ってもらう。それぞれの県にはサポートのために、先輩社員を配置している。でも、それはあくまでサポートだからね。先輩たちは自分の仕事も別にあるから、頼り過ぎないように」
入社二ヶ月で、リーダー。責任者として、年上のアルバイトスタッフをまとめ、プロジェクトを遂行する。
「覚悟してくれよ」
香取さんのその言葉に、私は武者震いのような高揚感を感じていた。今日から、目まぐるしくも刺激的な日々が幕を開ける。
◇
プロジェクト発表の金曜日の夜。池袋の居酒屋で同期たちはグラスを傾ける。
「プロジェクトかぁ。まだ実感ないなあ」
「最高だな、新卒二ヶ月目でデカいプロジェクトに関われる」
矢野くんはビールが入ったグラスを大きく傾けて残っていた液体をすべて流し込んだ。その流れを証明するみたいに、喉仏が上下に動く。
「矢野くんって、本当にお酒強いね」
「草下は弱いよな。まだ二杯目だけど赤くなってきた」
彼は表情を変えることなく、私の頬に指の背で軽く触れる。
「熱い」
彼は、相手が男性であっても女性であってもあまり変わらない。自然なその仕草とは裏腹に、こちらの頬が勝手に意識して更に熱を持つ。
「なんで、そんなに赤くなるんだろうな。白いから?」
ひとり戸惑う私を気にする素振りも見せず、彼は面白そうに笑う。
「矢野くんだって、白いよ」
私の言葉に一瞬目を見開いた彼は、自らの腕に視線を落とした。私もその視線の後を追う。筋肉の筋に陰影がくっきりと映る。自分の腕とはまるで違う。
「まぁ、夏前だから今は白いな」
「夏前だから?」
彼が当たり前のように、変な理由を出してくるから思わず笑ってしまう。すると、彼も柔らかく目を細めた。
「今年はスノボにも行ってないし、焼けてない。夏になったらたぶん海とか野球とかで真っ黒になる」
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