社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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1章 春の予感

2話 近づく二人 3

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 電車を乗り継いで、池袋駅に降り立つ。改札を出て目の前の地図を見るけれど、現在地すらわからない。

「ボウリング場……」

 そもそも、東口がどっちなのかも怪しい。田舎者の私にとって、池袋は巨大な迷宮だ。とりあえず地上に出ればなんとかなる。そう思ってエスカレーターを上がると、予想よりも人が少ない。スマホの地図アプリを起動し、現在地マーカーをくるくると回してみる。

 集合時間からすでに1時間が経過。これはもう、白旗を上げるしかない。グループチャットに『絶賛迷子中』と送信すると、すぐに中川浩司——浩ちゃんから着信があった。

「浩ちゃん、ごめんね」

「ゆりちゃん今どこ? 迷うと思うてたけど、やっぱりやったな」

「東武百貨店があるんだけど」

「ああ、それなら西口やわ。逆側やな」

「逆?」

「そう。駅の中を通って逆に出て。そしたら東口やから」

 東武百貨店なのに、なぜ東口ではないの。勝手な不満を心の中で叫ぶ。そして東口に着けば、西武百貨店。池袋はよくわからない。東京の人は何を考えて、こんなわかりにくい構造にしたのだろう。

「おおい、ゆりちゃん聞いてる?」

「あ、ごめんね。で、どっちだっけ?」

「東口出たら左側な。真っ直ぐ歩いてきたら、細い道に入るんやけど、そしたらボウリング場の看板見えるから。わからんかったら早めに電話してな」

 浩ちゃんのゆっくりとした口調は心を落ち着かせてくれる。「わかった」と告げて通話を切った。

 人でごった返す道は、まさしく池袋。都会という名にふさわしい人の波。都会の人は、これを平然と泳ぐように進んでいくから恐ろしい。前を行く人の背中を追いかけるようにして歩いていくと、確かに細い道の入り口に行きついた。人の波はここで途切れ、その先は少しだけ閑散としてバイクやら自転車やらが止まっている。

 こんな道は、私が住む幕張にはなかなかない。

 全てが計算され、整備されたあの街は電柱もなければ、ごみもなくて調和のとれた家と公園があり、そして美しい道路が碁盤の目のように伸びている。それに比べて、この道は暗い。道の端には数人の若者たち、煌びやかな看板、賑やかな電飾。

 恐る恐るその道に入り、浩ちゃんに言われたとおり「ボウリング」と描かれた看板を目指して小走りに近い速さで進んでいくと、古びたビルに行き着いた。

 エレベーターに乗り込むと、聞いたことのないようなゴウンゴウンという機械音が響く。東京は面白い街。駅前の池袋のイメージとは全然違う。都会的な建物があるすぐそばに、こんなに古い建物がある。一歩入り込めば、そこは先ほどとは違う街になる。
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