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1章 春の予感
3話 熱を帯びる距離 1
終電が近づいても、駅前で話し続ける私たちは、まだ帰りたくないのだ。楽しすぎて、名残惜しくて。
「うち、来る? まだあんまり片付いてないけど」
池袋から歩ける距離に引っ越したばかりのゆきちゃんが、そう提案してくれた。
スーパーで買い込んだお酒を片手に、六人で夜道を歩く。新築マンションのゆきちゃんの部屋は、真っ白な壁と明るいフローリングが眩しいほどだった。
しばらく飲んでいると、憲吾がスマホを操作しながら「帰ろうかな」と口にする。
「タクシーで帰るの?」
「うん。ちょっと明日の午前中にやらなきゃいけないことがあってさ」
「私もそろそろ帰ろうかな」
「陽子も? 彼氏のところ?」
「そう。なんか仕事、終わったみたい」
陽子の返答に私が顔を緩ませていると、「なによ」と肩を小突かれる。
二人を玄関まで見送り、部屋に戻ろうとしたところで、「そういえば」と、ゆきちゃんが廊下の隅にあったダンボールの箱をたたいた。
「男の人がいるから頼んじゃおうかな。これ、組み立てて欲しいの。一人じゃできなくて」
その言葉を聞いて、男性二人は嬉々としてダンボールから部品を取り出していく。明日でいいと隣で必死に訴えるゆきちゃんの声はもう届いていないらしい。深夜だから音をたてないようにと殊更慎重に組み立てをする彼らは、汗をかいている。
その姿があまりに必死で真剣で、私とゆきちゃんは顔を見合わせて笑い出してしまった。
「あ~……暑い」
「広斗くん待ってね。さっきエアコンつけたから」
「もう二時やねぇ。みんな明日何も予定ないの?」
お酒がまわってきたのか、眠気が増してきたのか、いつもよりさらにゆっくりとした浩ちゃんの問いかけ。示し合わせたように三人が「ない」と答えると、矢野くんが続けて「映画見たい」と言い出した。
「なんか面白いのやってなかったっけ?」
「矢野くん、映画好きって言ってたもんね。何がいいかな」
「私、見たいのある!」
ゆきちゃんが目を輝かせた。彼女の手の中にあるスマホを一緒に覗き込みながら、池袋の映画館の上映時間を調べてみる。私たちがスマホに意識を集中させている間に、家具は完成したようだ。
「由紀恵ちゃん、明日何時やった?」
「お昼の会があるよ! 十二時半」
「つーか、今は何時?」
「二時半やね」
「もう寝たほうがいいよね。映画中に寝ちゃったら意味ないもん! お風呂入りたい人!」
ゆきちゃんの言葉に全員が手を挙げた瞬間、浩ちゃんの「じゃーんけーん」という掛け声がかかる。四人とも挙げた手をそのままに、勝負が始まった。
じゃんけんの結果だから仕方ない。それは仕方ないけれど、これは仕方ないでは済まされないと思われる。最後にシャワーを終えて廊下から部屋につながるドアを開けた先に広がるその光景。
ベッドの上にゆきちゃんと浩ちゃん。ベッド脇の布団に矢野くん。私が座る場所はどう見てもあそこにしかない。ただ隣に座るだけとはいえ、男の子と一緒の布団の上に行くことは躊躇われる。
私が意識しすぎているだけなのか。ゆきちゃんと浩ちゃんの二人が隣に座る姿はあまりに自然。自分を落ち着かせるように小さく息を吐き、矢野くんの隣までゆっくりと進み、何でもないような顔をしたまま腰を下ろした。
それでも、その近さに緊張してしまう自分がいる。床に置いていた左手に偶然彼の手が触れれば、また心臓が騒ぎ出してしまう。
(平常心、平常心)
そう唱えながらさりげなく動かした左手は自分でもわかるほどに震えていて、慌ててその手を握りしめた。
(寝るときになれば、さすがに男女別になるよね?)
それまで、我慢だ。胸の高鳴りを一生懸命静めながら、みんなの話に耳を傾けた。
「うち、来る? まだあんまり片付いてないけど」
池袋から歩ける距離に引っ越したばかりのゆきちゃんが、そう提案してくれた。
スーパーで買い込んだお酒を片手に、六人で夜道を歩く。新築マンションのゆきちゃんの部屋は、真っ白な壁と明るいフローリングが眩しいほどだった。
しばらく飲んでいると、憲吾がスマホを操作しながら「帰ろうかな」と口にする。
「タクシーで帰るの?」
「うん。ちょっと明日の午前中にやらなきゃいけないことがあってさ」
「私もそろそろ帰ろうかな」
「陽子も? 彼氏のところ?」
「そう。なんか仕事、終わったみたい」
陽子の返答に私が顔を緩ませていると、「なによ」と肩を小突かれる。
二人を玄関まで見送り、部屋に戻ろうとしたところで、「そういえば」と、ゆきちゃんが廊下の隅にあったダンボールの箱をたたいた。
「男の人がいるから頼んじゃおうかな。これ、組み立てて欲しいの。一人じゃできなくて」
その言葉を聞いて、男性二人は嬉々としてダンボールから部品を取り出していく。明日でいいと隣で必死に訴えるゆきちゃんの声はもう届いていないらしい。深夜だから音をたてないようにと殊更慎重に組み立てをする彼らは、汗をかいている。
その姿があまりに必死で真剣で、私とゆきちゃんは顔を見合わせて笑い出してしまった。
「あ~……暑い」
「広斗くん待ってね。さっきエアコンつけたから」
「もう二時やねぇ。みんな明日何も予定ないの?」
お酒がまわってきたのか、眠気が増してきたのか、いつもよりさらにゆっくりとした浩ちゃんの問いかけ。示し合わせたように三人が「ない」と答えると、矢野くんが続けて「映画見たい」と言い出した。
「なんか面白いのやってなかったっけ?」
「矢野くん、映画好きって言ってたもんね。何がいいかな」
「私、見たいのある!」
ゆきちゃんが目を輝かせた。彼女の手の中にあるスマホを一緒に覗き込みながら、池袋の映画館の上映時間を調べてみる。私たちがスマホに意識を集中させている間に、家具は完成したようだ。
「由紀恵ちゃん、明日何時やった?」
「お昼の会があるよ! 十二時半」
「つーか、今は何時?」
「二時半やね」
「もう寝たほうがいいよね。映画中に寝ちゃったら意味ないもん! お風呂入りたい人!」
ゆきちゃんの言葉に全員が手を挙げた瞬間、浩ちゃんの「じゃーんけーん」という掛け声がかかる。四人とも挙げた手をそのままに、勝負が始まった。
じゃんけんの結果だから仕方ない。それは仕方ないけれど、これは仕方ないでは済まされないと思われる。最後にシャワーを終えて廊下から部屋につながるドアを開けた先に広がるその光景。
ベッドの上にゆきちゃんと浩ちゃん。ベッド脇の布団に矢野くん。私が座る場所はどう見てもあそこにしかない。ただ隣に座るだけとはいえ、男の子と一緒の布団の上に行くことは躊躇われる。
私が意識しすぎているだけなのか。ゆきちゃんと浩ちゃんの二人が隣に座る姿はあまりに自然。自分を落ち着かせるように小さく息を吐き、矢野くんの隣までゆっくりと進み、何でもないような顔をしたまま腰を下ろした。
それでも、その近さに緊張してしまう自分がいる。床に置いていた左手に偶然彼の手が触れれば、また心臓が騒ぎ出してしまう。
(平常心、平常心)
そう唱えながらさりげなく動かした左手は自分でもわかるほどに震えていて、慌ててその手を握りしめた。
(寝るときになれば、さすがに男女別になるよね?)
それまで、我慢だ。胸の高鳴りを一生懸命静めながら、みんなの話に耳を傾けた。
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