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1章 春の予感
3話 熱を帯びる距離 4
「折り返さないの?」
「うん、いいの」
「なんで?」
「ちゃんとお別れしたの。矢野くんがアドバイスしてくれたように、ずるずるしないように」
一瞬、矢野くんの目が大きく見開かれた。次の瞬間、彼の大きな手が私の頭に置かれ、くしゃりと髪を撫でた。
「……そっか」
「え?」
「だから昨日、元気なかったのか」
「普通にしてたつもりなんだけどな……」
「お前は普段から猫かぶってるから、わかりづらいけど」
「猫!?」
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、髪を撫でる手は優しい。頬が熱くなるのを感じて視線を逸らすと、彼の腕が再び私の背中に回った。
「本当はね、すごくスッキリしたの。でも話し合いに疲れちゃった」
「簡単に別れられたら誰も苦労しないからな。でも、そんなに早くお前が行動するとは思わなかった。ま、次があるさ」
「そうだね。ありがとう!」
「おお」
「……ていうか、そろそろ離して」
「なんだよその言い方。そっちがくっついてきたくせに。元カレと別れる相談まで乗ってやったろ」
「それとこれとは違う!」
彼を睨んだ瞬間、その体の向こうからクスクスと楽しそうに笑い合う声が聞こえてきた。
「なぁなぁ、ゆき。俺らそろそろ起きやん? あそこでイチャついてる二人がいるけど、そろそろ邪魔したってええと思う」
「あは。浩ちゃん、ああいうのは邪魔したらダメよ。起きていないフリして、静かに見守ってあげなくちゃ。それが大人というものよ?」
「でも、あの二人、放っておいたらチューし始めるで」
「ちょっとお!」
「あ、バレた!」
「バレたじゃないよ! 起きてるなら、もっと早く言ってよ!」
勢いよく起き上がり叫んだのに、叫ばれた本人は人懐っこい顔で可愛い笑顔を作り出した。
「だってもう口挟めなかったんだもん」
「こうちゃん、標準語で言い訳しないの! どこから聞いてたの?」
「えっとね、なんで抱きしめてるの? あたりかな」
「すごい最初からじゃん!」
騒がしく言い合う私と浩ちゃんの間で、矢野くんは布団から抜け出し、ゆきちゃんに視線を向けた。
「由紀恵、風呂貸して。シャワー浴びたい」
「いいよ」
「ちょっと待ちなさい、そこ」
「俺、風呂」
私の呼びかけに足を止めずに、そそくさとお風呂に向かう矢野くん。その耳が、ほんの少し赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。
「ゆりちゃん、ええやん。広斗は恥ずかしいだけやで」
そうして、騒がしく過ぎていく日曜の昼。
起きて身支度を整えた私たち四人は、池袋の街に繰り出した。映画を見て、ゲームをして、ご飯を食べてお酒を飲んで。
なんだか、この四人でいるとくすぐったい。このくすぐったい気持ちがなんなのか、知りたいようで知りたくない。もう少しだけ、気付かないままこの時間を過ごしてみたい。私は、隣で笑う矢野くんに、同じように笑顔を返した。
「うん、いいの」
「なんで?」
「ちゃんとお別れしたの。矢野くんがアドバイスしてくれたように、ずるずるしないように」
一瞬、矢野くんの目が大きく見開かれた。次の瞬間、彼の大きな手が私の頭に置かれ、くしゃりと髪を撫でた。
「……そっか」
「え?」
「だから昨日、元気なかったのか」
「普通にしてたつもりなんだけどな……」
「お前は普段から猫かぶってるから、わかりづらいけど」
「猫!?」
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、髪を撫でる手は優しい。頬が熱くなるのを感じて視線を逸らすと、彼の腕が再び私の背中に回った。
「本当はね、すごくスッキリしたの。でも話し合いに疲れちゃった」
「簡単に別れられたら誰も苦労しないからな。でも、そんなに早くお前が行動するとは思わなかった。ま、次があるさ」
「そうだね。ありがとう!」
「おお」
「……ていうか、そろそろ離して」
「なんだよその言い方。そっちがくっついてきたくせに。元カレと別れる相談まで乗ってやったろ」
「それとこれとは違う!」
彼を睨んだ瞬間、その体の向こうからクスクスと楽しそうに笑い合う声が聞こえてきた。
「なぁなぁ、ゆき。俺らそろそろ起きやん? あそこでイチャついてる二人がいるけど、そろそろ邪魔したってええと思う」
「あは。浩ちゃん、ああいうのは邪魔したらダメよ。起きていないフリして、静かに見守ってあげなくちゃ。それが大人というものよ?」
「でも、あの二人、放っておいたらチューし始めるで」
「ちょっとお!」
「あ、バレた!」
「バレたじゃないよ! 起きてるなら、もっと早く言ってよ!」
勢いよく起き上がり叫んだのに、叫ばれた本人は人懐っこい顔で可愛い笑顔を作り出した。
「だってもう口挟めなかったんだもん」
「こうちゃん、標準語で言い訳しないの! どこから聞いてたの?」
「えっとね、なんで抱きしめてるの? あたりかな」
「すごい最初からじゃん!」
騒がしく言い合う私と浩ちゃんの間で、矢野くんは布団から抜け出し、ゆきちゃんに視線を向けた。
「由紀恵、風呂貸して。シャワー浴びたい」
「いいよ」
「ちょっと待ちなさい、そこ」
「俺、風呂」
私の呼びかけに足を止めずに、そそくさとお風呂に向かう矢野くん。その耳が、ほんの少し赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。
「ゆりちゃん、ええやん。広斗は恥ずかしいだけやで」
そうして、騒がしく過ぎていく日曜の昼。
起きて身支度を整えた私たち四人は、池袋の街に繰り出した。映画を見て、ゲームをして、ご飯を食べてお酒を飲んで。
なんだか、この四人でいるとくすぐったい。このくすぐったい気持ちがなんなのか、知りたいようで知りたくない。もう少しだけ、気付かないままこの時間を過ごしてみたい。私は、隣で笑う矢野くんに、同じように笑顔を返した。
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