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2章 曖昧な境界線
4話 名前のない関係 2
その言葉に私が頬を膨らませた瞬間、矢野くんのグループの先輩が突然笑い出す。
「なんか聞いてると笑える」
その言葉に愛想笑いを返そうとしたのも束の間、視線の端でゆっくりと首を振る人を捕らえた。
「こいつはうるさいだけですよ」
「うるさくはないでしょ」
「お前はうるさい。喋りすぎ」
「矢野くんが喋らなさすぎ!」
「広斗くん、ゆりちゃん、ケンカしな~い」
いつもどおり。向かいの席にいるゆきちゃんが、笑いながら私たちを宥めるというのがここ最近の定番。そして、これまたいつもどおり矢野くんはわざとらしく大きく溜息をついて、首を横に振る。
「由紀恵、これはケンカじゃない。こいつが絡んでくるだけ。俺は構ってやってるの」
「はい? どれだけ俺様ですか!?」
「俺様ってなんだよ。事実だろ。お前が構ってほしいって」
「言ってません! ひとっことも!」
私が激しく首を振ると、矢野くんが不機嫌そうな顔をして睨んでくる。それに対して再び頬を膨らませて対抗していると、ゆきちゃんのカラカラとした笑い声が聞こえた。
「もう。すぐそうやってぇ」
「由紀恵だって、こいつ見てたらわかるだろ?」
「えぇ……うん。まぁ」
「あ! ゆきちゃん味方にするのはずるいからね」
「俺はお前の事実を言ってるだけ」
「事実?」
「そうだろ」
「あのねぇ!」
「ウウンっ!」
私の反論は、先輩のわざとらしい咳払いに遮られた。
「先輩! 今は、私の大切な反論ターンなんですけど!」
「っていうかさ! 気になっちゃってしようがないんだけど、二人は実際どうなってるの?」
一瞬にして静まり返るオフィス。さっきまで色んな音で賑やかだったはずなのに、今は話し合う声もパソコンのキーボードを打つ音も聞こえてこない。そして、次の瞬間、わっと様々な声が飛ぶ。
「それ、とうとう聞くんだ!」
「俺も聞きたかった!」
「もうなんかさ、こっちがにやけてくるよね!」
「甘酸っぱい!」
あちこちから飛んでくる野次に、私と矢野くんは顔を見合わせ、ぎぎぎ、と油切れのロボットのように先輩の方へ向いた。
頭の中では甘酸っぱいというフレーズがやけに響いていた。
(甘酸っぱいってなに……)
「いや、新卒メンバー全員が仲良いんだろうなってのはわかってるんだけど。二人はやっぱり付き合ってるの?」
「いや……」
矢野くんも同じように「いや……」と呟く。けれど、先輩には届かなかったようで、目を輝かせている。
「だっていつもじゃれてるし。二人とも暗黙の了解のようにコーヒーとか買い合ってるし。なんなのよ、それ。なにも言わなくても通じ合っちゃうの?」
「コーヒー……」
「名前もさ、矢野は絶対に草下さんのこと呼ばないのね。その割に草下さんは『矢野くん』って呼ぶだろ? 他人行儀に。他の新卒メンバーは、矢野って呼び捨てか広斗って下の名前で呼ぶのに。わざとでしょ?」
先輩から繰り出される矢継ぎ早な質問に、だんだんと私の力が抜けていく。呆然とする私たちをそのままに、先輩はキラキラした笑顔を向ける。
(あ、なんか眩しい)
「なんか聞いてると笑える」
その言葉に愛想笑いを返そうとしたのも束の間、視線の端でゆっくりと首を振る人を捕らえた。
「こいつはうるさいだけですよ」
「うるさくはないでしょ」
「お前はうるさい。喋りすぎ」
「矢野くんが喋らなさすぎ!」
「広斗くん、ゆりちゃん、ケンカしな~い」
いつもどおり。向かいの席にいるゆきちゃんが、笑いながら私たちを宥めるというのがここ最近の定番。そして、これまたいつもどおり矢野くんはわざとらしく大きく溜息をついて、首を横に振る。
「由紀恵、これはケンカじゃない。こいつが絡んでくるだけ。俺は構ってやってるの」
「はい? どれだけ俺様ですか!?」
「俺様ってなんだよ。事実だろ。お前が構ってほしいって」
「言ってません! ひとっことも!」
私が激しく首を振ると、矢野くんが不機嫌そうな顔をして睨んでくる。それに対して再び頬を膨らませて対抗していると、ゆきちゃんのカラカラとした笑い声が聞こえた。
「もう。すぐそうやってぇ」
「由紀恵だって、こいつ見てたらわかるだろ?」
「えぇ……うん。まぁ」
「あ! ゆきちゃん味方にするのはずるいからね」
「俺はお前の事実を言ってるだけ」
「事実?」
「そうだろ」
「あのねぇ!」
「ウウンっ!」
私の反論は、先輩のわざとらしい咳払いに遮られた。
「先輩! 今は、私の大切な反論ターンなんですけど!」
「っていうかさ! 気になっちゃってしようがないんだけど、二人は実際どうなってるの?」
一瞬にして静まり返るオフィス。さっきまで色んな音で賑やかだったはずなのに、今は話し合う声もパソコンのキーボードを打つ音も聞こえてこない。そして、次の瞬間、わっと様々な声が飛ぶ。
「それ、とうとう聞くんだ!」
「俺も聞きたかった!」
「もうなんかさ、こっちがにやけてくるよね!」
「甘酸っぱい!」
あちこちから飛んでくる野次に、私と矢野くんは顔を見合わせ、ぎぎぎ、と油切れのロボットのように先輩の方へ向いた。
頭の中では甘酸っぱいというフレーズがやけに響いていた。
(甘酸っぱいってなに……)
「いや、新卒メンバー全員が仲良いんだろうなってのはわかってるんだけど。二人はやっぱり付き合ってるの?」
「いや……」
矢野くんも同じように「いや……」と呟く。けれど、先輩には届かなかったようで、目を輝かせている。
「だっていつもじゃれてるし。二人とも暗黙の了解のようにコーヒーとか買い合ってるし。なんなのよ、それ。なにも言わなくても通じ合っちゃうの?」
「コーヒー……」
「名前もさ、矢野は絶対に草下さんのこと呼ばないのね。その割に草下さんは『矢野くん』って呼ぶだろ? 他人行儀に。他の新卒メンバーは、矢野って呼び捨てか広斗って下の名前で呼ぶのに。わざとでしょ?」
先輩から繰り出される矢継ぎ早な質問に、だんだんと私の力が抜けていく。呆然とする私たちをそのままに、先輩はキラキラした笑顔を向ける。
(あ、なんか眩しい)
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