25 / 141
2章 曖昧な境界線
7話 揺さぶり 3
色気に絡めとられそうな自分に「しっかりしなさい」と言い聞かせて、その大きな瞳から目をそらす。でもその視線は定まらずに、右へ左へと彷徨っているだけ。
私の動揺なんて見透かしているかのように、楽しそうに引き上げる唇が視界に入る。それにまた反応するように頬が熱くなるのがわかるけれど、自分ではどうしようもない。そんな私のことなんて、きっとすべて彼は分かっているんだと思う。
だって、その証拠に、ほら。喉の奥でくっと笑いをかみ殺した。
「そう、嫌いじゃないんだ。よかった。じゃあ、試してみる?」
「……はい?」
「今日から一週間、泊まりにおいでよ。いつも終電で辛いでしょ? 家遠いから朝も早いだろうし。それに、俺を知ってほしいんだよね」
香取さんは、その端整な顔に無邪気な笑みを浮かべて、とんでもないことを言う。呆気に取られた私は、口をぽかんと開けたまま。毎度のことながら、その顔で微笑みかけるのはやめてほしい。
(本当にもう……綺麗です)
「香取さんなにを言ってるんですか。本当にいつもそういう冗談ばっかり。からかいすぎです」
「からかってないよ」
「そのお顔で、セクハラと言われないと思ってますね」
何が面白かったのか、香取さんは突然吹き出して笑い始めた。顔を少しだけ赤くしながら机に突っ伏す姿はあまり見られないもの。
「ん~た、確かに……ククっ……自分から誘わないからかな」
「暗に誘われると言ってますね」
「手厳しいね。まあ、否定はしないけど」
椅子を香取さんに向けて、真正面から彼をとらえると、彼は虚をつかれたように目を少しだけ見開いた。
「香取さん、いいですか。私は遊びには付き合いません。興味ありません。ちゃんと恋したいんです」
「……恋?」
「そうですよ。私、浮気した元カレとやっと終わったところなんです。だから——」
「——仕事を頑張るって?」
「いえ、仕事も恋も頑張ります! 恋が終わって、それを諦めるなんて勿体無いじゃないですか。仕事も恋も全力です!」
香取さんの薄茶のビー玉みたいな瞳が、オフィスの灯りを取り込んで揺らめいている。顎を数度ゆっくりとさすった指が、デスクを軽く叩く。
「わかった」
「じゃあ——」
「真剣であればいいんでしょ? まず俺を知ってもらうのが一番だと思う」
「私、特に知りたくありません」
「あ、ひどいな」
「ひどくありません」
「俺、割と真剣に言ってるんだけど」
「信じられません」
私がどれだけ否定の言葉を並べても香取さんには全然効いていないみたいで、甘ったるい笑顔を返されるだけ。
「本当だよ。一緒に仕事をしていて、ゆりちゃんのこといいなと思ったんだ。一生懸命なところも、周りに気を使うところも」
香取さんがその大きな目で見つめてくるから、囚われたように、私は視線をそらすことができない。
「でも、俺の一方的な気持ちだってわかってる」
「あの……」
「だから、俺のことを知ってもらうためにまずは一週間。このプロジェクトが終わったら会う機会ないし、プロジェクト中も毎日この時間だから、話す時間ないでしょ?」
「そう、ですけど」
「かなり強引なのはわかってるけど、考えてみて欲しい」
私の動揺なんて見透かしているかのように、楽しそうに引き上げる唇が視界に入る。それにまた反応するように頬が熱くなるのがわかるけれど、自分ではどうしようもない。そんな私のことなんて、きっとすべて彼は分かっているんだと思う。
だって、その証拠に、ほら。喉の奥でくっと笑いをかみ殺した。
「そう、嫌いじゃないんだ。よかった。じゃあ、試してみる?」
「……はい?」
「今日から一週間、泊まりにおいでよ。いつも終電で辛いでしょ? 家遠いから朝も早いだろうし。それに、俺を知ってほしいんだよね」
香取さんは、その端整な顔に無邪気な笑みを浮かべて、とんでもないことを言う。呆気に取られた私は、口をぽかんと開けたまま。毎度のことながら、その顔で微笑みかけるのはやめてほしい。
(本当にもう……綺麗です)
「香取さんなにを言ってるんですか。本当にいつもそういう冗談ばっかり。からかいすぎです」
「からかってないよ」
「そのお顔で、セクハラと言われないと思ってますね」
何が面白かったのか、香取さんは突然吹き出して笑い始めた。顔を少しだけ赤くしながら机に突っ伏す姿はあまり見られないもの。
「ん~た、確かに……ククっ……自分から誘わないからかな」
「暗に誘われると言ってますね」
「手厳しいね。まあ、否定はしないけど」
椅子を香取さんに向けて、真正面から彼をとらえると、彼は虚をつかれたように目を少しだけ見開いた。
「香取さん、いいですか。私は遊びには付き合いません。興味ありません。ちゃんと恋したいんです」
「……恋?」
「そうですよ。私、浮気した元カレとやっと終わったところなんです。だから——」
「——仕事を頑張るって?」
「いえ、仕事も恋も頑張ります! 恋が終わって、それを諦めるなんて勿体無いじゃないですか。仕事も恋も全力です!」
香取さんの薄茶のビー玉みたいな瞳が、オフィスの灯りを取り込んで揺らめいている。顎を数度ゆっくりとさすった指が、デスクを軽く叩く。
「わかった」
「じゃあ——」
「真剣であればいいんでしょ? まず俺を知ってもらうのが一番だと思う」
「私、特に知りたくありません」
「あ、ひどいな」
「ひどくありません」
「俺、割と真剣に言ってるんだけど」
「信じられません」
私がどれだけ否定の言葉を並べても香取さんには全然効いていないみたいで、甘ったるい笑顔を返されるだけ。
「本当だよ。一緒に仕事をしていて、ゆりちゃんのこといいなと思ったんだ。一生懸命なところも、周りに気を使うところも」
香取さんがその大きな目で見つめてくるから、囚われたように、私は視線をそらすことができない。
「でも、俺の一方的な気持ちだってわかってる」
「あの……」
「だから、俺のことを知ってもらうためにまずは一週間。このプロジェクトが終わったら会う機会ないし、プロジェクト中も毎日この時間だから、話す時間ないでしょ?」
「そう、ですけど」
「かなり強引なのはわかってるけど、考えてみて欲しい」
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する
猫とろ
恋愛
あらすじ
青樹紗凪(あおきさな)二十五歳。大手美容院『akai』クリニックの秘書という仕事にやりがいを感じていたが、赤井社長から大人の関係を求められて紗凪は断る。
しかしあらぬ噂を立てられ『akai』を退社。
次の仕事を探すものの、うまく行かず悩む日々。
そんなとき。知り合いのお爺さんから秘書の仕事を紹介され、二つ返事で飛びつく紗凪。
その仕事場なんと大手老舗化粧品会社『キセイ堂』 しかもかつて紗凪の同級生で、罰ゲームで告白してきた黄瀬薫(きせかおる)がいた。
しかも黄瀬薫は若き社長になっており、その黄瀬社長の秘書に紗凪は再就職することになった。
お互いの過去は触れず、ビジネスライクに勤める紗凪だが、黄瀬社長は紗凪を忘れてないようで!?
社長×秘書×お仕事も頑張る✨
溺愛じれじれ物語りです!
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。