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2章 曖昧な境界線
12話 大人の表情 1
◇
窓からは池袋の夜景が見える。そんな素敵なオフィスで、黙々と進めるパソコンのセットアップ作業。手間がかかる上に時間もかかるこの作業に求められるのは忍耐強さ。
「香取さん、このインストール作業ってフロア全部のパソコンに?」
「そうだね。昼間にシステムチームがやってくれたから、残り五十台くらいかな」
「ごじゅ……」
思わず机に突っ伏した。もう夜の二十二時だというのに、あと五十台。突っ伏した私の横で、香取さんがクスクスと笑いだした。
「でもゆりちゃん、今日は終電までには帰りな。着替えないと」
「そうですね」
「それに、今日も矢野くんのところに泊めたくない」
「……それ、答えづらい」
今度は私がクスクスと笑う番。
「なにを笑ってるの」
香取さんは作業の手を止め、わざとらしく唇を尖らせてみせた。さっきまでの妖艶な上司はどこへやら。まるで少年のような表情だ。
「俺はまじめに話してるのに。やっぱり余裕があるのはゆりちゃんの方だよ」
「そんなことないですよ」
「……矢野くん、なにか言ってた?」
「あはは。まぁ、怒られました」
「へえ、付き合ってないのに?」
香取さんが不敵な笑みを浮かべる。
「もっとしっかりしろって。昨日、香取さんにつけこまれているように見えたみたいで」
「告白して、ちょっと口説いてただけなのになぁ」
「あ、告白されてたんですね。私」
「うわ、ひどいな。やっぱり、ゆりちゃんの方が余裕でしょ」
仕事中はいつも大人で上司の顔しか見せない香取さん。拗ねたように話すところがなんか可愛い。こういう彼を見ていると、女性にモテるんだろうなとわかる。ツボを心得ているというか、「扱い」を知っているというか、どうしたら女性が喜ぶかを知っているんだと思う。
仕事を一緒にしていれば嫌でもできる男を感じさせて、二人きりになると妖しげに口説いてきて大人の色気を醸し出す。そして、時々はこうやってちょっと甘えてきて、可愛いと思わせる。
こんな風にぐらんぐらんと揺さぶられれば、そのとおりにぐらんぐらんと揺れ動いてしまうのが乙女心。
でも、私が気になるのはやっぱり広斗の気持ちで、広斗はどういうつもりなんだろうとか、どうしてあんなことを言うんだろうとか、私のことをどう思っているんだろうとか、聞きたいことを挙げれば切りがない。はっきりと言って欲しい。教えてほしい。
私のことを好きなのか、それとも好きじゃないのか。
窓からは池袋の夜景が見える。そんな素敵なオフィスで、黙々と進めるパソコンのセットアップ作業。手間がかかる上に時間もかかるこの作業に求められるのは忍耐強さ。
「香取さん、このインストール作業ってフロア全部のパソコンに?」
「そうだね。昼間にシステムチームがやってくれたから、残り五十台くらいかな」
「ごじゅ……」
思わず机に突っ伏した。もう夜の二十二時だというのに、あと五十台。突っ伏した私の横で、香取さんがクスクスと笑いだした。
「でもゆりちゃん、今日は終電までには帰りな。着替えないと」
「そうですね」
「それに、今日も矢野くんのところに泊めたくない」
「……それ、答えづらい」
今度は私がクスクスと笑う番。
「なにを笑ってるの」
香取さんは作業の手を止め、わざとらしく唇を尖らせてみせた。さっきまでの妖艶な上司はどこへやら。まるで少年のような表情だ。
「俺はまじめに話してるのに。やっぱり余裕があるのはゆりちゃんの方だよ」
「そんなことないですよ」
「……矢野くん、なにか言ってた?」
「あはは。まぁ、怒られました」
「へえ、付き合ってないのに?」
香取さんが不敵な笑みを浮かべる。
「もっとしっかりしろって。昨日、香取さんにつけこまれているように見えたみたいで」
「告白して、ちょっと口説いてただけなのになぁ」
「あ、告白されてたんですね。私」
「うわ、ひどいな。やっぱり、ゆりちゃんの方が余裕でしょ」
仕事中はいつも大人で上司の顔しか見せない香取さん。拗ねたように話すところがなんか可愛い。こういう彼を見ていると、女性にモテるんだろうなとわかる。ツボを心得ているというか、「扱い」を知っているというか、どうしたら女性が喜ぶかを知っているんだと思う。
仕事を一緒にしていれば嫌でもできる男を感じさせて、二人きりになると妖しげに口説いてきて大人の色気を醸し出す。そして、時々はこうやってちょっと甘えてきて、可愛いと思わせる。
こんな風にぐらんぐらんと揺さぶられれば、そのとおりにぐらんぐらんと揺れ動いてしまうのが乙女心。
でも、私が気になるのはやっぱり広斗の気持ちで、広斗はどういうつもりなんだろうとか、どうしてあんなことを言うんだろうとか、私のことをどう思っているんだろうとか、聞きたいことを挙げれば切りがない。はっきりと言って欲しい。教えてほしい。
私のことを好きなのか、それとも好きじゃないのか。
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