社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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3章 蜜月

14話 最強の相棒 4

 お昼休憩後に訪れた穏やかな時間。それはある意味危険な時間ともいえるわけで。

「やばいな」

 そう言いながら広斗が目をこする。

「本当に。前哨戦でこれか」

 メンバー全員が船をこぐ状態で、朦朧とするほどの睡魔と闘っていた。目の前に映る数字だけの画面が、私に眠れと言っている。画面に出てくる集計結果のデータをしっかり見ようとすればするほど、ぼやけてきて、何度となく頭がかくんと落ちる。

「明らかに昼飯が背中を押してる」

「わかる。しんどいね。昨日やっぱり早く寝ればよかった」

「ちょっとマネージャー、マッサージして」

「私、広斗のマネージャーじゃありません。マネージャーは高校の頃の話です」

「いいから早く」

 そう言った広斗はすでに目を閉じて、姿勢を正しマッサージを受ける体勢になっている。両腕を横に伸ばすから、私の体に何度も当たる。

「ちょっと、やめてよ」

「マッサージ」

「邪魔なんですけど。この手」

「早く。マッサージ」

 マイペースとはこういう人のこと。私だって眠いっていうのに。頭の中では文句を並べつつも、結局立ち上がる。やっぱりいつもどおり、広斗の言うことを聞いてしまう。

「高いよ」

 渋々肩のマッサージを始めると、みんなの視線を感じて顔を上げた。一様に笑っていて、なんだか変な感じだ。注目されていることを感じて、頬に熱が集まっていく。

「なに?」

「いやなんでも。仲いいなぁと思って」

 やっぱりその、その変な生温かい笑いはなんか嫌。

「いいねぇ。楽しそう!」

「楽しくなんか」

「照れない照れない。ゆり、すぐ顔に出るからな」

 頬に熱が集中していることを自分でも感じるだけに、なにも言い返せなくて、ただ、自分の頬を隠すように両手で覆った。ちらっと広斗を見ると、広斗はニヤつきながら頷いていて、その顔にムカッとくる。

「もう。広斗もなんか言ってよ」

「別に」

「別に?」

「お前が狼狽えすぎ」

 広斗の言葉に恥ずかしさが増して、また更に腹が立って、手を振り上げて広斗の頭に降り下ろした。

「いっ、お前、何すんだよ」

「広斗が悪い」

「……俺、もっとおしとやかな女が良かった」

「広斗に言われてマッサージしてあげるなんておしとやかでしょ」

「おしとやかと違う。まぁ、お前で我慢するけど」

「我慢!?」

「お前じゃなくてもいいけど、いないから我慢する」

「もうマッサージしない。広斗のバカ」

 思い切り顔を背けば、聞こえてくるメンバーの笑い声。

「矢野。嫌われちゃうよ?」

 先輩の呆れた声に続いて、香取さんが「ゆりちゃん」とにこやかに私を呼ぶ声がした。

「ゆりちゃん、俺もマッサージしてほしいな。ゆりちゃんに。矢野くんは誰でもいいらしいからさ」

「はい、いいですよ」

 香取さんのデスクに向かう私の後ろで、先輩が「ほらな」と笑う。


 会話もままならないほどに、再び慌ただしくなったその後。本部が解散したのは、いつもの終わり時間より早く七時少し前。眠気で朦朧とした頭を抱えながら、電車に揺られ、家に着いた瞬間、ベッドに倒れるようにして転がった。でも、どれだけ疲れていても、やっぱりプロジェクトは楽しくて。

 一か月後の本番も成功しますように。そう願いながら、私は眠りについた。
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