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3章 蜜月
16話 深まる夜 1
◇
細長いテーブルが二つ並んだ大きめの個室に案内されて、両側に適当に分かれて腰を下ろしていく。私は右隣にいる陽子や目の前の憲吾と話しながらも、心ここにあらず。その原因はよくわかっている。もう、それしか気にならない。
「なんだよ、南野。やめろって」
「だってすごい筋肉。やっぱり野球?」
「まぁ、そうだけど。くすぐったいから離せよ」
「私、筋肉つかないから羨ましい!」
私の左隣には広斗がいて、またその隣には楽しそうに笑顔で話す南ちゃんがいて、広斗の腕を触っている。嬉しそうに見えるのは私の勝手な思いがあるからだろうか。その楽しげな会話がどうしても気になって聞いてしまう。
広斗の特別な存在だと心のどこかで思っていた自分が恥ずかしくて、どこか情けなくて頭の中が絡まっていく。
黙っていても、話していても胸のざわつきはなくなってくれなくて、なんだかずっと息苦しい。いつもなら、そこにいるのは私のはずなのに。そして、私はその気持ちを紛らわすように、お酒に逃げた。目の前には憲吾が座っていて、珍しく飲みたがる私にどんどんお酒を注いでくれる。
「ゆり、ちょっとペース早すぎない? 大丈夫?」
グラスを持っている私の手に自分の手を重ねて、陽子が心配そうに覗き込む。
「野原、お前も飲めよ! 今日はみんなで酔っぱらおうぜ!」
「え? 私も?」
「そうだよ! 陽子も。って、憲吾も飲んでないじゃん!」
「おお! 俺も飲む!」
止めに入ったはずの隣にいた陽子も巻き込み、三人でお酒を飲んでいく。本来なら三杯も飲まない私は、少しずつ意識が遠のいていく感覚を覚えた。絶対飲まないはずの日本酒を三人でとめどなく飲んでいく。何杯飲んだかなんて、もう覚えてない。
「おい、いい加減にしろ」
隣から腕が伸びてきて突然グラスを取り上げられる。広斗が高く上げたグラスを取り返そうとしたけれど、しっかりと見えているはずなのに、なかなかグラスに手が届かない。広斗が高いところに掲げているからなのか、私の狙いがちゃんと定まっていないのか。
「なにするの。まだのむんだから」
「お前飲みすぎ。酒強くないだろ。呂律も回ってない」
「あとそれだけ。それのんだら、かえる!」
「もうダメ。水飲んでろ」
そう言って、お酒が入ったグラスの代わりに水をよこす広斗。その向こうで、南ちゃんが目を細めて首を傾げる。
「ゆりはお酒弱いもんね。大丈夫? どうしたの? そんなにお酒飲みたいなんて珍しいじゃない」
「本当だよ、弱いくせに。もう飲むなよ」
誰のせいで飲んでいると思っているんだと言えたら、いっそのこと清々しい。でも、そんなことができるはずもなくて、渋々水を受け取る。
細長いテーブルが二つ並んだ大きめの個室に案内されて、両側に適当に分かれて腰を下ろしていく。私は右隣にいる陽子や目の前の憲吾と話しながらも、心ここにあらず。その原因はよくわかっている。もう、それしか気にならない。
「なんだよ、南野。やめろって」
「だってすごい筋肉。やっぱり野球?」
「まぁ、そうだけど。くすぐったいから離せよ」
「私、筋肉つかないから羨ましい!」
私の左隣には広斗がいて、またその隣には楽しそうに笑顔で話す南ちゃんがいて、広斗の腕を触っている。嬉しそうに見えるのは私の勝手な思いがあるからだろうか。その楽しげな会話がどうしても気になって聞いてしまう。
広斗の特別な存在だと心のどこかで思っていた自分が恥ずかしくて、どこか情けなくて頭の中が絡まっていく。
黙っていても、話していても胸のざわつきはなくなってくれなくて、なんだかずっと息苦しい。いつもなら、そこにいるのは私のはずなのに。そして、私はその気持ちを紛らわすように、お酒に逃げた。目の前には憲吾が座っていて、珍しく飲みたがる私にどんどんお酒を注いでくれる。
「ゆり、ちょっとペース早すぎない? 大丈夫?」
グラスを持っている私の手に自分の手を重ねて、陽子が心配そうに覗き込む。
「野原、お前も飲めよ! 今日はみんなで酔っぱらおうぜ!」
「え? 私も?」
「そうだよ! 陽子も。って、憲吾も飲んでないじゃん!」
「おお! 俺も飲む!」
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「おい、いい加減にしろ」
隣から腕が伸びてきて突然グラスを取り上げられる。広斗が高く上げたグラスを取り返そうとしたけれど、しっかりと見えているはずなのに、なかなかグラスに手が届かない。広斗が高いところに掲げているからなのか、私の狙いがちゃんと定まっていないのか。
「なにするの。まだのむんだから」
「お前飲みすぎ。酒強くないだろ。呂律も回ってない」
「あとそれだけ。それのんだら、かえる!」
「もうダメ。水飲んでろ」
そう言って、お酒が入ったグラスの代わりに水をよこす広斗。その向こうで、南ちゃんが目を細めて首を傾げる。
「ゆりはお酒弱いもんね。大丈夫? どうしたの? そんなにお酒飲みたいなんて珍しいじゃない」
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