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3章 蜜月
16話 深まる夜 2
私たちのやり取りを黙って見ていた憲吾が、「おい、草下」って声を潜めて私を呼んだ。
「なあに?」
「飲みたいんだろ? ほら」
ニシシって笑いながらお酒が入ったグラスを差し出す。
「草下がこんなに飲むなんて珍しいだろ。飲みたいなら飲めって」
「けんご、ありがとう」
広斗に飲むなと言われたことが引っ掛かり、お酒に口をつけようか迷っていたら、隣から小さな会話が聞こえてきた。
「広斗。この飲み会の後、広斗の家行っていい? まだ飲み足りないから、飲み直したいな」
「……あぁ……そうだな」
南ちゃんの誘いを普通に承諾する広斗。それに、いつの間にか変わった呼び名。広斗の気持ちは私のものじゃないのに、どうしてもイラついてしまう。そして、イラついている自分に更に嫌気がさす。私はグラスに入っているお酒を一気に飲み干そうとした。その瞬間。
「いたっ」
「お前、飲むなって言っただろ」
グラスごと私の手を掴む広斗。その手にはきっとそんなに力は入っていないけれど、なぜか痛くて。
「もうなんでひろと……て、いたい」
「広斗、ゆりだって飲みたいときがあるのよ」
「お前はなんでそんなに飲んでんの?」
「みなみちゃんの言うとおり、ちょっとのみたいだけ。ひろとにはかんけいない」
「関係ないことあるか。酔っ払いすぎだ。もう帰れ」
「な、なんで……なんでひろとに」
目の前のグラスが滲んでぼやける。情けなくも、泣きそうだ。
「……トイレいく」
それが溢れ落ちる前に、そそくさと立ち上がり、部屋を出る。居酒屋のトイレで、真っ赤な顔をした自分と見つめ合う。
「なにしてんだろ」
自分の情けなさに更に涙が出てくる。広斗の言動に一喜一憂して、期待して、挙句勝手にヤキモチを妬いて。こんな状態なら、広斗の言う通り帰った方がいい。
席に戻ると、広斗の姿が見えず少しほっとした。先に帰るとだけ告げて、私はその場を後にする。壁をつたって歩き、靴を取り出して地面に置いた瞬間、後ろから「おい」という声が届いた。
「帰れんの? なんでなにも言わないで帰るんだよ」
「さっき、ひろといなかった、から」
広斗の方を見ることができない。今、広斗を見たらきっと泣いてしまう。
靴を履き終わったものの、広斗の方を振り返ることもできずにそのまま俯いていると、後ろから溜息が聞こえてきた。
「で、お前はなにを怒ってんの?」
「おこってない」
「怒ってないなら、なんで俺の方見ないの?」
「おこってないってば。かえるね」
「待てって。話終わってないだろ」
私の肩を掴んで無理やり自分の方へ向かせた広斗が息をのんだのがわかった。
「なあに?」
「飲みたいんだろ? ほら」
ニシシって笑いながらお酒が入ったグラスを差し出す。
「草下がこんなに飲むなんて珍しいだろ。飲みたいなら飲めって」
「けんご、ありがとう」
広斗に飲むなと言われたことが引っ掛かり、お酒に口をつけようか迷っていたら、隣から小さな会話が聞こえてきた。
「広斗。この飲み会の後、広斗の家行っていい? まだ飲み足りないから、飲み直したいな」
「……あぁ……そうだな」
南ちゃんの誘いを普通に承諾する広斗。それに、いつの間にか変わった呼び名。広斗の気持ちは私のものじゃないのに、どうしてもイラついてしまう。そして、イラついている自分に更に嫌気がさす。私はグラスに入っているお酒を一気に飲み干そうとした。その瞬間。
「いたっ」
「お前、飲むなって言っただろ」
グラスごと私の手を掴む広斗。その手にはきっとそんなに力は入っていないけれど、なぜか痛くて。
「もうなんでひろと……て、いたい」
「広斗、ゆりだって飲みたいときがあるのよ」
「お前はなんでそんなに飲んでんの?」
「みなみちゃんの言うとおり、ちょっとのみたいだけ。ひろとにはかんけいない」
「関係ないことあるか。酔っ払いすぎだ。もう帰れ」
「な、なんで……なんでひろとに」
目の前のグラスが滲んでぼやける。情けなくも、泣きそうだ。
「……トイレいく」
それが溢れ落ちる前に、そそくさと立ち上がり、部屋を出る。居酒屋のトイレで、真っ赤な顔をした自分と見つめ合う。
「なにしてんだろ」
自分の情けなさに更に涙が出てくる。広斗の言動に一喜一憂して、期待して、挙句勝手にヤキモチを妬いて。こんな状態なら、広斗の言う通り帰った方がいい。
席に戻ると、広斗の姿が見えず少しほっとした。先に帰るとだけ告げて、私はその場を後にする。壁をつたって歩き、靴を取り出して地面に置いた瞬間、後ろから「おい」という声が届いた。
「帰れんの? なんでなにも言わないで帰るんだよ」
「さっき、ひろといなかった、から」
広斗の方を見ることができない。今、広斗を見たらきっと泣いてしまう。
靴を履き終わったものの、広斗の方を振り返ることもできずにそのまま俯いていると、後ろから溜息が聞こえてきた。
「で、お前はなにを怒ってんの?」
「おこってない」
「怒ってないなら、なんで俺の方見ないの?」
「おこってないってば。かえるね」
「待てって。話終わってないだろ」
私の肩を掴んで無理やり自分の方へ向かせた広斗が息をのんだのがわかった。
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