社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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3章 蜜月

18話 独占欲の夜 2

 結局、香取さんの顔を見ることもできずに、オフィスのドアが閉まり、エレベーターの前でようやく手が離された。平然とした顔でエレベーターを待つ広斗にむっとして、頬を膨らませる。

「もう、広斗。私、挨拶ちゃんとしていないよ」

「お疲れ様でしたって言えただろ」

「あれじゃ、ちゃんとした挨拶になっていないでしょ!」

 私がめげずに言い返すと、なぜか広斗からいじけているような視線を向けられる。こちらを横目で見て、またエレベーターの表示に視線を戻した。

「あっそ。じゃあ挨拶してくれば? 俺、帰る」

「……なんで、そんな意地悪言うの?」

「お前が隙ありすぎ」

「別に普通にしてるだけだよ」

「その普通が危なっかしいって言ってんの」

 なにをそんなに怒ることがあるの。挨拶くらいで隙もなにもないのにと思うものの、またそれを言えば、言い合いになる気がして口を閉ざした。広斗は拗ねているような、怒っているような顔をしていて、こちらを見ようともしてくれない。それが寂しくて、私は甘えるように広斗の腕を掴む。

「広斗、ごめんね。ありがとう」

 広斗の腕を掴んでいる手をそのままに、もう一方の手で、広斗の手を握る。こちらを見てくれないままだったけれど、その手がしっかりと握り返してくれたから、私は一歩距離を縮めて広斗を見上げる。

「今日、泊まっていいの?」

「高いよ」

「え、自分から言ったくせに」

「しょうがねえな。行くか」

 本当になんでも上からなんだから。でも、やっと笑ってくれた広斗に胸をなでおろして、タクシーに乗りこんだ。平日には泊まらないと誓ったばかりだけど、そんなことを言っている場合でもない。





 もう四時近い。あと三時間で起きなければいけない。現実はやはり厳しい。そんなことを考えながら一緒にベッドに入って数分後、広斗が不機嫌そうな声を上げる。

「こっち向けよ。なんで背中向けてんの?」

「嫌です」

「嫌?」

「今日はもう寝ようよ」

「こっち向いて寝ればいいだろ」

「絶対ダメ。広斗、危険」

「警戒してんの? なにかされると思ってる?」

「ち、違うよ!」

 思わず広斗の方を向いた途端、捕獲された。広斗が覆いかぶさり、私の両手首を枕元で押さえ込む。

「なにもしないんでしょ」

「俺、そんなこと言ってないだろ」

「でも……もう三時間しか寝られないよ?」

「俺は大丈夫」

「私が大丈夫じゃない」

「仕事なら手伝ってやる。あんな風に警戒されると逆にしたくなる」

 広斗に借りた服は大きくて、その手がスルスルと中に入り込む。

「ねぇ、広斗っ……ダメだってば」

 両手で広斗の肩を押しても、びくともしない。私の言葉なんて聞いていない。

「香取さんの前であんな顔するお前が悪い」

「え?」

 広斗は私の唇を塞いだ。

 睡眠時間は二時間。明日の地獄は確定したけれど、今は彼の熱が大きすぎて私は身を委ねた。
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