社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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3章 蜜月

21話 サプライズ大作戦 2

 席に着くと、再び静かに業務をスタートさせた。定時で上がるためには、一分の無駄も許されない。その気迫は周りにも伝染し、全員が無言となったオフィスで、とても静かな一日が過ぎていく。

 六時になると同時にアルバイトスタッフを見送って、私たち準備チームが帰り支度を始める。頭を上げた広斗の視線が、パソコンをシャットダウンしている私に移ったことがわかり、右半身が緊張する。

「お前、もう行くの?」

「そろそろね」

「七時からだろ? あと一時間あるぞ」

「いいの。歯ブラシとか色々買ってくるから」

「泊まる道具なら、その袋に入ってるんじゃないの?」

 広斗の家に行くときにいつも持っている袋を指差される。お泊りセットが入っていると話した時のことを覚えているらしい。

「……た、足りないのがあるの」

「……まぁ、行ってらっしゃい」

 この広斗の目。絶対にばれている。私は、その目から逃げるようにして早々とオフィスを後にした。

 五人が合流し、もう一度役割を確認すると、すぐに自分の担当場所に向かう。プレゼントを担当する私が向かった先では、自分の腰ほどの高さがある箱が待ち受けていた。

 私の手には、既に鞄が二つ、紙袋が一つ。お店の人が、「やっと入荷したんですよ」と笑う。広斗が大好きな映画のグッズらしい。中身は知らないけれど、この大きさは一体なんだ。持ち上げてみると、大きさだけではなく重さも十分にある。

「誰だ! これを買ったのは!」

 注文の控えをバッグの中から取り出してみると、そこには牧野憲吾と書かれていた。

「憲吾ぉぉお! これ中身なに!? 鉄アレイ!?」

 箱には『ワイルド・スピード』のロゴ。まさか、タイヤとか入ってるのではと思えてくるほどに重すぎる。私の腕がもげる。

 その重さと大きさでほとんど持ち上がらない。池袋の街をよたつきながら歩いていく。サンシャイン通りに出たところで、一度箱を下ろした。息を整えながら紙袋の状態を確認してみると、それは先程手渡された時のままの状態を保っているようだ。

 シンプルな白い袋の中には、プレゼントのネクタイ。少し前に一緒に買い物に行ったときに、広斗が欲しいと言っていたもの。夏を過ぎれば、本配属。広斗の希望通り営業に配属されれば、ネクタイを毎日のようにすることになる。そのときに使ってほしいから。

 息は切れ、腕が軋むように痛み始める。ほんとうに「やっと」という思いでお店に着き、扉を開けると、そこでは準備チームとお店の責任者が打合せ中。

「ちょっと憲吾! このプレゼントなんなの!」

「え?」

 私の言葉にこちらを見た憲吾が大きく目を見開いた。

「なにそれ、でかい!」

「本当だよ! こんなもの持たせないでよ!」

「電話くれれば、迎えに行ったのに」

「……必死すぎて考えてなかった」

「あはは! それにしてもでかいな。在庫がないっていうから注文したんだけど、あいつこれ持って帰るの?」

「タクシーで帰るんじゃない? ねぇ、ゆり」

「……知らない」

「今日泊まりに行くくせに! 恥ずかしがっちゃって」

「ほら、打合せ! 打合せしようよ!」

 陽子にからかわれて、身体が一気に汗ばむ。その会話を振り切るように、打合せを再開させた。みんなの会話を聞きながら、昨日の広斗からの電話を思い出す。
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