社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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3章 蜜月

23話 二人の約束 2

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◇◇◇

 七月二十日(土)

 土曜日の朝、私たちはお昼頃に起きた。私は広斗の様子を窺いながら、それでも我慢できずに話しかける。

「広斗、やっぱりお母様と話して来たら?」

「いいよ、放っておく」

「私が気まずい……」

「気にすんな」

 広斗に小さな反抗を試みているこの数十分。絶対に広斗は動く気がないとわかっていても、口に出さずにはいられない。どうやら広斗は本当に家族と仲が悪いらしい。親とは仲が悪いと断言する。

 だから、両親が住む母屋ではなく、離れに一人で住んでいる。

 行き来は自由だけど、親は一切来ないとずっと前に言っていた。同期で初めて遊びに来た時も、挨拶にいこうとした私たちに「いらない」と一言。その言い方でみんなも色々察したようで、挨拶イベントはすぐになくなった。

 それなのに——。夜中の出来事を思い出し、私は再び盛大な溜め息をつく。

 昨日は、業務を終えた後、二人で広斗の家に帰った。お風呂もあがり、私たちはビールを飲みながら、プロジェクト本番に一緒に働いてもらうスタッフ採用について話し合っていた。

「お前の担当エリアの採用どうなの?」

「中々いないよ。当日まじめに働いてもらえれば、それでいいんだけど」

「この前、俺のエリアで採用したメンバーそっちに渡しただろ? あれは?」

「千葉は遠いからって何人か断られちゃって。また来週面接があるから、そこで決めないと」

「面接官は大変だな」

「……広斗、あなた自分が終わったからって」

「担当は多いけど、応募者が他の倍いるから楽だった。あ、来週提出の資料終わった?」

「うん。あの資料は終わったよ。うちのスタッフさん優秀ですから」

「確かに、お前のところのスタッフはかなり優秀だよな。んで、賑やか。一番話しててうるさいチームなのに、仕事が一番早いっていう」

「確かにみんな優しいし、仲良しだし。ありがたい、本当」

「お前がいなくても大丈夫だろ」

「ええ、優秀ですから。私なんていなくても」

 そうして広斗と話していたら、突然扉の開く音が耳に届く。

 今まで何度となくこの家に来てはいたけど、誰かが入ってくることなんて一度もなかった。ドアの方に恐る恐る視線を移すと、女性が驚いて立ち尽くしている。

「あ……」

 ドアの方を見たまま、唖然としてしまった。ドアのところで立ち尽くすその女性も私を見て、口から「あ……」と零れるだけ。どう考えても、広斗の母親であることは間違いない。

 私の頭の中では様々な言葉が飛び交っているのに、一つとしてその口から発することができない。助けを求めるように慌てて広斗の方を見るけれど、広斗はなぜか彼女を睨んでいるように凝視して何も言わなかった。

 一瞬だけ、仲が悪いと言っていた広斗の言葉を思いだすけれど、すぐに目の前の人物に意識を戻す。悠長にそんなことを思い返している場合ではない。私は勢いよく立ち上がると、広斗のお母様に向き直り、深々と頭を下げた。
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