社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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4章 二人の男、大人の男

24話 決戦前夜のミッション 1

◇◇◇

 八月三日(土)

 明日はとうとうプロジェクト本番。朝の五時に出発の今日、三時間かけて千葉市と成田市に行き、調査スタッフに調査員研修をして、とんぼ返りで東京へ。ようやく戻った池袋のプロジェクト本部は、熱気と殺気に包まれていた。

 息つく暇もないとは、まさにこのこと。すぐに前日準備と最終チェックに追われる。

 気を抜けば停止してしまいそうな自分の頭を何度も左右に振って、無理やり動かす。昨日も帰ったのは終電だった。ここ一週間、睡眠は毎日三時間未満。それでも広斗の家には行かずにいた。広斗とのことを誰かに聞いたのか、はたまたただ忙しいからなのか、香取さんからのお誘いもなくなった。

 今はそれがいい。広斗のことも、香取さんのことも、考えている余裕なんてない。私の目の前には仕事があるだけ。我ながら、お母さんの血をしっかり色濃く受け継いでいると思う。忙しいのに、疲れているのに、仕事をするとアドレナリンがこれでもかって放出されるのか、楽しくて仕方がない。忙しければ忙しいほど、考えることが多ければ多いほど、頭がぎゅんぎゅん動いていく。


 最終ミーティング、資料の最終チェック、めまぐるしく一日が過ぎていく。プレッシャーに押しつぶされそうで、それを跳ね返すためにひたすら確認をする。どんなに準備をしても足りない気がしてしまうから。いつまで経っても慌ただしさの残るフロアに、「よし」と大きな声が響いた。

「みんな、もう十分だ! ホテルに戻ろう。もう二十三時だぞ。明日の出勤時間まで五時間切ってるからな」

 見かねた香取さんが、ホテルに戻るようにみんなを促した。香取さんの言葉にふと時計に目を遣る。明日の出勤は朝四時半、プロジェクト終了は二十時。改めてそのスケジュールの厳しさを実感し、短く息を吐いた。

 プロジェクトメンバー全員でぞろぞろ行列を作りながらホテルに戻る。プロジェクトの準備が終わり、やっと一息といきたいところだけど、やっぱり誕生日イベントは外せないのが私たち。頭を切り替えて、隣を歩く陽子とゆきちゃんと段取りについて打合せを始めたそのとき、鞄の中のスマホが震えた。電話のマークを押すと、大きな大きな声が響く。

「はいは——」

「草下! 緊急事態だ!」

 鼓膜が破れそうな大声。

「お前ならきっと、もう準備してると思うんだけど、お前ならきっとやってくれてると思うんだけど!」

「……何が?」

「浩司の誕生日! 俺たちすっかり忘れてて。明日だろ? お祝いしなきゃ。ケーキもう売ってるところないよな? コンビニのケーキ積み上げるか?」

 憲吾が捲し立てるように話すから、途中で遮るタイミングをなくしてしまう。まだケーキが、プレゼントが、と続ける憲吾に慌てて言葉を紡ぎ出す。

「憲吾、大丈夫。ケーキは調達済み、プレゼントは広斗が買ってきてるよ」

「うわ、さすがだな!」

「憲吾は、ホテルに戻ったら浩ちゃんの部屋に集合ってみんなに伝えてもらってもいい?」

「おぉ、任せとけ!」

「ありがとう」
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