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6章 慈しみ
35話 温かい部屋 1
私は、広斗と南ちゃんを見ていることができなくて、広斗の家を後にした。勢いで飛び出したはいいものの、終電は池袋までしかなくて、行く宛もなかった私は雨の中、池袋の街をフラフラと歩いた。
苦しくて、誰かに助けてほしくて。でも、頼れる人がいない。そんな私を救ってくれたのは、香取さんだった。
スマホを握りしめる私に届いた一通のメッセージ。助けてほしいと言った私を、真夜中の池袋を走って探し出してくれた。私を見つけて、抱き締めて、「大丈夫。俺がいる」と彼は言った。
神様のイタズラのように、広斗と離れて、香取さんと近づいていく。私は香取さんの優しい腕を選ぶ。もう広斗とは一緒にいられないから。
香取さんの自宅は、池袋オフィスからとても近いタワーマンションだった。土砂降りの雨の中、外にいた私も、その私を探して走り回った彼も、全身濡れていて、タクシーに乗ることもできなかった。彼に手を引かれて池袋の街を歩き、ここまできた。
不安で苦しくて仕方がなかったはずなのに、今は温かくて、静かですっかり落ち着いている。広斗のことで傷ついて泣く度に、彼が抱きしめてくれる。泣いていいって、大丈夫だって、俺がいる、そばにいるからって。どうして、こんなに落ち着くんだろう。
「ゆりちゃん、とりあえずお風呂入って少しゆっくりしておいで。すぐにお湯ためるから」
彼は部屋の中からタオルを取ってくると、一枚を私に手渡して、もう一枚を私の頭に被せた。玄関で動かない私を見て、彼は少し微笑むと、おいでと言って手を掴む。私の手を引き部屋に入り、ソファに座るように促すと、彼はすぐにバスルームに向かった。
窓からは夜景が見える。いくら池袋と言っても、少しずつ明かりが落ちてきていて、ぼんやりと滲むように光る。ソファに座りもせずにそれをぼうっと見ていると、後ろから柔らかい声が聞こえた。
「オフィスの夜景には敵わないけど、それなりに見えるでしょ」
「……キレイ」
「コーヒーでもって、そんな時間じゃないか。何か飲む?」
「……香取さん、なにも聞かないんですね」
「聞いてほしい?」
「ふふ、意地悪ですね」
「ゆりちゃんが聞いてほしければ聞くし、聞かれたくなければ聞かない。前みたいに傷つけたくないから」
「……前」
「泣かせたでしょ、俺」
キッチンに立つ香取さんを見ると、気まずそうに俯いている彼がいる。
「香取さんはやっぱり大人なんですね。私、香取さんに甘えてばっかりです」
「一回り近くも歳が違えばね。でも俺だって大したことないよ。無理して大人の余裕を見せてるだけ」
自嘲するように笑う彼を不思議な気持ちで見つめると、彼の真っ直ぐで熱い眼差しにとらえられる。
「本音を言えば、全部聞きたい。なにがあったのか、なにに傷ついたのか、俺と一緒にいるって本当なのかって。ね、全然大人じゃないでしょ」
「香取さん、あの……」
「でも今はいい。俺を頼ってくれて嬉しいし、君がここにいるから。それでいい」
なにも聞かずに、なにも責めずに、ただ受け止めてくれる。
「……っ……く」
「ゆりちゃん……頼むからもう泣かないで。大丈夫だって言っただろ。俺のことで不安になることはないよ」
彼は私を抱き締めて、大丈夫だよと言いながらゆっくりと髪を撫でてくれる。現金なもので、彼に抱き締められるとすぐに涙は止まった。
苦しくて、誰かに助けてほしくて。でも、頼れる人がいない。そんな私を救ってくれたのは、香取さんだった。
スマホを握りしめる私に届いた一通のメッセージ。助けてほしいと言った私を、真夜中の池袋を走って探し出してくれた。私を見つけて、抱き締めて、「大丈夫。俺がいる」と彼は言った。
神様のイタズラのように、広斗と離れて、香取さんと近づいていく。私は香取さんの優しい腕を選ぶ。もう広斗とは一緒にいられないから。
香取さんの自宅は、池袋オフィスからとても近いタワーマンションだった。土砂降りの雨の中、外にいた私も、その私を探して走り回った彼も、全身濡れていて、タクシーに乗ることもできなかった。彼に手を引かれて池袋の街を歩き、ここまできた。
不安で苦しくて仕方がなかったはずなのに、今は温かくて、静かですっかり落ち着いている。広斗のことで傷ついて泣く度に、彼が抱きしめてくれる。泣いていいって、大丈夫だって、俺がいる、そばにいるからって。どうして、こんなに落ち着くんだろう。
「ゆりちゃん、とりあえずお風呂入って少しゆっくりしておいで。すぐにお湯ためるから」
彼は部屋の中からタオルを取ってくると、一枚を私に手渡して、もう一枚を私の頭に被せた。玄関で動かない私を見て、彼は少し微笑むと、おいでと言って手を掴む。私の手を引き部屋に入り、ソファに座るように促すと、彼はすぐにバスルームに向かった。
窓からは夜景が見える。いくら池袋と言っても、少しずつ明かりが落ちてきていて、ぼんやりと滲むように光る。ソファに座りもせずにそれをぼうっと見ていると、後ろから柔らかい声が聞こえた。
「オフィスの夜景には敵わないけど、それなりに見えるでしょ」
「……キレイ」
「コーヒーでもって、そんな時間じゃないか。何か飲む?」
「……香取さん、なにも聞かないんですね」
「聞いてほしい?」
「ふふ、意地悪ですね」
「ゆりちゃんが聞いてほしければ聞くし、聞かれたくなければ聞かない。前みたいに傷つけたくないから」
「……前」
「泣かせたでしょ、俺」
キッチンに立つ香取さんを見ると、気まずそうに俯いている彼がいる。
「香取さんはやっぱり大人なんですね。私、香取さんに甘えてばっかりです」
「一回り近くも歳が違えばね。でも俺だって大したことないよ。無理して大人の余裕を見せてるだけ」
自嘲するように笑う彼を不思議な気持ちで見つめると、彼の真っ直ぐで熱い眼差しにとらえられる。
「本音を言えば、全部聞きたい。なにがあったのか、なにに傷ついたのか、俺と一緒にいるって本当なのかって。ね、全然大人じゃないでしょ」
「香取さん、あの……」
「でも今はいい。俺を頼ってくれて嬉しいし、君がここにいるから。それでいい」
なにも聞かずに、なにも責めずに、ただ受け止めてくれる。
「……っ……く」
「ゆりちゃん……頼むからもう泣かないで。大丈夫だって言っただろ。俺のことで不安になることはないよ」
彼は私を抱き締めて、大丈夫だよと言いながらゆっくりと髪を撫でてくれる。現金なもので、彼に抱き締められるとすぐに涙は止まった。
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