社内恋愛ファースト・シーズン

アリスの鏡

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6章 慈しみ

35話 温かい部屋 2

「お風呂、入っておいで」

 バスタオルとパジャマを借りてバスルームに向かう。ずぶ濡れになった服を全て脱ぎ、香取さんに言われた通り、乾燥機に入れた。バスルームに入り、温かいお風呂に浸かると、自然にほうっと息を吐く。

「あったかい」

 お風呂の縁に寄り掛かりながら、目を閉じる。あんなに苦しくて、寂しかったのに、ここは温かい。

 しばらくそうして微睡んでいると、香取さんの声が聞こえてきた。

「ゆりちゃん? 大丈夫?」

 焦って、脱衣所に目を向けるけど、そこに影はない。どうやら脱衣所の扉の向こう、廊下から声を掛けてくれているみたいだ。

「あ! 大丈夫です! すみません」

 少し大きめの声で返事をする。

「シャンプーとか女の子用のないんだけど平気? ごめんね」

「あ、大丈夫です。持ってます」

「……そっか。じゃあ、ゆっくりしてね」

 香取さんの声に一瞬戸惑いの色が混じる。私はすぐに自分が言ったことに気付いて、お湯の中に顔を沈めた。どうして自分のシャンプーを持っているのかなんて、香取さんなら聞かなくてもきっと予想できてしまうのに。

 取りあえず早めに上がらないと。香取さんもこの後入るだろう。

 手早く髪や体を洗い、お風呂を出る。彼に借りたパジャマに袖を通すと、大きくて、手が出ないことに驚いてしまう。なんだかぶかぶかのワンピースに、更にぶかぶかのパンツを履いているみたいで、とても不恰好だ。

 どうしてもずり落ちてしまうパンツを畳んで、胸に抱く。男の人の服は本当に大きい。広斗の家に行った時も、やっぱり広斗の服は大きくて、ずり落ちてこないように、ずっと持っていた。南ちゃんは、私よりもさらに小柄で華奢な女の子。彼女もあの服を着ていたんだろうか。そして、私と同じように、広斗に抱き締められながら眠ったんだろうか。

(——嫌だ)

 思い出したくなんかないのに、嫌な想像ばかりが頭を支配しようとする。

 嫌な音を立て始める心臓を押さえて、ゆっくり深呼吸する。急いでリビングに戻ると、彼はテレビを見ながらソファで寛いでいた。エアコンが適度に効いた部屋は、少しひんやりとしている。

 私を見た彼が、一瞬だけ目を見開く。

「……大きかった?」

「はい、落ちちゃって」

「そっか。他にあるかな」

「大丈夫です、このままで」

 立ち上がろうとした彼を制するようにそう言って、そのまま彼に寄り添うように近くに座ると心地よい温かさがそこにあった。

「あんまり大丈夫じゃないんだけど……」
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