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6章 慈しみ
35話 温かい部屋 3
彼の呟きが聞こえたくせに、聞こえないふりをした。ただ広斗のことを思い出してしまった苦しさから逃れたかったから。その言葉に耳を傾けることなく、彼の腕を抱き締めるようにして肩に頭を預ければ、その温もりのおかげで苦しさが消えていく。ふう、と息を吐いたところで、彼の笑い声がすぐ近くで聞こえた。
「また、随分と甘えんぼだね」
「……すみません」
「いや、嬉しいけど」
「ふふ、香取さんは甘やかしすぎですよ」
「この状態でそれ言う? 甘やかさない方がいいならそうするけど、そしたらゆりちゃんプイッと消えるんでしょ?」
「……よく、覚えてますね」
「そりゃあ、告白した日ですから」
パチパチと目を瞬かせる。
「あれが告白ですか?」
「あっ、ひどいな」
「あれは告白って言うかお誘い? 口説かれてた感じしか……」
「あはは! まぁ、確かにね」
香取さんが微笑みながら私を見つめる。
「ゆりちゃん、明日予定ある?」
「いえ……ないです」
「明日も一緒にいたい。一緒に食事して、買い物して、少しゆっくりしよう」
それに頷けば、彼は嬉しそうに笑って頭を撫でてくれる。
「そしたら、俺も軽くシャワー浴びてくるよ」
「すみません。私のせいで濡れちゃって」
「いや。俺も慌てすぎて傘忘れちゃったから」
彼はそう言って眉根を寄せて笑う。その優しい笑顔につられて私の口元も緩んだ。
「ちょっと待ってて。先にベッド入っててもいいけど」
「あ、いえ。ここで待ってます」
「そう? じゃ、待っててね」
返事をしようとした私のおでこに彼の唇が触れた。形のいいその唇がゆっくりと離れていく。目を見開いて止まっている私を気にする素振りも見せずに、彼はすぐにソファから立ち上がり、バスルームに向かう。
けれど、その不意打ちを受けた私は胸の高鳴りがおさまらない。彼の唇が落とされた額を両手で押さえて俯く。
「ずるい……」
そう呟きながら。
でも、一人になるとすぐに広斗のことを思い出してしまう。声とか言葉とか、手とか顔とか。嬉しかったこととか、楽しかったこととか。そして、あの二人の光景が頭の中で何度も再生されて、息がうまくできなくなる。「なんで、どうして」で埋め尽くされていく。
その映像から逃れるために、自分の髪を掴んで頭を抱えて思いっきり目を閉じた。
「また、随分と甘えんぼだね」
「……すみません」
「いや、嬉しいけど」
「ふふ、香取さんは甘やかしすぎですよ」
「この状態でそれ言う? 甘やかさない方がいいならそうするけど、そしたらゆりちゃんプイッと消えるんでしょ?」
「……よく、覚えてますね」
「そりゃあ、告白した日ですから」
パチパチと目を瞬かせる。
「あれが告白ですか?」
「あっ、ひどいな」
「あれは告白って言うかお誘い? 口説かれてた感じしか……」
「あはは! まぁ、確かにね」
香取さんが微笑みながら私を見つめる。
「ゆりちゃん、明日予定ある?」
「いえ……ないです」
「明日も一緒にいたい。一緒に食事して、買い物して、少しゆっくりしよう」
それに頷けば、彼は嬉しそうに笑って頭を撫でてくれる。
「そしたら、俺も軽くシャワー浴びてくるよ」
「すみません。私のせいで濡れちゃって」
「いや。俺も慌てすぎて傘忘れちゃったから」
彼はそう言って眉根を寄せて笑う。その優しい笑顔につられて私の口元も緩んだ。
「ちょっと待ってて。先にベッド入っててもいいけど」
「あ、いえ。ここで待ってます」
「そう? じゃ、待っててね」
返事をしようとした私のおでこに彼の唇が触れた。形のいいその唇がゆっくりと離れていく。目を見開いて止まっている私を気にする素振りも見せずに、彼はすぐにソファから立ち上がり、バスルームに向かう。
けれど、その不意打ちを受けた私は胸の高鳴りがおさまらない。彼の唇が落とされた額を両手で押さえて俯く。
「ずるい……」
そう呟きながら。
でも、一人になるとすぐに広斗のことを思い出してしまう。声とか言葉とか、手とか顔とか。嬉しかったこととか、楽しかったこととか。そして、あの二人の光景が頭の中で何度も再生されて、息がうまくできなくなる。「なんで、どうして」で埋め尽くされていく。
その映像から逃れるために、自分の髪を掴んで頭を抱えて思いっきり目を閉じた。
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