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6章 慈しみ
40話 雨があがったら 3
彼は楽しそうに笑っている。私は少しだけ悔しくて、窓の外の景色に視線を移して言葉を続けた。
「でもやっぱり帰ります。お休みの日に会社に服を取りにいくのも……ちょっと」
「そう?」
「誰かに会ったら気まずいじゃないですか」
「ゆりちゃん」
名前を呼ばれて彼を見ると、頬杖をついたその顔には余裕の笑み。
「俺、引き下がらないよ。そう言うなら、服くらい買ってあげる」
「え……」
「この後、見に行こうか」
そう言ってにっこりと笑うから、私は慌ててしまう。
「いいです、いいです! いりません!」
「じゃあ、オフィスに取りに行く?」
「……はい」
こうなると、全てにおいて負けてしまう気がする。目の前の香取さんを見上げた私に、彼はまた笑う。
「悔しいと思ってるでしょ」
「……なんでわかるんですか」
「ゆりちゃんは、顔見れば何を考えてるかすぐにわかるよ」
「すぐって」
「ごめんね。俺、調子に乗ってるよね。でも、ゆりちゃんとこうして一緒にいられるから嬉しくて」
彼の大きな目が眩しそうに細められて、その端整な顔から美しい笑顔が作り出される。
それに合わせるように出された低く甘いゆっくりとした声。
「許してくれる?」
(……か、完敗)
勝てる気がしない。その顔で言われれば、効果倍増。何でも許してしまいそう。
「さ、ゆりちゃんが俺に勝てないっていうことが分かったところで、そろそろ出ようか」
「……もう! なんで全部わかっちゃうんですか!」
彼のおかげで笑える。昨日はあんなに傷付いて、打ちのめされていたはずだったのに。
カフェを出る前にスマホを確認すると、通知画面が埋め尽くされていた。陽子から数件。そして、広斗からは数十件の着信とメッセージ。
『どこ行った?』『話がある』
きっとそういう予告のメッセージ。今はまだ聞きたくない。画面を埋め尽くすそれが、ただ重くて、苦しい。私は陽子にだけ『香取さんといる。大丈夫』と短く返信し、広斗の通知は見なかったことにした。その後すぐに、陽子から「了解、明日詳しく聞くわ」と返信がきた。
カフェを出た私たちは、オフィスに置いていた着替えを取りに行き、そのままそのビルの低層階にある商業施設で買い物をした。スーパーで夕飯の食材を買う。買い物も終わり、家に戻ろうと歩いていると、彼があるお店で買うものがあると言って入っていった。
さっき見ていた雑貨のお店。私が中に入らず、お店の入り口付近で商品を眺めて彼を待っていると、買い物を終えた香取さんが戻ってくる。
「ゆりちゃん、お待たせ」
「何か買ったんですか?」
「さっき、ゆりちゃんが見てた紅茶用のカップ。欲しそうだったから」
「本当ですか? うれしい」
「家に置いておこう。俺の家、何もないからね」
香取さんはそう言って私の手を取って歩き出す。私が選んだ、優しい手。繋がれた二人の手を見ながら、自分の胸が温かくなるのを感じていた。
ふと、背中に刺さるような視線を感じた。振り返ろうとしたけれど、香取さんが「行こうか」と優しく手を引く。その温もりに気を取られ、私は振り返るのをやめた。
「でもやっぱり帰ります。お休みの日に会社に服を取りにいくのも……ちょっと」
「そう?」
「誰かに会ったら気まずいじゃないですか」
「ゆりちゃん」
名前を呼ばれて彼を見ると、頬杖をついたその顔には余裕の笑み。
「俺、引き下がらないよ。そう言うなら、服くらい買ってあげる」
「え……」
「この後、見に行こうか」
そう言ってにっこりと笑うから、私は慌ててしまう。
「いいです、いいです! いりません!」
「じゃあ、オフィスに取りに行く?」
「……はい」
こうなると、全てにおいて負けてしまう気がする。目の前の香取さんを見上げた私に、彼はまた笑う。
「悔しいと思ってるでしょ」
「……なんでわかるんですか」
「ゆりちゃんは、顔見れば何を考えてるかすぐにわかるよ」
「すぐって」
「ごめんね。俺、調子に乗ってるよね。でも、ゆりちゃんとこうして一緒にいられるから嬉しくて」
彼の大きな目が眩しそうに細められて、その端整な顔から美しい笑顔が作り出される。
それに合わせるように出された低く甘いゆっくりとした声。
「許してくれる?」
(……か、完敗)
勝てる気がしない。その顔で言われれば、効果倍増。何でも許してしまいそう。
「さ、ゆりちゃんが俺に勝てないっていうことが分かったところで、そろそろ出ようか」
「……もう! なんで全部わかっちゃうんですか!」
彼のおかげで笑える。昨日はあんなに傷付いて、打ちのめされていたはずだったのに。
カフェを出る前にスマホを確認すると、通知画面が埋め尽くされていた。陽子から数件。そして、広斗からは数十件の着信とメッセージ。
『どこ行った?』『話がある』
きっとそういう予告のメッセージ。今はまだ聞きたくない。画面を埋め尽くすそれが、ただ重くて、苦しい。私は陽子にだけ『香取さんといる。大丈夫』と短く返信し、広斗の通知は見なかったことにした。その後すぐに、陽子から「了解、明日詳しく聞くわ」と返信がきた。
カフェを出た私たちは、オフィスに置いていた着替えを取りに行き、そのままそのビルの低層階にある商業施設で買い物をした。スーパーで夕飯の食材を買う。買い物も終わり、家に戻ろうと歩いていると、彼があるお店で買うものがあると言って入っていった。
さっき見ていた雑貨のお店。私が中に入らず、お店の入り口付近で商品を眺めて彼を待っていると、買い物を終えた香取さんが戻ってくる。
「ゆりちゃん、お待たせ」
「何か買ったんですか?」
「さっき、ゆりちゃんが見てた紅茶用のカップ。欲しそうだったから」
「本当ですか? うれしい」
「家に置いておこう。俺の家、何もないからね」
香取さんはそう言って私の手を取って歩き出す。私が選んだ、優しい手。繋がれた二人の手を見ながら、自分の胸が温かくなるのを感じていた。
ふと、背中に刺さるような視線を感じた。振り返ろうとしたけれど、香取さんが「行こうか」と優しく手を引く。その温もりに気を取られ、私は振り返るのをやめた。
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