シンデレラ・スキャンダル

アリスの鏡

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1章 偽りのガラスの靴を脱ぎ捨てて

3話 魔法の黒帽子 3

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 車を走らせて数十分後、目の前には一軒の家が現れた。ホテルには見えないし、コテージタイプにしては周りには同じような建物がない。

「綾乃、ここが僕のレンタルハウスだよ」

 オーナーのケンが大きな瞳を細める。レンタルハウスというものが世の中には存在する。卓也が言っていたプライベート空間とはこういうことらしい。

「鍵はこれ。家の中のものは好きに使ってくれ」

「ありがとう。ケンは本当に日本語上手ね」

「学生の時、日本にいたんだ。日本人はハワイが好きだからたくさん来るしね。綾乃は今回一人なんだろう?」

 大きな目がわたしをとらえた。今まで何度も見てきた目と同じ。

「僕がハワイを案内してあげる。一人は寂しいだろう? パートナーが来られないなら、僕と過ごそう」

「いえ……」

「ここのレンタルをやめて、僕の家に来るのはどう? そしたら宿泊代なんていらないよ。ここよりもっと素敵なところだし、僕だけしかいないから気兼ねしなくていい」

「あの」

「綾乃とは仲良くなりたいんだ」

 さりげなくわたしの手を取って、引き寄せると軽く口付けた。


「寂しくないわ。今回は一人で楽しみたいの」

 いつもどおり穏やかに笑ってやり過ごそうとするけれど、予想していた表情が目の前の男に見られない。いつもなら、お預けされた子犬のような表情があるはずなのに。

 彼の視線が、じっとりとわたしの体を這うように動くのが分かった。この男の目は笑っていない。 背筋に冷たいものが走る。無意識にお腹を庇うように腕を回していた。この密室で、彼と二人きり。その危険性を肌で感じ取り、本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らしていた。

「十日間だよ、綾乃。きっと寂しくなるよ。僕がいるからね」

 手を引こうとした瞬間、強引に引き寄せられてバランスを崩して倒れ込みそうになる。

「綾乃、僕はふられたことないんだ」

 思わず睨みつければ、分厚い唇が頬に触れて手を振りあげる前に離れていく。今までわたしが相手にしてきたお坊ちゃんたちとは違うらしい。
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