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第一章
第一話 名状しがたい夢から覚めて
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強い風が吹きながらも、雲は少なく満月が綺麗に輝いているある日のこと。
松の木が茂る山と山の間に挟まれた幹線道路があった。車通りは少ないが、一応市町村同士を結ぶ大切な道路。そんな道路の脇に、車が停まっていた。
黒の軽自動車だ。決して真新しいわけではなく、それなりに使われている車だ。
そんな中、山の中から一人の男が少女を抱えて車の中へと乗り込んできた。男は痩せ型で、それ以外はとりわけ特徴がない。
一方の少女は寝ており、頭頂部から生える狐耳と朽葉色の髪の毛、尾骨の辺りからはふっくらとした狐のようなしっぽが生えておりボロボロの貫頭衣を着ていた。
男は少女を助手席に寝かせ、シートベルトを装着する。そして、運転席へと乗り込むとエンジンペダルを踏む。
仮免許といったほうがしっくりくるほどに男の運転はどうにも辿々しい。
赤信号で丁度車を停めると、男は改めてその異質な少女を見た。男が今まで見てきた世界とは異なる世界からやってきたと言われても自然なほどに異質である。
「やだ……やめて……」
少女は涙を流し始めた。怖い夢でも見ているのだろう。
男は優しく涙を掬ってあげる。だって、男にはそうすることくらいしかできないのだから。
「大丈夫だから……ね?」
男は優しい言葉を少女に投げかけた。眠っていて聞いていないとわかっているのにも関わらずだった。
信号が青になり、辿々しい運転を繋ぎながら田園地帯へと突入する。各所に家屋も点在していた。
男はその中の一軒家の一つに到着した。
駐車スペースに車を停めると、少女を抱えて玄関前まで向かう。
ブロック塀に囲まれた一軒家で、中には苔むした庭があり濡れ縁から出入りが可能だ。全て一階建てで、洋室はあるものの和風建築が主であった。
男は何かに気がつくと慌ててトランクへと戻った。そして、トランクの中に入っている膨大な量の荷物の中から箱を取り出し、さらにその中から鍵を取り出した。玄関へと戻ると、その鍵を使い扉を開けた。
人が住んでいなかったのか、各所に埃が溜まっている。
「掃除しなきゃな……。それに……当分帰れなくなるんだから」
男はそう呟くと、家の奥へと向かっていった。
◇
少女はゆっくりと瞼を開け天井を仰ぎ見た。少女といっても、完全な人間ではない。人間からは亜人と言われている種族の一種だ。頭頂部に狐を彷彿とさせる大きな耳、そして尾骨の辺りには同じく狐を彷彿とさせるしっぽが生えている。それらの部分を囲う毛の色は朽葉色であり、瞳の色は橙色。肌の色はさほど人間とは変わらなかった。
耳としっぽを除けば彼女は人間そっくりである。同年代と比べて貧相な体をしているものの、見窄らしいボロ布の貫頭衣のおかげで痩躯は隠れるため見た人はそれほど気にならないだろう。
少女が見ているのは、茅葺きの天井。そして、少女が今置かれている状況を認識する。
「夢か……」
彼女が見ていたのは、何とも名状しがたい、何かと何かが接触するような夢だ。これに至っては、説明が何とも難しい。
そして、もう一つ。彼女が人間だったときの夢。それも男性の時のときのものであった。
最近はほとんど見なくなっていたので、改めて自分が男だったのだと感じさせられる。とはいえ、女性として暮らしてきて今ではすっかり年頃の少女だ。最初は自分が女性になったことに慣れなかったが、今ではすっかり慣れ男性だった時の記憶など邪魔だとすら思っていた。
「顔でも洗うか」
沈んでしまった気持ちをどうにかしようと、体に掛けられた薄い布を取るそして、太陽光が差し込む出入り口から外に出た。扉なんて概念はないのだ。
大型の茅葺き竪穴式住居から出ると、茅葺屋根で造られた同じような住居がいくつも並んでいる。一際目立った建物もなく、村長の家ですら少女の家よりも一回り大きい程度だ。
辺り一帯に見える草原の中に造られたこの村は、人口百名もいないとても小さな村だ。村の外を見れば、平気で野生動物たちが生息している。とはいえ、ここらに住む動物は温厚な性格ばかりで向こうから攻撃してくることなどほとんどない。
少女は、村の中心部にある井戸へと向かう。庇も手押しポンプもない普通の井戸だ。
底に溜まっている水に容器を落としそれを組み上げるという簡単な動作だが、水が思いの他重く、しかも地上まで持ち上げなければならないためその苦労は前世で想像していた何倍も苦しい。
少女は容器を井戸のそこへと垂らす。そして、容器内に水と空気が混ざった音が聞こえ、水が入ったことを確認するとロープを引っ張る。
「んんっ……」
少女はロープに力を込めて、自分の体重もかけるとやっとのことで井戸の囲いである石垣に組み上げた容器を乗せる。そして、水を中に零さないように顔を洗い口に含む。雑菌が入っているだろうが、この世界ではそんなことわからないし誰も気にしない。ノーシーボ効果を出さないためにも、あまり考えないようにしているが夢に現れた前世の記憶は瞼の裏側からそう簡単に消えてくれそうにはない。
前世の記憶を思い出す中で、異世界転生ものを読んだことがあったことを思い出す。
作中に出てくる主人公は前世で得た知識を用いて活躍していった。
少女がこちらの世界に転生し、ふとその作品のことを思い出すなり自分も前世で得た知識を使い活躍しようと計画したものだ。
しかし、現実はそううまくはいかない。転生ものの主人公は平然と知識を知っていたが、普通の生活を送っていた少女に人に教えられる知識などなかった。
少女が知っているのは学校で習うようなものばかりだ。文学の知識、日本の歴史、世界地理、英語。それらは、こちらの世界では役に立つわけがないのだ。
作中の主人公は、一体どこでそのような知識を知る機会があったのか。ぜひ教えてもらいたいものだった。その結果、少女は何の知識もこの世界に享受させることも叶わずこの年まで生きてしまったのだ。
「はぁ」
少女は大きなため息をついた。それが不甲斐ない自分に向けたものなのか、全く現実的ではない転生ものに落胆してしまったのかは正直自分でもよくわからないくらいに。
そんな中、足音が聞こえた。少女の家の方からだ。警戒する間もなく、足音の正体が姿を表す。
「ヘムカ? どうしたの?」
現れたのは、少女──ではない。ヘムカの母親であった。彼女もまた、同じ髪色、瞳の色をしている。というのも、この小さな村では全員が全員同じ一族であるため、容姿はみんな似ているのである。
前世の知識のあるヘムカと違い、両親はともには正真正銘この世界で初めて生を受けた。父親はしっかりしているが、母親は比較的天然で無垢な性格をしている。前世の経験がありどうしても熟慮してしまうヘムカとはまるっきり正反対のものだ。
「ちょっと変な夢を見ちゃったけど、何でもないよ」
「変な夢? どんな夢を見たの?」
母親はヘムカの見た夢に興味があるようだった。
「ここではないどこか。部屋を縦に重ねたような石で造られた建物がいっぱいあって、私はそこを歩いていたんだ」
ヘムカが語ったのは、ヘムカの死の直前の記憶だった。
実際に見た夢を母親にわかりやすく脚色して述べるヘムカ。そんなヘムカを母親はただ黙って聞き入っていた。
いくら何でも夢に興味もちすぎではと思い、少し考えてしまう。
「今、夢はどうでもいいって思ったでしょ? いろんなことが知れるからできる限り覚えておきなさい」
母親はは、ヘムカの考えを察したかのように説明し始めた。仮にも親子なのである。ある程度はわかるのだろう。
夢なんて前世の知識があるヘムカからすればただの脳の錯覚だが、こんなことが解明されていないこの世界では違う。迷信や宗教的な意味合いも含むのだ。母親がやたと夢内容に興味があるのはそれが理由だった。
「そしたら、自動車……うーん?」
自動車なんてわかるわけもない。どうやって説明しようかと考え倦ね自動で動く石の車に落ち着いた。このことを説明すると、母親は困惑しているようだった。
「牽いているわけじゃないのに、どうして動くの? 魔法?」
夢に現れた謎の車に興味津々の母親。
異世界ものに出てくる主人公だったらどうして作り方を知っているのかはさておき、きっと自動車も造れるのだろうなと思う。
「まあ、そんなもんだよ」
母親には悪いが答えをはぐらかす。
「きっと魔法で動く車がいつか現れるのかしらね」
母親は想像を広げているようだった。
「そうだといいね。じゃあその車が現れるのを見るためにも、長生きしなきゃね」
その車が現れるためには、こちらの世界でも産業革命が起きるかあるいは車を発明できる転生者が現れなければならない。
尤も、そう簡単に高度な技術を持った転生者が現れるのであればこの世界はとっくに産業革命を迎えているだろう。
そんな残酷なことをヘムカは母親には告げられない。ただ母親の心に寄り添うように、同調する他なかったのだ。
「他には? 他に何か夢見てない?」
「そ、そうだね──」
ヘムカは何の夢を話そうかと考えると、今朝見た謎の名状しがたい夢を思い出す。説明しにくいし、何より意味もわからないが母親なら喜んで聞いてくれそうである。名状しがたい夢をどうにか口頭で説明しやすいように言葉を選んでいく。
「あるところに、二つの大きな玉がありました」
「玉? 何の玉?」
「透明で、とても大きな玉。人間どころか、この世界を包み込んでしまうくらいのものです」
母親は頭の中で考えているのか腕を組み唸っている。
「その玉同士がぶつかると、ほんの僅かな穴が空きました。やがて、その穴が大きくなり二つの玉は一つになってしまいました」
これが夢の内容だった。しかし、母親は先程から意味がわからないのか首を傾げ唸り続けている。
「ううーん?」
母親はは一度考えると当分は考えっぱなしで食べることも忘れる時がある。そのたびにヘムカや、ヘムカの父親から指摘されていた。
こうなった以上、無理にでも話を変えることの方がいいとヘムカは思い、話を変える。
「そっちはどうなの?」
ヘムカが話しかけたことにより、母親はヘムカの方を向くと首を傾げ自分自身を指差した。
「私? うーん。夢を見ていたってことは覚えているんだけどね……」
そんな中、ヘムカから変な音が鳴る。発生箇所は腹部で、胃を収縮させたなんとも情けない音だった。
「そろそろ朝ごはんの時間だね……帰ろうか」
「うん!」
ヘムカは、母親に向かってにっこりと微笑む。そしてそのまま二人はそのまま家へと帰っていった。
松の木が茂る山と山の間に挟まれた幹線道路があった。車通りは少ないが、一応市町村同士を結ぶ大切な道路。そんな道路の脇に、車が停まっていた。
黒の軽自動車だ。決して真新しいわけではなく、それなりに使われている車だ。
そんな中、山の中から一人の男が少女を抱えて車の中へと乗り込んできた。男は痩せ型で、それ以外はとりわけ特徴がない。
一方の少女は寝ており、頭頂部から生える狐耳と朽葉色の髪の毛、尾骨の辺りからはふっくらとした狐のようなしっぽが生えておりボロボロの貫頭衣を着ていた。
男は少女を助手席に寝かせ、シートベルトを装着する。そして、運転席へと乗り込むとエンジンペダルを踏む。
仮免許といったほうがしっくりくるほどに男の運転はどうにも辿々しい。
赤信号で丁度車を停めると、男は改めてその異質な少女を見た。男が今まで見てきた世界とは異なる世界からやってきたと言われても自然なほどに異質である。
「やだ……やめて……」
少女は涙を流し始めた。怖い夢でも見ているのだろう。
男は優しく涙を掬ってあげる。だって、男にはそうすることくらいしかできないのだから。
「大丈夫だから……ね?」
男は優しい言葉を少女に投げかけた。眠っていて聞いていないとわかっているのにも関わらずだった。
信号が青になり、辿々しい運転を繋ぎながら田園地帯へと突入する。各所に家屋も点在していた。
男はその中の一軒家の一つに到着した。
駐車スペースに車を停めると、少女を抱えて玄関前まで向かう。
ブロック塀に囲まれた一軒家で、中には苔むした庭があり濡れ縁から出入りが可能だ。全て一階建てで、洋室はあるものの和風建築が主であった。
男は何かに気がつくと慌ててトランクへと戻った。そして、トランクの中に入っている膨大な量の荷物の中から箱を取り出し、さらにその中から鍵を取り出した。玄関へと戻ると、その鍵を使い扉を開けた。
人が住んでいなかったのか、各所に埃が溜まっている。
「掃除しなきゃな……。それに……当分帰れなくなるんだから」
男はそう呟くと、家の奥へと向かっていった。
◇
少女はゆっくりと瞼を開け天井を仰ぎ見た。少女といっても、完全な人間ではない。人間からは亜人と言われている種族の一種だ。頭頂部に狐を彷彿とさせる大きな耳、そして尾骨の辺りには同じく狐を彷彿とさせるしっぽが生えている。それらの部分を囲う毛の色は朽葉色であり、瞳の色は橙色。肌の色はさほど人間とは変わらなかった。
耳としっぽを除けば彼女は人間そっくりである。同年代と比べて貧相な体をしているものの、見窄らしいボロ布の貫頭衣のおかげで痩躯は隠れるため見た人はそれほど気にならないだろう。
少女が見ているのは、茅葺きの天井。そして、少女が今置かれている状況を認識する。
「夢か……」
彼女が見ていたのは、何とも名状しがたい、何かと何かが接触するような夢だ。これに至っては、説明が何とも難しい。
そして、もう一つ。彼女が人間だったときの夢。それも男性の時のときのものであった。
最近はほとんど見なくなっていたので、改めて自分が男だったのだと感じさせられる。とはいえ、女性として暮らしてきて今ではすっかり年頃の少女だ。最初は自分が女性になったことに慣れなかったが、今ではすっかり慣れ男性だった時の記憶など邪魔だとすら思っていた。
「顔でも洗うか」
沈んでしまった気持ちをどうにかしようと、体に掛けられた薄い布を取るそして、太陽光が差し込む出入り口から外に出た。扉なんて概念はないのだ。
大型の茅葺き竪穴式住居から出ると、茅葺屋根で造られた同じような住居がいくつも並んでいる。一際目立った建物もなく、村長の家ですら少女の家よりも一回り大きい程度だ。
辺り一帯に見える草原の中に造られたこの村は、人口百名もいないとても小さな村だ。村の外を見れば、平気で野生動物たちが生息している。とはいえ、ここらに住む動物は温厚な性格ばかりで向こうから攻撃してくることなどほとんどない。
少女は、村の中心部にある井戸へと向かう。庇も手押しポンプもない普通の井戸だ。
底に溜まっている水に容器を落としそれを組み上げるという簡単な動作だが、水が思いの他重く、しかも地上まで持ち上げなければならないためその苦労は前世で想像していた何倍も苦しい。
少女は容器を井戸のそこへと垂らす。そして、容器内に水と空気が混ざった音が聞こえ、水が入ったことを確認するとロープを引っ張る。
「んんっ……」
少女はロープに力を込めて、自分の体重もかけるとやっとのことで井戸の囲いである石垣に組み上げた容器を乗せる。そして、水を中に零さないように顔を洗い口に含む。雑菌が入っているだろうが、この世界ではそんなことわからないし誰も気にしない。ノーシーボ効果を出さないためにも、あまり考えないようにしているが夢に現れた前世の記憶は瞼の裏側からそう簡単に消えてくれそうにはない。
前世の記憶を思い出す中で、異世界転生ものを読んだことがあったことを思い出す。
作中に出てくる主人公は前世で得た知識を用いて活躍していった。
少女がこちらの世界に転生し、ふとその作品のことを思い出すなり自分も前世で得た知識を使い活躍しようと計画したものだ。
しかし、現実はそううまくはいかない。転生ものの主人公は平然と知識を知っていたが、普通の生活を送っていた少女に人に教えられる知識などなかった。
少女が知っているのは学校で習うようなものばかりだ。文学の知識、日本の歴史、世界地理、英語。それらは、こちらの世界では役に立つわけがないのだ。
作中の主人公は、一体どこでそのような知識を知る機会があったのか。ぜひ教えてもらいたいものだった。その結果、少女は何の知識もこの世界に享受させることも叶わずこの年まで生きてしまったのだ。
「はぁ」
少女は大きなため息をついた。それが不甲斐ない自分に向けたものなのか、全く現実的ではない転生ものに落胆してしまったのかは正直自分でもよくわからないくらいに。
そんな中、足音が聞こえた。少女の家の方からだ。警戒する間もなく、足音の正体が姿を表す。
「ヘムカ? どうしたの?」
現れたのは、少女──ではない。ヘムカの母親であった。彼女もまた、同じ髪色、瞳の色をしている。というのも、この小さな村では全員が全員同じ一族であるため、容姿はみんな似ているのである。
前世の知識のあるヘムカと違い、両親はともには正真正銘この世界で初めて生を受けた。父親はしっかりしているが、母親は比較的天然で無垢な性格をしている。前世の経験がありどうしても熟慮してしまうヘムカとはまるっきり正反対のものだ。
「ちょっと変な夢を見ちゃったけど、何でもないよ」
「変な夢? どんな夢を見たの?」
母親はヘムカの見た夢に興味があるようだった。
「ここではないどこか。部屋を縦に重ねたような石で造られた建物がいっぱいあって、私はそこを歩いていたんだ」
ヘムカが語ったのは、ヘムカの死の直前の記憶だった。
実際に見た夢を母親にわかりやすく脚色して述べるヘムカ。そんなヘムカを母親はただ黙って聞き入っていた。
いくら何でも夢に興味もちすぎではと思い、少し考えてしまう。
「今、夢はどうでもいいって思ったでしょ? いろんなことが知れるからできる限り覚えておきなさい」
母親はは、ヘムカの考えを察したかのように説明し始めた。仮にも親子なのである。ある程度はわかるのだろう。
夢なんて前世の知識があるヘムカからすればただの脳の錯覚だが、こんなことが解明されていないこの世界では違う。迷信や宗教的な意味合いも含むのだ。母親がやたと夢内容に興味があるのはそれが理由だった。
「そしたら、自動車……うーん?」
自動車なんてわかるわけもない。どうやって説明しようかと考え倦ね自動で動く石の車に落ち着いた。このことを説明すると、母親は困惑しているようだった。
「牽いているわけじゃないのに、どうして動くの? 魔法?」
夢に現れた謎の車に興味津々の母親。
異世界ものに出てくる主人公だったらどうして作り方を知っているのかはさておき、きっと自動車も造れるのだろうなと思う。
「まあ、そんなもんだよ」
母親には悪いが答えをはぐらかす。
「きっと魔法で動く車がいつか現れるのかしらね」
母親は想像を広げているようだった。
「そうだといいね。じゃあその車が現れるのを見るためにも、長生きしなきゃね」
その車が現れるためには、こちらの世界でも産業革命が起きるかあるいは車を発明できる転生者が現れなければならない。
尤も、そう簡単に高度な技術を持った転生者が現れるのであればこの世界はとっくに産業革命を迎えているだろう。
そんな残酷なことをヘムカは母親には告げられない。ただ母親の心に寄り添うように、同調する他なかったのだ。
「他には? 他に何か夢見てない?」
「そ、そうだね──」
ヘムカは何の夢を話そうかと考えると、今朝見た謎の名状しがたい夢を思い出す。説明しにくいし、何より意味もわからないが母親なら喜んで聞いてくれそうである。名状しがたい夢をどうにか口頭で説明しやすいように言葉を選んでいく。
「あるところに、二つの大きな玉がありました」
「玉? 何の玉?」
「透明で、とても大きな玉。人間どころか、この世界を包み込んでしまうくらいのものです」
母親は頭の中で考えているのか腕を組み唸っている。
「その玉同士がぶつかると、ほんの僅かな穴が空きました。やがて、その穴が大きくなり二つの玉は一つになってしまいました」
これが夢の内容だった。しかし、母親は先程から意味がわからないのか首を傾げ唸り続けている。
「ううーん?」
母親はは一度考えると当分は考えっぱなしで食べることも忘れる時がある。そのたびにヘムカや、ヘムカの父親から指摘されていた。
こうなった以上、無理にでも話を変えることの方がいいとヘムカは思い、話を変える。
「そっちはどうなの?」
ヘムカが話しかけたことにより、母親はヘムカの方を向くと首を傾げ自分自身を指差した。
「私? うーん。夢を見ていたってことは覚えているんだけどね……」
そんな中、ヘムカから変な音が鳴る。発生箇所は腹部で、胃を収縮させたなんとも情けない音だった。
「そろそろ朝ごはんの時間だね……帰ろうか」
「うん!」
ヘムカは、母親に向かってにっこりと微笑む。そしてそのまま二人はそのまま家へと帰っていった。
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