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第一章
第三話 誤解
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―― 手紙ビリビリ案件から数日経った放課後。
手紙を渡した直後の会話を思い出しつつ、ボクはカバンに荷物を詰めていた。
(……ちゃんと俺のこと見てると思う? って、どういうことなんだろう)
恋など一度たりともしたことのないボクだから、理解が出来ないだけなのだろうか。
あの言葉の意味が、まだよくわかっていない。
影人さんに寄ってくる女子は、みんな影人さんが「好き」だから寄ってくるのだと思う。
影人さんは、そんじょそこらのモデルよりも格好良い、雲の上のような男。男のボクでさえそう思うくらいなのだ、ボクが女だったらきっと他の子みたいに「カッコイイ」なんてドキドキしているかもしれない。
だから、女子がみんな好きになるのは、当然のことだと思っている。
窓雪さんだってそうだ。"影人さんが良い"から、ああやって寄ってきている……と、思っているのだけれど。
それでは、影人さん的にはダメなのだろうか。モテ男の悩みは全くもって分からない。
「……影人さん、ボクちょっとトイレ行ってきますね」
「ん……どっち? 大きい方?」
「そのイケメンボイスで下ネタ吐くなコラ」
大真面目なのかボケなのか、相変わらず変な事を吐く影人さんを放置してボクは教室を出た。
少し歩いて、男子トイレにそろそろ入ろう――と、思った矢先。
「不破 蛍ってアンタだろ?」
……行く手を阻まれた。今時珍しいガングロギャルと、ツインテールのギャルに。
蛇のように鋭い目つきで睨み付ける双璧に、ボクは思わず後ずさってしまう。
「は、はい……ボクですけど……」
「丁度良かった、ちょっと話があんだけど!」
「ちょっとウチらに付き合ってくんね? あ、拒否権はないからよろしくー」
「へ? あ、ちょっと! どこ連れてくつもりですか! ちょっとぉぉお!!」
がしっ、がしっ……と擬音語がつきそうなくらいの強い勢いで、両端から腕を掴まれる。
待って、せめて影人さんに一言言ってから……と言う暇もなく、ボクはギャル達の引力に流されていくのであった……。
―― 屋上入り口前。
「アンタさぁ、ケイの手紙ほんとに黒崎君に渡したのかよ」
現在の状況、男のボク一人に対し……ギャルが三人。
そのうち二人はボクをここまで引っ張り出したガングロギャルと、ツインテギャル。そして――影人さんに恋するギャル、窓雪さん。
これが、なんてことないただのおしゃべりの現場だったらどれだけ嬉しいことだろう。三人の女の子に相手をされることなんて、ボクにとっては滅多にないのだ。
ただ、今回の場合は――気持ちだけで言えば「チンピラに絡まれている様」だ。
窓雪さんは困ったような表情をしているけれど、ガングロギャルとツインテギャルは今にもボクを殺そうとしているかのような目つきで睨んでいる。
「へ?」
「へ? じゃねえよ! ウチらさ、ケイに聞いたんだよ。黒崎君宛ての手紙、アンタに頼んで渡してもらったって」
「だったとしたらさ、どういうことなん? ってウチら考えてるわけよ」
「モモ、リカ、もうちょっと優しく……これじゃ脅してるみたいだよ……」
「ケイは黙っててよ、こういうのはハッキリさせとかないとでしょ?」
状況が飲み込めない。確かにボクは窓雪さんに手紙を託され、影人さんに手渡した。
けれど、手紙は無残にも目の前で破かれ、紙吹雪と化した。以降、ボクは何も出来ずじまいだったのだ。
……だって、まさか「ごめん、目の前で破られた」とか言えるわけないだろう。
ボクの出番はそこまでだと思っていた。窓雪さんに託された手紙を渡すまでが、ボクの役目だと。
けれど、その後のこれはどういうことだろう。どういうことなん? って、ボクが聞きたい。
「アンタがちゃんと手紙渡さなかったから黒崎君来なかったんじゃね? って思ってんだけど」
「えぇと、全く話が見えないのですがそれこそどういうことなんでしょうか……」
「は? マジで分かってねぇのかよ? ケイ、説明してやって」
「あ、……うん。不破君……えっと、私ね。黒崎君宛ての手紙に書いたの。「今度の金曜日の放課後、体育館前に来てください。お話ししたいことがあります」って。私、その日黒崎君が来たら告白するつもりだった……」
ぽつりぽつり。窓雪さんが震え気味の小さな声で語り始める。
本当、回りくどい人だ。影人さんを呼び出すための手紙を、ボクを呼び出して渡してもらおうだなんて。
影人さんは「窓雪なんて女知らない」なんて言ってたから、大して絡みはないのかもしれないが……それでもまぁ、よく勇気を持ったなぁと思う。
この窓雪さんの様子を目の当たりにすると、色々と心が痛い。痛む胸に見て見ぬ振りをしつつ、ボクは窓雪さんの話に耳を傾ける。
「でも、いつまで経っても来なかったの。先生に帰れって言われる時間までずっと、ずっと待ってみたけど……黒崎君、来なかった」
「窓雪さん……」
「ケイめっちゃ落ち込んでたからさぁ、ワケを聞いたらそういうことだって知ったんだよ。黒崎君来なかったってことは、アンタがちゃんと手紙渡さなかったから知らなかったんじゃね? って思ってさぁ」
「だから聞きてぇんだよ、ちゃんと手紙渡したんかよ!? 黒崎君に!!」
……あぁ、なるほど。イマイチ納得してないところもあるが、何となく話の筋は見えてきた。
影人さんは窓雪さんに呼ばれていることを知らないからいつまで経っても来なかった……と、彼女らは考えていて。もしかしたら、その呼び出しの手段である手紙をボクが渡さなかったんじゃないか? と、睨んでいるわけだ。
……いや、やっぱり納得いかない。どうしてそうなるんだ?
他に理由は浮かばなかったのか、なんて考えると怒りに似た感情が心にふつふつと湧いてくる。
「誤解されてるようですけど、手紙はちゃんと渡しましたよ! 窓雪さんに渡されて、別れた後! すぐに!!」
「えっ……」
「けどそもそも読まれなかったんです!! ボクが手渡した直後に目の前で破られて……」
―― しまった。すぐにハッとしたボクは、ここで言葉を止めた。
一番黙っていたかった事実だったはずなのに。勢いのまま、自分の身の潔白を証明しようとしてしまうとは。
「目の前で破られたぁ!? 黒崎君がそんなことしたん? 何で!?」
「え、……えーと……」
ツインテギャルがボクとの間の距離を縮め、問い詰める。今この場で本当のことを言ったら、マジで潰されそうで怖い。
けれど、こういう時にごまかしたり上手い嘘がつけるほど、ボクは器用じゃない。現に、なんて言えばいいのか……なんて、内心焦りまみれなのだ。
『……どうせまたアレでしょ。ずっと気になってました、好きです、付き合ってくださいとか、そういうやつ。俺、この窓雪とかいう女全然知らないのに』
―― そんなこと言ったら、窓雪さんはもっと傷つくだろう。そう思うと、言えない。
「……やっぱ渡してねぇんだろ?」
「いやだから渡したって言ってるじゃないですか! そもそも何でそうやってボクが渡してないって決めつけるんですか!!」
「いやだって、アンタあれだろ? 黒崎君の近くにいつもいるのに、アンタ全然モテないじゃん。だから、黒崎君がモテてるのが羨ましいから僻んで渡さなかったとかさぁ」
「モモ、リカ、そこまで言わなくても……」
それはない。僻んでなどいないし、彼に好意を持つ女性のラブレターを渡さずこっそり隠し持ったところでボクになんのメリットもない。
ボクが窓雪さんを好きであればそんなこともしたかもしれないが、残念ながらボクも彼女を好きどころか彼女を全く知らない。
ボクが非モテ男子であるのは事実だが、影人さん宛てのラブレターをわざと渡さないなんてくだらないことするほど不出来な人間でもない。
それにしても、ひどい決めつけだ。
いや、ちゃんと言えないボクも悪いのかもしれないが、それにしても……だ。
ギャル二人の言い分をそのまま鵜呑みにすると、ボクが最低な非モテ男子になってしまうではないか。
しかし、困った。この場はどう収めたものか……。
肝心の窓雪さんはたまに二人を止めようとはしているけれど、二人が強いのか窓雪さんがクソ弱いのか、聞く耳を持たない。
ぎゃあぎゃあと言い争いをする中、内心頭を抱えるしかないボク。
そんなボクの耳に、たん、たん……と、誰かが階段を昇る音が入る。
「……何してんの」
――聞き慣れた、だるそうな声。
後ろを振り向けば、これまた嫌というほど見慣れた銀髪赤目のイケメンがいた。
目元を見ると、何この状況……とでも言いたそうに、眉を顰めている。
「く、くく、黒崎君!? どうしてここに……」
「……蛍がお前らに連れて行かれるのが教室のドアから見えた……だから、後をつけてた」
退屈そうにあくびをしながら、一歩、一歩と歩みをすすめ、ボクの隣に立つ。
まさかの大本命登場に、窓雪さんをはじめとしたギャル三人は顔面蒼白だ。特にひどいのは、先ほどまでボクに詰め寄っていたガングロギャルとツインテギャル。
「後をつけてたって……影人さん、まさかボクがこうして話してるのも知っててこの近くに?」
「うん」
「……ちなみに、どこから聞いてました?」
「『アンタさぁ、ケイの手紙ほんとに黒崎君に渡したのかよ』ってところから」
「ほぼ最初からじゃねーか!!」
思わず裏拳でビシッと突っ込みを入れてしまった。今は漫才をしている場合じゃないというのに。
マジかー……と、呟きながらばつが悪そうな表情をするガングロギャルとツインテギャル。後ろにいる窓雪さんも、殆ど同じ表情だ。
「手紙を捨てたのは本当だよ。女子からの手紙なんて大体同じような内容だから見飽きてるし、知らない女からだからなおさら興味なかったし……」
ボクの隣から少し離れ、影人さんが窓雪さんに歩み寄る。
後ろ姿だからどんな顔をしているかなんて分からないけれど、ガングロギャルとツインテギャルが後ずさって道を譲ってしまったところを見ると……多分、そこそこ怖い顔をしているかもしれない。
「受け取って読んだところで、蛍を置いて体育館前になんか行く気ないから」
予想外の言葉に、ボクと窓雪さんは「え?」っと声を揃えて言った。
……その直後。
「あと一つ言うけど」
―― 窓雪さんの真横の壁を、思い切り足で打つ。
「俺に対する腹いせだとしても、……俺のいないところで蛍に変な絡み方するなら、殺すよ」
他の女子にも言っといて、という影人さんの声は――今までに聞いたことのない、冷たい声色をしていた。
手紙を渡した直後の会話を思い出しつつ、ボクはカバンに荷物を詰めていた。
(……ちゃんと俺のこと見てると思う? って、どういうことなんだろう)
恋など一度たりともしたことのないボクだから、理解が出来ないだけなのだろうか。
あの言葉の意味が、まだよくわかっていない。
影人さんに寄ってくる女子は、みんな影人さんが「好き」だから寄ってくるのだと思う。
影人さんは、そんじょそこらのモデルよりも格好良い、雲の上のような男。男のボクでさえそう思うくらいなのだ、ボクが女だったらきっと他の子みたいに「カッコイイ」なんてドキドキしているかもしれない。
だから、女子がみんな好きになるのは、当然のことだと思っている。
窓雪さんだってそうだ。"影人さんが良い"から、ああやって寄ってきている……と、思っているのだけれど。
それでは、影人さん的にはダメなのだろうか。モテ男の悩みは全くもって分からない。
「……影人さん、ボクちょっとトイレ行ってきますね」
「ん……どっち? 大きい方?」
「そのイケメンボイスで下ネタ吐くなコラ」
大真面目なのかボケなのか、相変わらず変な事を吐く影人さんを放置してボクは教室を出た。
少し歩いて、男子トイレにそろそろ入ろう――と、思った矢先。
「不破 蛍ってアンタだろ?」
……行く手を阻まれた。今時珍しいガングロギャルと、ツインテールのギャルに。
蛇のように鋭い目つきで睨み付ける双璧に、ボクは思わず後ずさってしまう。
「は、はい……ボクですけど……」
「丁度良かった、ちょっと話があんだけど!」
「ちょっとウチらに付き合ってくんね? あ、拒否権はないからよろしくー」
「へ? あ、ちょっと! どこ連れてくつもりですか! ちょっとぉぉお!!」
がしっ、がしっ……と擬音語がつきそうなくらいの強い勢いで、両端から腕を掴まれる。
待って、せめて影人さんに一言言ってから……と言う暇もなく、ボクはギャル達の引力に流されていくのであった……。
―― 屋上入り口前。
「アンタさぁ、ケイの手紙ほんとに黒崎君に渡したのかよ」
現在の状況、男のボク一人に対し……ギャルが三人。
そのうち二人はボクをここまで引っ張り出したガングロギャルと、ツインテギャル。そして――影人さんに恋するギャル、窓雪さん。
これが、なんてことないただのおしゃべりの現場だったらどれだけ嬉しいことだろう。三人の女の子に相手をされることなんて、ボクにとっては滅多にないのだ。
ただ、今回の場合は――気持ちだけで言えば「チンピラに絡まれている様」だ。
窓雪さんは困ったような表情をしているけれど、ガングロギャルとツインテギャルは今にもボクを殺そうとしているかのような目つきで睨んでいる。
「へ?」
「へ? じゃねえよ! ウチらさ、ケイに聞いたんだよ。黒崎君宛ての手紙、アンタに頼んで渡してもらったって」
「だったとしたらさ、どういうことなん? ってウチら考えてるわけよ」
「モモ、リカ、もうちょっと優しく……これじゃ脅してるみたいだよ……」
「ケイは黙っててよ、こういうのはハッキリさせとかないとでしょ?」
状況が飲み込めない。確かにボクは窓雪さんに手紙を託され、影人さんに手渡した。
けれど、手紙は無残にも目の前で破かれ、紙吹雪と化した。以降、ボクは何も出来ずじまいだったのだ。
……だって、まさか「ごめん、目の前で破られた」とか言えるわけないだろう。
ボクの出番はそこまでだと思っていた。窓雪さんに託された手紙を渡すまでが、ボクの役目だと。
けれど、その後のこれはどういうことだろう。どういうことなん? って、ボクが聞きたい。
「アンタがちゃんと手紙渡さなかったから黒崎君来なかったんじゃね? って思ってんだけど」
「えぇと、全く話が見えないのですがそれこそどういうことなんでしょうか……」
「は? マジで分かってねぇのかよ? ケイ、説明してやって」
「あ、……うん。不破君……えっと、私ね。黒崎君宛ての手紙に書いたの。「今度の金曜日の放課後、体育館前に来てください。お話ししたいことがあります」って。私、その日黒崎君が来たら告白するつもりだった……」
ぽつりぽつり。窓雪さんが震え気味の小さな声で語り始める。
本当、回りくどい人だ。影人さんを呼び出すための手紙を、ボクを呼び出して渡してもらおうだなんて。
影人さんは「窓雪なんて女知らない」なんて言ってたから、大して絡みはないのかもしれないが……それでもまぁ、よく勇気を持ったなぁと思う。
この窓雪さんの様子を目の当たりにすると、色々と心が痛い。痛む胸に見て見ぬ振りをしつつ、ボクは窓雪さんの話に耳を傾ける。
「でも、いつまで経っても来なかったの。先生に帰れって言われる時間までずっと、ずっと待ってみたけど……黒崎君、来なかった」
「窓雪さん……」
「ケイめっちゃ落ち込んでたからさぁ、ワケを聞いたらそういうことだって知ったんだよ。黒崎君来なかったってことは、アンタがちゃんと手紙渡さなかったから知らなかったんじゃね? って思ってさぁ」
「だから聞きてぇんだよ、ちゃんと手紙渡したんかよ!? 黒崎君に!!」
……あぁ、なるほど。イマイチ納得してないところもあるが、何となく話の筋は見えてきた。
影人さんは窓雪さんに呼ばれていることを知らないからいつまで経っても来なかった……と、彼女らは考えていて。もしかしたら、その呼び出しの手段である手紙をボクが渡さなかったんじゃないか? と、睨んでいるわけだ。
……いや、やっぱり納得いかない。どうしてそうなるんだ?
他に理由は浮かばなかったのか、なんて考えると怒りに似た感情が心にふつふつと湧いてくる。
「誤解されてるようですけど、手紙はちゃんと渡しましたよ! 窓雪さんに渡されて、別れた後! すぐに!!」
「えっ……」
「けどそもそも読まれなかったんです!! ボクが手渡した直後に目の前で破られて……」
―― しまった。すぐにハッとしたボクは、ここで言葉を止めた。
一番黙っていたかった事実だったはずなのに。勢いのまま、自分の身の潔白を証明しようとしてしまうとは。
「目の前で破られたぁ!? 黒崎君がそんなことしたん? 何で!?」
「え、……えーと……」
ツインテギャルがボクとの間の距離を縮め、問い詰める。今この場で本当のことを言ったら、マジで潰されそうで怖い。
けれど、こういう時にごまかしたり上手い嘘がつけるほど、ボクは器用じゃない。現に、なんて言えばいいのか……なんて、内心焦りまみれなのだ。
『……どうせまたアレでしょ。ずっと気になってました、好きです、付き合ってくださいとか、そういうやつ。俺、この窓雪とかいう女全然知らないのに』
―― そんなこと言ったら、窓雪さんはもっと傷つくだろう。そう思うと、言えない。
「……やっぱ渡してねぇんだろ?」
「いやだから渡したって言ってるじゃないですか! そもそも何でそうやってボクが渡してないって決めつけるんですか!!」
「いやだって、アンタあれだろ? 黒崎君の近くにいつもいるのに、アンタ全然モテないじゃん。だから、黒崎君がモテてるのが羨ましいから僻んで渡さなかったとかさぁ」
「モモ、リカ、そこまで言わなくても……」
それはない。僻んでなどいないし、彼に好意を持つ女性のラブレターを渡さずこっそり隠し持ったところでボクになんのメリットもない。
ボクが窓雪さんを好きであればそんなこともしたかもしれないが、残念ながらボクも彼女を好きどころか彼女を全く知らない。
ボクが非モテ男子であるのは事実だが、影人さん宛てのラブレターをわざと渡さないなんてくだらないことするほど不出来な人間でもない。
それにしても、ひどい決めつけだ。
いや、ちゃんと言えないボクも悪いのかもしれないが、それにしても……だ。
ギャル二人の言い分をそのまま鵜呑みにすると、ボクが最低な非モテ男子になってしまうではないか。
しかし、困った。この場はどう収めたものか……。
肝心の窓雪さんはたまに二人を止めようとはしているけれど、二人が強いのか窓雪さんがクソ弱いのか、聞く耳を持たない。
ぎゃあぎゃあと言い争いをする中、内心頭を抱えるしかないボク。
そんなボクの耳に、たん、たん……と、誰かが階段を昇る音が入る。
「……何してんの」
――聞き慣れた、だるそうな声。
後ろを振り向けば、これまた嫌というほど見慣れた銀髪赤目のイケメンがいた。
目元を見ると、何この状況……とでも言いたそうに、眉を顰めている。
「く、くく、黒崎君!? どうしてここに……」
「……蛍がお前らに連れて行かれるのが教室のドアから見えた……だから、後をつけてた」
退屈そうにあくびをしながら、一歩、一歩と歩みをすすめ、ボクの隣に立つ。
まさかの大本命登場に、窓雪さんをはじめとしたギャル三人は顔面蒼白だ。特にひどいのは、先ほどまでボクに詰め寄っていたガングロギャルとツインテギャル。
「後をつけてたって……影人さん、まさかボクがこうして話してるのも知っててこの近くに?」
「うん」
「……ちなみに、どこから聞いてました?」
「『アンタさぁ、ケイの手紙ほんとに黒崎君に渡したのかよ』ってところから」
「ほぼ最初からじゃねーか!!」
思わず裏拳でビシッと突っ込みを入れてしまった。今は漫才をしている場合じゃないというのに。
マジかー……と、呟きながらばつが悪そうな表情をするガングロギャルとツインテギャル。後ろにいる窓雪さんも、殆ど同じ表情だ。
「手紙を捨てたのは本当だよ。女子からの手紙なんて大体同じような内容だから見飽きてるし、知らない女からだからなおさら興味なかったし……」
ボクの隣から少し離れ、影人さんが窓雪さんに歩み寄る。
後ろ姿だからどんな顔をしているかなんて分からないけれど、ガングロギャルとツインテギャルが後ずさって道を譲ってしまったところを見ると……多分、そこそこ怖い顔をしているかもしれない。
「受け取って読んだところで、蛍を置いて体育館前になんか行く気ないから」
予想外の言葉に、ボクと窓雪さんは「え?」っと声を揃えて言った。
……その直後。
「あと一つ言うけど」
―― 窓雪さんの真横の壁を、思い切り足で打つ。
「俺に対する腹いせだとしても、……俺のいないところで蛍に変な絡み方するなら、殺すよ」
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