夜影の蛍火

黒野ユウマ

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第三.五章 文化祭編

第一話 民主主義とは非情なり

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 太陽のワンマンショーも今はすっかりなりを潜め、秋の涼しい気候が訪れつつある今日この頃。
突然ですが、みなさんに一つ質問です。

 高校生活において、割とめちゃくちゃでかいイベントと言えば何を浮かべるでしょうか。




「……合コン?」
「いやいや明らかに適当すぎません? その答え」

 何が嬉しくてクラス全員でパリピリア充イベントしなきゃいけないんですかと、いつもの如く平手で突っ込みを入れる。
この人は朝からボクと漫才でもやりたいのだろうか……強いて言うなら「クラス全員でやるもの」というところしか合っていない。
 まぁこの人学校のイベントなんて興味ないだろうし、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。



 正解は──

「えー、今日は朝のホームルームの時間をお借りしまして!! 文化祭の!!」
「出し物を!!」
「「決めたいと思います!!」」

「「「「「イエーイ!!!!!!」」」」」

 我がクラスの学級委員である女子と男子が二人、壇上に立って高らかに叫ぶ。
よほど楽しみにしていたのだろう、多数の生徒が打ち合わせでもしたかのように大きな声でノリノリな返事をしている。
正直、隣の教室まで聞こえやしないかが心配だが……皆、そこまでは気にしていはいなさそうだ。

 担任の先生は出しゃばらんとしているのか、ボクら生徒を見守る形で隅に立っている。文化祭の決めごとに関しては、生徒同士で決めさせるつもりなのだろう。

「朝からうるさい、だるい……」
「ボクらのとこだけローテンションですね、このクラス」

 影人さんはというと、相変わらずのダルダルマイペースといったところで。このノリに一番ついていけてないのは、きっとこの人に違いない。
まぁ、ボクもそこまでパリピ──大勢でわいわい騒ぐようなタイプではないから、少し同情はするけれど。

 他の人をちらっと見てみると……窓雪さんはニコニコしながら片手を上げて「おー!」なんて張り切っている様子で。すぐ隣の黒葛原つづらはらさんも、周りを見ながら微笑ましそうに笑みを浮かべている。
……とりあえず、この二人もどちらかといえばノリノリなのだろう。
 周りのハイテンションな方々を黄色とするなら、ボクらのところは明らかに真っ黒に違いない。そのくらい、教室内の温度差がなかなか激しい。

「とりあえず意見を聞いてみたいと思うんすけど、皆さん何が」
「メイド喫茶!」
「お化け屋敷!」
「ホスト!」
「寸劇!」

 学級委員が言い終える前に「ハイ!」「ハイ!」と、次から次へクラスメイトの口から出てくる出し物候補。
メイド喫茶だのお化け屋敷だのはもはや定番というくらいよく聞くものだが、ホストっていうのはどういうことだろうか。未成年だからお酒を注ぐことはないだろうけれど。

 とりあえずクラスメイトから出てきた意見を、学級委員が黒板に書き出していく。ちゃんと「ホスト」「寸劇」も書き出してくれているあたり、真面目というかなんというか。

「他にはないっすかー?」

 学級委員がボクらに尋ねると、ボクのすぐ隣から、

「はい! 女装男装喫茶がいいと思います!」
「「「「「えっ?」」」」」

 ……なんとも楽しそうな、高らかな声がクラス内に響いた。


「えっ? じょ、女装男装喫茶……?」
「それって俺が女の格好するってことか?」
「うっわ、マジか~~そのツラで女装って草生えるわー」

 これは中々異色な意見だったのだろうか、クラス内が少しだけざわざわし始める。
ボクとしても女装男装喫茶なんて想像しなかったし、しかもそれを言ったのが──まさか、あの黒葛原つづらはらさんとは。

(そういう変わったやつ、「マジありえないんだけど」とか言うかと思ったんだけどなぁ)

 否定どころか、まさか言い出しっぺになろうとは。
マジ? なんで? とひそひそ言い合うクラスメイトに言い聞かせるかのように、黒葛原つづらはらさんがキラキラ輝く笑顔と朗らかな声で「えーっとね」と語り始める。

「ちょっとしたチャレンジ精神? っていうのかな。メイド喫茶も悪くはないんだけど、文化祭の出し物として定番中の定番だし……女の子がメイド服を着るのは普通だし別にいいとして、男の子だけが完全に異性装になるのはどうなのかなぁって思って」
「……と、言うと。どういうことっすか?」

 頭に疑問符を浮かべながら尋ねる学級委員。
自分の言い分に相当自信があるのか、黒葛原つづらはらさんの顔からはたっぷりの自信とキラキラ具合が絶えず輝き続けている……ように見える。

「だったら女子も同じように異性装をして、平等に文化祭を楽しみたいなって思ったの。あたし、男装とかしてみたかったし……それに、いつもと違う格好すると、みんなの新たな可能性を見つけられそうな気もするんだ。女装が似合う子、男装が似合う子……制服だとわからない一面が見られるかもしれないし」

 よくもそんなに言葉が出てくるな、と言いたくなるくらいスラスラと意見を述べる黒葛原つづらはらさん。立て板に水とは、きっとこのことを言うのだろう。

 「あと、これはあたしの見立てだけど」と付け加えるてボクと影人さんの間に立ち──ボクらの肩を掴んで、

「この二人、絶対素質あると思うんだよね! 不破君は案外可愛い顔してるし、黒崎君は見ての通りモデル顔負けの顔してるじゃない?」

 ね? とニッコリと笑ってクラス全員に尋ね始めた。

きっと、ボクらの頭には「は?」という言葉がシンクロしていたに違いない。
影人さんをちらっと見てみれば、マスクをしてても分かるくらいハッキリと眉間に皺を寄せていて。……もしかしたら「は?」どころではないかもしれない。

 影人さんがモデル顔負けなのは分かるとして、ボクが「案外可愛い顔をしている」とはどういうことだろうか。
ボクは至って普通の非モテ男子だ、ボクが女装をしたところで可愛いはずなんてない。

 黒葛原つづらはらさんが色々それらしい(?)御託を並べたところで、みんなが承諾するとは思えない……そう、思っていたのだが。

「……あぁ、なるほど。アリかも」
「黒崎君の女装とか絶対美人だよね~!! あたし見てみたいかも!!」
「俺も気になる……不破、確かによく見たら顔可愛いし……」
「いや~、これは期待値めっちゃ高いと思う!! もしかしたらツートップ狙えるかも?」

 ……何故かあちこちから上がる、賛成の声。
何故なのか。文化祭に対する高いテンションで思考回路がおかしくなったとしか思えないのだが。

 そんなボクの気持ちなど無視するかのように、クラスメイトたちは「黒葛原つづらはらに賛成!」「俺も~!!」とテンションを加速させていく。
先生、流石にそんな理由で男装女装喫茶なんてオッケーしませんよね? そう思いながら、ボクは「先生……」と目を向けながら尋ねてみる。

 頼む、先生だけが最後の希望だ。ボクと影人さんの二人だけではもうこのクラスの流れを変えることはできない。
心の中で必死に両手を合わせながら、先生の言葉を待つが──


「いいんじゃないか? 面白そうで」


 ──僅かな希望さえ、あっけなく打ち砕かれる音がした。

 先生まで首を縦に振ってしまったとなれば、もうこの流れを変えられる者は誰もいない。
クラス全員の好奇心vsボクら二人という状況は、あまりにも不利すぎる。数の暴力だ。

「……結局、こうなるんですか……」
「……めんどくさい……」


 こうして無惨にも、ボクらの出し物はクラスメイトの好奇心の一致により「女装男装喫茶」で決定となってしまったのだった──。
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