黒乃の短編集

黒野ユウマ

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ねぇ、それってさ

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「メリー、聞く限りでは、君の知能は特別高くはないどころか勉強は大の苦手な凡人であると耳にしている。それは真実かい?」
「いきなり私の目の前に現れてそれとは喧嘩を売っていらっしゃるのでしょうかね、レドゥス・アルプドラーム君」

 相変わらず、感情表出もクソもない貼り付けたかのような笑みを浮かべた少年、レドゥス・アルプドラームが私に問いかける。
なんか色々言ってるけど多分こいつは「君はバカだって聞いたんだけど」とでも言いたい感じなのだろう。

 あぁ、こいつはホント苦手だ。同じギルドメンバーの者として知り合って一年になるけれど、未だに苦手意識が拭えない。
小難しくて遠回しな言い方するし、全然表情変えないし、悪気なく色々言ってくるし、何より感情論というものが全く通じない。
とにかく腹立つっきゃない。30秒たりとも一緒にいたくない人物ランキングとかあったらこいつ確実にNo.1だ。
 
「君こそ何を言っているんだい? 今ここで君に喧嘩を売っても何にもならないだろう。争うべき理由もないというのにこんなところで無駄に体力を消費するようなマネをしては」
「あーはいはいわかりましたわかりましたそれ以上言わなくていいですとにかく喧嘩を売りに来たわけではないんですねそれはよくわかりました! で、あんたは何しに来たの?」
「メリー、君に尋ねたいことがあってきたのさ。ただ……君にも理解出来ることかどうかは、わかりかねるのだけれど」


 ――こいつ、まじ殴りたい。思わず握り絞めた拳を突き出したくなる衝動を、ぐっと堪える。

 やっぱりこいつは私のことをバカにしている、しかも無意識に。
そう、無意識に。大事なことだから二回言った。

 しかし私がバカだとわかっているなら尚更こいつは何をしに来たのか。
変に理屈的なこいつのことだから、くだらない用事ではなさそう……な気はするけれど。
 
「君という存在と……メリーと接触するようになってから、僕は何かがおかしくてね」
「え、何? いきなり私に対するクレーム?」
「誤解のないように言うと、まずクレームではないよ。どちらかというと、生徒がわからないことを教師に尋ねるようなものだと思ってほしい」
「さっきまでバカとでも言いたげな君が私に何を尋ねたいのかわかんないけど、まぁいいや。話だけは聞いておいてやるよ」
「感謝するよ、メリー」

 まるで心が籠もってない、淡々とした声色でレドゥスが感謝を述べる。
正直感謝されてる気はしないが、まぁこの際どうでもいい。言ってくれるだけマシと思っておこう。


「君も知る通り、僕は遙か昔に感情を捨てた者だ。今となっては、誰が傷つこうが、誰が死のうが、何も感じない。僕はただ保身のためだけに生きる、周りがよく言う「利己主義者」という者だった」
「……だった?」


 だった、という過去形に何か引っかかるものを感じる。そんなのは、今でもそうなんじゃないだろうか。
いつだったかも、こいつは「生き残る可能性を優先するために」とか言って一緒に戦っていた奴を見捨てて撤退して。
邪魔だと判断しては平気で他人を切り捨て、誰かが死んだってこいつは涙一つ流しやしない。そんな冷淡冷徹無感情な人間なのは、百も承知だ。
 
 だから、こいつが「だった」と言うのは、何かおかしい。
 

「ただ、メリー。君という存在のせいで、それらが少しばかり狂い始めたのさ」
「……と、おっしゃいますと?」
「君の存在、君の声、君の顔。君の一つ一つを感じ取るだけで、僕の中にある何かの均衡が崩れていくんだ」

 ……はい? 何をおっしゃっているのでしょうか、このお兄さんは……。
なんか、まるで私がこいつに対するクラッシャーみたいな……そういう……そういう……。
淡々と紡ぎ出される言葉に、頭がどんどん混乱していく。こいつは何が言いたいんだ?

「その均衡が崩れていくのは……たとえば、君が僕以外の男性と話をしている時。僕がふと回想をしている中で君の存在が浮かんだ時、君が僕に話しかけてきた時。勿論君以外の人物に体しても、同じように経験をしているはずなんだ。ただ、経験する事柄は一緒なのに、君が関与すると何かが違う」
「……は、はぁ……」
「これは僕にとっても、流石に不可解なものでね。とっくの昔に感情を切り捨てた僕の均衡が、まさか君という存在だけで少しだけ崩されるなんて思いもしなかったからね。君だって、僕にとってはただの人間の一人にしか過ぎないはずだったというのに、これは、なんなのだろうね。元凶である君に尋ねれば、何か手がかりがあるかと思ったのだが……」

 ふう、とためいきをつく。勿論表情はそのままで。
 ……多分本人が一番信じられないのかもしれないけれど、聞いている私でさえも信じられない。
 こいつの言っている言葉をそのまま解釈してもいいのなら、という話になるが……なんか、こいつの言ってることって……。
 
 ……ねぇ?
 
 
 
(私が他の男と話していると何かが崩れるって……それって、明らかに……)



 遠回しに馬鹿と言われた私でさえ感づいた感情それに、あんたが気付くのはいつのことだろう?

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