異世界で小学生やってる魔女

ちょもら

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第1.5章 魔女と日常の話

報告会

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 サチは絶望していた。理由は簡単だ。たった今私が口にした「サチ、私明日魔界に帰ります」の言葉に全ての原因が詰まっているのだろう。

「……私、死ぬね。さようなら」

「メンヘラみたいな引き止め方やめてください。違いますよ! 報告会です!」

「……報告会?」

 私は例の一件以来綺麗に掃除している部屋に落とされたその手紙をサチに見せた。と言ってもサチに魔界の文字は読めないか。

「ほら、私五次試験をパスしたじゃないですか。それで現時点で生き残ってる同じ班の合格者と集まって活動報告するっぽいです。それの案内ですね」

「同じ班?」

「異世界留学って一人の上級魔女が十人の生徒を受け持っているんですよ。サチもこの前会いましたよね? あのサイコパ……」

 私は一回そこで話を区切り、部屋の外を覗いてみた。ついでにベランダの外やマンションの廊下などもチェックし、あのサイコパスがいない事を確認する。

「あのど腐れサイコパスが私を担当している上級魔女です。言いたかないですけど要する先生的なやつですよ」

「怖いなら普通に呼べばいいのに……」

 私は構わず話を続けた。

「あいつの受け持つ生徒のうち、残っているのは私含めて四人らしいです。そいつらとの報告会があるんで、明日は一日留守にすると思います」

「なんだそう言う事か……、びっくりさせないでよもう」

 私の説明を聞き、サチは安心したように胸を撫で下ろした。

「他の三人ってりいちゃんの知ってる子?」

「はい。幸運な事に昔よく一緒に遊んでた幼馴染達ですね」

「へー。りいちゃん、あっちでは友達いたんだ」

「何でわざわざトゲのある言い方するんですか……。とにかく私、明日は朝イチで門に向かわなきゃいけないのでもう寝ますね」

 私はリビングの時計に目を向ける。時間は午後の九時。年度試験に落ちたと勘違いした時は夜中までサチとお喋りしたせいで寝不足だったしな。今日は早めに寝たい所だ。

「ちなみにその門ってどこにあるの?」

「そりゃあ勿論人のいない所ですよ。お母さんと一緒にこの世界に来る時に、人が訪れない魔境に設置しておいたんです」

「えー、何それ……。まさか北極とか砂漠だなんて言わないよね?」

「埼玉です」

 サチ、顔が引き攣ってた。

「最寄駅から電車一本で行ける場所にお母さんが設置してくれたんですよ」

「しかも電車で行くんだ……。あ! もしかして九と四分の三番線みたいな?」

「西武池袋線です。なんですか九と四分の三番線って。ハリポタの見過ぎですよ」

 サチ、めっちゃ苦笑いしてた。

「今生の別れだと思って私があれだけ落ち込んでいた朝に、りいちゃん西武池袋線で帰ってたんだね……」

「何か不満でも?」

「不満っていうかロマンがね……」




 西武池袋線に揺られる事四十分。終点である飯能駅に到着し、目的地目掛けて足を向ける私。

「うんめ! うんめ! エッグマフィンうんま!」

 道中のマックで朝食を済ませた私は、そこから更に少し歩いた所にある入間川の橋の上で周囲の様子を伺っていた。

 五年間の殆どを東京で過ごしていた私にとって、こういう都市と田舎が合体している街というのは新鮮でならない。駅周辺は建物だらけで高いビルだってあるのに、駅から少し歩くだけで山と川に囲まれた田舎の風景が広がっているんだからな。

 門への行き方は簡単だ。川の中の一箇所だけ、水の存在しない領域がある。その領域は第三者の目がある時は見えないけれど、魔界関係者の目しかない時は薄っすらと黄金色に発光する。私の視界に一般人は一人。あのおばあちゃんが橋を渡り切れば……。

 おばあちゃんが橋を渡り切る。川を覗く人物が私だけになる。川の一部が黄金色に発光する。私はその領域目掛けて橋から飛び降りた。

「ふぅー……マジで馴れねえわこの行き方」

 そして私は門の前に辿り着いた。門がある空間。門しかない空間。あたり一面闇に覆われ一筋の光も差し込まないのに、巨大な門の姿だけははっきりと見える。私が門に手を当てると、門は私という身長百三十台のか細い腕力で呆気なく開かれた。

 私の視界に広がるのは魔界……の一歩手前。数々の異世界が繋がる合流地点だ。そこに建てられた一軒の屋敷の前に私は立っていた。門を潜り、本館までの道を歩き、そしてインターホンを押すでもノックをするでもなく扉を開くと。

「あ! ホリーちゃん!」

「ミー!」

 私はかつての親友、ミーと再会を果たした。

 ミー。五年も経てばすっかり顔付きも変わってるもんだと思ったけど、癖の強い髪をヘアピンで無理矢理整えてる姿があの頃と変わらない。一目でわかったよ。

 ミーとは母親同士が仲良しで、私達も物心がつく前からの付き合いだ。異世界留学が始まって五年も会っていないし、当時の付き合い方を忘れて気まずくならないか心配だったんだよな。でも、そんな事はないようで安心した。

「久しぶりだなおい! お前が残ってくれてて安心しちまったじゃねえか!」

「私も! 四次試験で半分の魔女が不合格になったでしょ? もしホリーちゃんが不合格だったら私も辞退しようと思ってたもん」

「バーカ言ってんじゃねえよ! でもそう言ってくれて嬉しい。お互い無事卒業して同じ街で暮らせるといいな」

「うん!」

 ミーとの再会を一通り楽しみ終えた所で、私は少し離れた席で談笑する二人の魔女の元にも歩み寄った。あの二人もミー程ではないとは言え、魔界にいた頃はよく一緒に遊んでた連中だ。あいつらも残っててくれてマジで嬉しいわ。私は早速二人の内の一人、髪をツインテールに結ったそいつに声をかける。

「ホシノ! お前も元気してたか?」

「……」

 するとどうだろう。ホシノは一度私に視線を向けたものの、怪訝な表情をしながらそっぽを向いた。

「え」

 私は思わずショックを受ける。そりゃあこの三人の中だと、ホシノとは唯一喧嘩をした事がある仲だ。でも、だからって無視は酷くねえか? 喧嘩した事こそあるけれど、それでもホシノと楽しく遊んだ記憶だって間違いなく私の中にはある。私はホシノがここに居てくれてめちゃくちゃ嬉しかったのに……。

「おいホシノ! 私だよ私! もしかして忘れちまったのか?」

 するとホシノは再びこっちを見た。でもさっきと同じだ。いや、さっき以上に怪訝な顔で私を見てくる。そして何事もなかったかのようにそっぽを向く。流石に二度目のそれは心に来た……。

 なんだよホシノのやつ。再会出来て嬉しいのは私だけかよ。あんまりじゃねえかそんなの……。と、思ったその時。私の中で一つの疑問が浮かんだ。

 ホシノ。そう、ホシノ。そういえばこいつホシノって名前だったっけ。あれ、何で私こいつの事ホシノって呼んだんだ? よく考えればこいつホシノじゃねえわ。こいつの名前は……えっと……そう。確か……。あれだ!

「悪い間違えた! ガッキーだガッキー!」

「何でよ⁉︎」

 ガッキー、めっちゃキレてきた。

「何をどう間違えたらホシノになるの⁉︎ 何もかもが違うじゃない! 一文字もあってない!」

「だから悪かったって。私の留学先ってそういう世界なんだ、許せ」

「どういう世界⁉︎」

 私の胸ぐらを掴みながらぶんぶん振り回すガッキー。留学前の私達ならこの辺で魔法バトルの一つや二つ始まる所だけど、今回ばかりは名前を間違えた私が全面的に悪いしな。甘んじて受け入れるさ。私はガッキーに構わず、ガッキーと談笑していた最後の一人にも声をかけた。

「リジーも久しぶりだな。正直お前が一番心配だったんだよ。でもお前も残っててくれてよかった」

 リジーに話しかけながら、昔の事を思い出す。リジーはなんていうか……、夢見がちなお姫様って感じの子供だった。

『どうしたの? ホリーちゃん』

『リジー。……来週からの留学がちょっと怖い。リジーは?』

『私? 私は全然怖くない! だって異世界よ? 魔女の国を出られるのよ? きっとそこには素敵な王子様がたくさんいて、幸せに溢れた素敵な毎日が私を待っているはずだわ!』

 リジー、めっちゃ目をキラキラさせていたっけ。でも魔書を受け取った三歳から異世界留学が始まるまでの四歳の時点で、リジーの魔法の実力は同期最下位。リジーは最初の年度試験さえ突破出来ないんじゃないかって大人達が噂していたのを何度も耳にした。そんなリジーが今ここに残っている。私はその事実が嬉しくて嬉しくて……。

「いいよなみんなは……。沢山の人と出会えて、美味しい物も沢山食べて、何一つ不自由なく過ごして来たんだろうな……。それが当たり前だと思って今まで生きて来たんだろうな……。自分がどれだけ恵まれているのかも知らずにのほほんと過ごせるその脳みそが羨ましいや……。きっとこれから先もそう言う事を考える機会にも恵まれないんだろうな……。あぁ、そうか……。みんなが恵まれているんじゃなくて私が恵まれていないだけか……。ハハッ、笑えてくるな……。面白いか……? 面白いだろ……? 笑えよ……。どうした笑えよ……? 自虐ネタだよ……。お前らが笑ってくれないと自虐ネタがただの自虐になっちゃうじゃないか……。ただ自分を痛めつけてるだけの馬鹿じゃないか私……。まぁ馬鹿なんだけどさ……。留学前は成績最下位だったもんな……。お前らも私の事見下してたんだろ……? 全部知ってんだぞ……。っておいおい、だからこれも冗談だって……。自虐だって……。笑えよだから……。なぁ笑えって……。なぁ……」

 私はガッキーとミーの手を掴み、リジーから離れた。

(おい、あいつどうした?)

(知らないわよ。私もさっきから話しかけてるけどずっとあんな感じ)

(リジーちゃん、よっぽど過酷な世界に飛ばされたのかな? Wi-Fiの速度遅い世界とか)

(わいふぁいって何よ)

(うわー、キツい! 確かにキツいわそれ。うちはポケットWi-Fi契約してんだけど、これ夜になると速度制限かかってYouTubeもまともに見れなくてさ。ってかミーの世界にもWi-Fiってあんだな?)

(だからわいふぁいって何⁉︎ 契約って⁉︎ 使い魔か何か⁉︎)

(あるよー。うちは有線だから動画もゲームもサクサク動くの。私達の留学先って、結構近い所で分岐した世界なのかな? 私は今アサクサって街に住んでるんだけど)

(マジか⁉︎ 私池袋! 浅草ってあれだろ? 雷門とかある)

(ちょっと無視してんじゃないわよ! 何よいけぶくろって! 何よあさくさって! あたしの知らない言葉ばっか使うな!)

(そう! イケブクロも知ってる! えー、じゃあ私達本当に近い世界なんだね。お母さん達が合わせてくれたのかな?)

(いやー、私もまさか同期と地元話出来るとは思わなかったわ。おいミー、この後時間あるか? 後で色々話して)

「あたしを無視するなー‼︎」

 直後、私とミーの後頭部にガッキーの拳が炸裂する。

「痛えなホシノ! てめえ何すんだこの野郎クソ野郎馬鹿野郎! やんのかゴラァ⁉︎」

「だからホシノじゃない! 大体最後の喧嘩で泣いたのはあんただって事、忘れたんじゃないわよね?」

「あぁん?」

「おぉん?」

 上等だ。こいつの言う通り、最後にやった喧嘩で負けたのは私の方。でも今ここで私が勝てばその忌々しい記録も塗り替えられる。

「メリム!」「ジェロ!」

 私達は互いに魔書を取り出したものの。

「何をしているの?」

 そんなサイコパス感溢れる声がどこからともなく聴こえてきた。呪文を唱える寸前で私は口を止め、声がする方へ視線を向けると。

「別に続けてもいいのよ?」

 まさに神出鬼没。突如私達の視界に現れたサイコパスが、無表情の中にも怒りを灯しながら私達の事を見ていた。

「サイコパス……!」「シリアルキラー……!」

 私はガッキーと向き合う。そこに言葉はないものの、言いたい事はなんとなく伝わった。私達はお互いに頷き合い、そして命惜しさに素直に引き下がった。

「それじゃあみんな席に着いて。始めるわよ」
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