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第3章 セイモーと偽善者狩り

第15話 オリバムの力

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 あれから10日余りが過ぎた。
 シダとクリスは、アブズの部隊の馬車に乗せてもらい、モノボルゥー王国へと帰還していた。だが、クリスはまだ目覚めていなかった。


「……入れ」

「「失礼いたします」」

 王室前に3つの気配を感じとったオリバムは、入室を許可した。3つの気配とは、アブズとシダ、それにクリスのことだ。

「オリバム様。クリスを連れて来ました」


「うむ。ご苦労」

 アブズはその場に立った状態でそう報告した。クリスはシダに担がれてここまで運ばれて来ていて、シダは入室後、自分の前にクリスをそっと降ろすと、片膝をついて頭を下げた。
 オリバムは椅子に座ったまま、低い声で答えた。

「ボス。報告が遅れてしまい、申し訳ありませんでした」

「仕方なかろう。シダ、お前も相当な傷を負っていた。本来ならば、敗北寸前のお前達は降格対象だが、今回は敵の奇襲に誰よりも迅速に対応し、霊具使い相手にアブズの到着まで持ちこたえた。その功績は大きい」

 シダの謝罪に対して、実力主義で、強さだけを正義とするオリバムからは、意外とも言うべき返答が来た。それほど霊具使いとの戦いとは厳しいものなのだ。


 しかし、アブズには1つの疑問があった。



(あの時、敵の、おそらくあれは大技だろう。それを防いだシダの見えない盾を構えて防いだようなアレは……一体……)



「お前達には必要ないかと思っていたが、流石に霊具にはかなわなかったようだな」

「ご期待に添えず申し訳ありません」

 決して失望したわけではなかった。だが、少しオリバムも、クリスとシダの実力を高く評価し過ぎていただけだったのだ。そして、そろそろ"力"を与えるべきか……と考えていた。
 そうとも知らないシダは、これ以上失望させまいと、さらに深く頭を下げた。

「いや、そうではない。この力は、生涯我が国に命を捧げたもののみに与えるもの。俺の見込んだ者達とは言え、この国のものでないお前達にこの力を与えるのには少し抵抗があったのだ。しかし、もういいだろう」

「しかしオリバム様! その力を与えるのは……」

 両手を組み、両膝の上に両ひじを置きながら、ゆっくりとした口調でオリバムはそう言った。
 その瞬間、アブズはそれに反対するように反応した。

「構わん。それよりアブズ、アレを取って来てくれ。……この力を与えることで、さらに世界征服に近づくのであれば、俺にとっても利がある。まぁその前に……」

 オリバムに命じられ、アブズは王室の奥に、ある物を取りに行った。そしてオリバムは、言葉を言い切る前にオリバムは椅子の横に置いてある槍を手に取ると、ゆっくりと立ち上がり、クリスの方へと歩いて来た。



「はあぁぁ!」

 掛け声と同時に、槍の先端をクリスに向け、力を込めた。すると、透き通ったオレンジ色の煙のようなものが、槍からクリスへと流れ込んだ。



 その瞬間、クリスの体がピクッと動いた。

「クリス!」

 シダはとっさにクリスの方へと身を乗り出した。

「ん……んん……」

「クリス! おい! クリス!!」

 うめき声をあげるクリス。シダは一層大きな声で呼びかける。
 そして……

「クリス!!!」

「ん? シダか? どうしたんだよ? ここは……あっ、ボ、ボス!!」

 意識を取り戻しゆっくりと起き上がったクリスを見て、シダは喜びのあまり王室中に響き渡るほど大きな声を出してしまった。意識を取り戻したばかりのクリスは訳もわからず、ポカンとしていたが、やがてボスを見て、ここが王室であることに気づき、片膝をついて、構えた。
 シダも同じ格好で構えた。



「お前達に新しい力を与える」

 そう言うと、オリバムは先ほどと同じように槍の先をクリスとシダに向け、力を込めた。同じように透き通ったオレンジ色の煙のようなものが2人に注がれた。



 ーーこれは、オリバムの霊具『エレイヴォヌート』の力だ。
 この霊具でダメージを受けたものは、徐々に生命エネルギーを吸い取られ、力尽きて行く。吸い取った生命エネルギーは、霊具に溜まって行く。
 また、溜め込んだ生命エネルギーは、他人に分け与えることもできる。
 先ほどクリスが一瞬にして回復したのは、この力を使ったためである。
 さらに、吸い取った生命エネルギーはエクロムに似たエネルギーに変換することができ、これも同じように他人に分け与えることができる。この力を与えられたものは、わずかながら、この霊具の力を与えられ、力を手に入れることができると言うわけだ。ーー



 クリスとシダは、今までにない感覚に見舞われ、落ち着かない様子だった。

「「これが、ボスの霊具の力……」」

 湧き上がる力に驚きつつ、2人はそう呟いた。それと同時に2人は恐怖を感じていた。




((こんなにすごい力が、ほんの一部だなんて……本当にコイツを止めることなんてできるんだろうか……))




「我はあの大戦以来全力で戦える状態ではないからな。その力で我に貢献して見せよ!   それと、クリス。お前にはもう1つ受け取ってもらう。お!   来たな」

 オリバムは右の穂をクイッとあげながらそう言う、奥の部屋からアブズがグローブを持って戻ってきた。

「新しいグローブだ。試してみろ」

 そのグローブは、黒ベースのボディーに、手の甲側に六角形の黒に赤い曲線の2本のラインが入ったプレートが、先が少し飛び出して付いていて、それに繋がるように、腕側の方まで籠手の様なものが付いていた。
 クリスはそれを装備すると、その場に立ち、素振りを少しした。



「これは……とてもいいです。重いし、それで持って動かしやすい」

「それは良かった。もし次霊具使いと戦うことになったなら、これを使ってそれを打ち破ってもらいたい」

「承知いたしました。必ずやご期待に応えてみせます! チャンスをいただき、ありがとうございます!」

 そのグローブは、今までクリスが使って来たグローブの中では、群を抜いて優れていた。
 この力と武器があれば霊具使いとも渡り合えるかもしれない。
 クリスはそう考えていた。


 その後、今回の戦いの報告を済ませ、2人は傷を癒すための長期休暇を再度取り、王城内の自室へと戻るのだった。








 ここは、モノボルゥー王国から遠く離れた、少し大きな無人島。そこに1つの建物があった。
 外には2つの人の姿。
 人がいるのに無人島と言うのかと言う問題はさて置き、2人はこの革命により、多くの人が傷つくこの世界を憎み、ある軍を作った。

 そう。ここは、反革命軍の基地なのだ。
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