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🍳レティと魔法のキッチンカー 第二部
おまけ💍その先の未来へ①
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大変長らくお待たせ致しました!
第二部以降は不定期の亀更新となりますが、よろしくお願い致します。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
恵みの森の中央から伸びる、純白の樹。
世界樹の枝葉のひとつであるその樹は、高く高く伸び、崖山の中腹に位置する渓谷にまで届いている。
雲の中に隠れるように存在するその渓谷は、人間の世界と、精霊の世界を繋ぐ、特別な地だ。
崖の途中に開いている小さな隙間から、細く清らかな水が、幾筋も流れている。
妖精の涙であるとも言われるその清水は、下界に流れ、生命を育む。
生命が巡り、そして還ってくる、神秘の地。
この美しき渓谷で、今日、ひとつの契りが交わされた。
手作業で丁寧に作られた婚礼衣装を身に纏い、二人は幸せそうに身を寄せ合う。
純白の樹が、羽のようにさわさわとその葉を揺らす。
樹を通して、大いなる精霊が二人を言祝ぐ――。
そんな二人を、遠くから見つめる者たちがいた。
片方は、人の子。甘い香りを身に纏った、大人の色香漂う黒髪の女性。
もう片方は、人の子の形をとった、自然そのもの。緑の髪をツインテールにした子供。
「くふふ、どうなるかと思ったけど、これで精霊の樹もしばらく平気そうだね」
「そうね。――ところで」
緑髪の言葉を、黒髪が肯定する。
黒髪は、二人から視線を緑髪へと動かし、問うた。
「――あの時、どうしてあの娘を助けたの?」
「……どうしてボクが助けたと?」
「簡単よ。一つ、高いところから転落したにも関わらず、彼女は骨すら折れていなかった。二つ、彼女が引っかかっていた木の枝に、人間が落ちてきた衝撃に耐えうるほどの強度はなかった。そして三つ――あの木の上は崖が続いているだけで、足場なんてなかった。そんなことができるのは、『風』だけ」
緑髪は、そこで初めて、黒髪と目を合わせた。面白がっている様子だ。
「くふふ、いい線いってるね。でも、残念」
「まあ。どこが間違っていたのかしら。教えて下さる?」
「――そもそもの大前提さ。例えば、助けた訳じゃなかったとしたら? それに、それをしたのがボクだって証拠もないよね? だって、『風』はボクだけじゃないんだから」
「もしかして……」
「さあね。それ以上は、ボクの口からは言わないよ」
「もしそうだとして。何故あなたは――」
「――風は自由なのさ」
話を遮られた黒髪は、納得がいっていない様子だ。唇をつんと尖らせ、緑髪の目を覗き込む。
緑髪は、二人を見つめながら、ぼそりと呟く。
「――まあ、でもね。ボクや『アイツ』が何もしなかったとしても、彼らは出会っていたに違いないよ」
「どういう意味?」
「さあね。運命とか、そういう?」
悪戯っぽくそんなことを言う緑髪に、黒髪は肩をすくめた。
緑髪は、纏う空気をガラッと変えると、楽しげに口端を上げる。無垢な子供のように。
「それより――この後の宴席で出るご飯、何かなあ? レティの料理、美味しいんだよね」
「全く、花嫁自ら手料理を用意するなんてね。まあ、あの子らしいけれどね」
大いなる精霊の祝福を受け、名実ともに晴れて夫婦となった二人を、妖精たちが取り囲む。
最前列で、ドラゴンの妖精が号泣しながら二人に抱きついている。
それを見て笑う花の妖精たち、酒瓶を持ってすでにベロベロのドワーフたち。
頭上を舞うのは鳥や蝶の妖精。森に住む小さな妖精たちも、巨鳥の背に乗ってお祝いしにきたようだ。
「さて、ボクはやるべきことを済ませてきますか。じゃあ、また後でね」
「遅くなったら、お料理ぜんぶ売れちゃうかもよ?」
「くふふ、なるべく早く戻るさ」
緑髪の子供は、ふわりと風に舞ったかと思うと、あっという間にその姿をくらませたのだった。
――これは、ほんの少し先の、未来のお話。
第二部以降は不定期の亀更新となりますが、よろしくお願い致します。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
恵みの森の中央から伸びる、純白の樹。
世界樹の枝葉のひとつであるその樹は、高く高く伸び、崖山の中腹に位置する渓谷にまで届いている。
雲の中に隠れるように存在するその渓谷は、人間の世界と、精霊の世界を繋ぐ、特別な地だ。
崖の途中に開いている小さな隙間から、細く清らかな水が、幾筋も流れている。
妖精の涙であるとも言われるその清水は、下界に流れ、生命を育む。
生命が巡り、そして還ってくる、神秘の地。
この美しき渓谷で、今日、ひとつの契りが交わされた。
手作業で丁寧に作られた婚礼衣装を身に纏い、二人は幸せそうに身を寄せ合う。
純白の樹が、羽のようにさわさわとその葉を揺らす。
樹を通して、大いなる精霊が二人を言祝ぐ――。
そんな二人を、遠くから見つめる者たちがいた。
片方は、人の子。甘い香りを身に纏った、大人の色香漂う黒髪の女性。
もう片方は、人の子の形をとった、自然そのもの。緑の髪をツインテールにした子供。
「くふふ、どうなるかと思ったけど、これで精霊の樹もしばらく平気そうだね」
「そうね。――ところで」
緑髪の言葉を、黒髪が肯定する。
黒髪は、二人から視線を緑髪へと動かし、問うた。
「――あの時、どうしてあの娘を助けたの?」
「……どうしてボクが助けたと?」
「簡単よ。一つ、高いところから転落したにも関わらず、彼女は骨すら折れていなかった。二つ、彼女が引っかかっていた木の枝に、人間が落ちてきた衝撃に耐えうるほどの強度はなかった。そして三つ――あの木の上は崖が続いているだけで、足場なんてなかった。そんなことができるのは、『風』だけ」
緑髪は、そこで初めて、黒髪と目を合わせた。面白がっている様子だ。
「くふふ、いい線いってるね。でも、残念」
「まあ。どこが間違っていたのかしら。教えて下さる?」
「――そもそもの大前提さ。例えば、助けた訳じゃなかったとしたら? それに、それをしたのがボクだって証拠もないよね? だって、『風』はボクだけじゃないんだから」
「もしかして……」
「さあね。それ以上は、ボクの口からは言わないよ」
「もしそうだとして。何故あなたは――」
「――風は自由なのさ」
話を遮られた黒髪は、納得がいっていない様子だ。唇をつんと尖らせ、緑髪の目を覗き込む。
緑髪は、二人を見つめながら、ぼそりと呟く。
「――まあ、でもね。ボクや『アイツ』が何もしなかったとしても、彼らは出会っていたに違いないよ」
「どういう意味?」
「さあね。運命とか、そういう?」
悪戯っぽくそんなことを言う緑髪に、黒髪は肩をすくめた。
緑髪は、纏う空気をガラッと変えると、楽しげに口端を上げる。無垢な子供のように。
「それより――この後の宴席で出るご飯、何かなあ? レティの料理、美味しいんだよね」
「全く、花嫁自ら手料理を用意するなんてね。まあ、あの子らしいけれどね」
大いなる精霊の祝福を受け、名実ともに晴れて夫婦となった二人を、妖精たちが取り囲む。
最前列で、ドラゴンの妖精が号泣しながら二人に抱きついている。
それを見て笑う花の妖精たち、酒瓶を持ってすでにベロベロのドワーフたち。
頭上を舞うのは鳥や蝶の妖精。森に住む小さな妖精たちも、巨鳥の背に乗ってお祝いしにきたようだ。
「さて、ボクはやるべきことを済ませてきますか。じゃあ、また後でね」
「遅くなったら、お料理ぜんぶ売れちゃうかもよ?」
「くふふ、なるべく早く戻るさ」
緑髪の子供は、ふわりと風に舞ったかと思うと、あっという間にその姿をくらませたのだった。
――これは、ほんの少し先の、未来のお話。
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