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第六話
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「私は、気がついていた。ヒメナ嬢、君が最初から、私の婚約者、アリア嬢に危害を加えようとしていたことを。あの時……廊下で君にぶつかりそうになって私が避けたら、君はアリア嬢たちの方に勢いよく向かっていこうとしていただろう」
アリアは、その言葉に衝撃を受けた。あの時、アリアはリリアとの会話に夢中になって、前をよく見ていなかったのだ。
アルフレッドが、身を挺してアリアを――もしかしたらヒメナが狙ったのは、隣のリリアだったかもしれないが――庇ってくれたのだと気がついたのだ。それで、彼は探るようにヒメナをじっと見ていたのだろう。
「え……? 待って、アリアが婚約者? どういうこと? アルフレッドの婚約者はリリアじゃ――」
「おい、お前、不敬だぞ」
「いい、テオドール。どうせこいつは充分すぎるほど不敬を重ねている」
アルフレッドは、ゴミを見るような目でヒメナを見ている。そこには、アリアに対するときのような熱は一切宿っていない。
「ヒメナ・コールマン男爵令嬢。君は学内の風紀を乱し、リリア嬢の尊厳を踏みにじり――そして、近い未来に王子妃となる、アリア嬢を殺そうとした。幸い、未遂に終わったが、その罪は到底許されるものではない」
「そ、そんな……あたし、知らない。知らないっ!」
ヒメナは首を一生懸命に振って喚いていたが、騎士科の学生が二人で両脇を固めて、出入り口の方へ引っ張っていった。
「ヒメナ嬢。君の罪は重いが、まだ学生だ。君の身柄は、一旦学園長預かりとなる。ご両親にも、そろそろ連絡が行っている頃だろう。しばらく反省するのだな」
こうして、断罪劇は原作とは全く異なるものとなって、物語は幕を閉じた。
「皆、耳汚しをしてすまなかった。しかし、これで学内の心配事は解決したゆえ、今後は皆も安心して学園生活を送ってほしい。さあ、気を取り直して、パーティーを再開しよう」
アルフレッドが宣言すると、皆一様に明るい表情で、歓談を再開した。
アリアたちだけではなく、同級生たちも皆、突飛な行動で学内を騒がせていたヒメナのことが、気になっていたようだ。
パーティーが再開されたのを見て、アルフレッドは小さく息を吐き出すと、アリアの方へ歩み寄り――ぎゅう、とアリアを抱き寄せた。
「あ、アルフレッド殿下?」
「すまない、アリア。寂しい思いをさせた。学内でも大きな問題になっていたし、何より君に危害が及ばないように、私自身があのゴミ虫の監視をしておくのが最善手だったのだ」
「ゴミ虫って」
「その通りだろう?」
アルフレッドが身体を離して、当然のように言う。アリアはくすりと笑った。
「でも、それならそうと言ってくだされば良かったのに。私はてっきり、殿下がヒメナ様を好きになってしまわれたのかと」
「いや、私があんなゴミ虫を好きになる可能性など、万に一つもないが……伝えなかったことに関しては、本当にすまない。ヒメナ嬢と話している時、君が切なそうな顔をして私を見るのが、たまらなく嬉しくて……」
「まあ、どういうことですか、それ!」
「私はいつでも君からの愛情に飢えているということだよ」
アルフレッドはそう言って、アリアの手を取り、その甲に口づけを落とす。アリアの顔が、かあっと一気に熱を帯びた。
「でも、良かった」
ほうと息を吐くアリアの目から、きらめくものが一筋零れた。アルフレッドは愛おしげに目を細め、アリアの目元を指先で優しく拭う。
「……私、ヒメナ様がいるからって、自制していたのですわ。貴方のことをこれ以上好きにならないようにって」
「……っ」
「でも、もういいんですよね。私、貴方との幸せを望んでも……貴方の隣で生きていても、いいんですよね?」
「ああ、もちろんだ。一生、私の隣にいて、私を支えてほしい。私は、一人では立てないのだから」
アルフレッドは、アリアのおとがいに指を置く。アリアは、首肯する代わりに、ゆっくりと瞼を閉じた。
柔らかなぬくもりが、唇にそっと触れて、静かに離れていく。
「愛しているよ、アリア」
「私もお慕いしていますわ――アル」
アリアとアルフレッドの抱擁に、あたたかな拍手が巻き起こった。
リリアとテオドールも手を取り合い、肩を寄せて、その光景を幸せそうに眺めている。
こうして、悪役令嬢は、幸せな恋をした。
悪役令嬢を連れ去るヤンデレ男は、闇墜ちすることなく、愛する人を手に入れた。
傲慢な王子は愛を知り、支え合うことを知り、自ら新たな運命を切り開いた。
そして、死ぬはずだった悪役令嬢の妹は、あたたかな輪の中心で、朗らかに笑っていた――。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
お読みくださり、ありがとうございました!
【アリア・アイゼンハワー】
転生者。原作では婚約者テオドールに殺される。
アルフレッドと婚約したが、いずれ捨てられると思っていたので、彼に愛情も恋心も抱かないつもりだった。
しかしアルフレッドを質問攻めにしたことで彼の学習意欲に火を点け、無自覚に更生させ、溺愛される。
【リリア・アイゼンハワー】
アリアの双子の姉。原作ではアルフレッドと婚約していたが、断罪の末婚約破棄され、最終的にはテオドールに監禁される。
現実ではテオドールと婚約し、順調に愛を育んでいる。アリアとの仲は良好。真面目で、成績も上位。
【アルフレッド・フォーサイス】
第二王子。公爵家出身の正妃の子で、王太子の位を第一王子と争っている。原作では優秀な第一王子に劣等感を抱き、性格がねじ曲がっていた。
現実では、アリアの質問にきちんと答えられなかったのが悔しくて、勉強に力を入れるようになる。そして、アリアのように他人を素直に頼ることや、苦手を補い合うことの大切さを知る。
第一王子を王太子に据え、自分はその補佐をするのがベストだと今は思っている。
【テオドール・サンチェス】
教皇の息子。ヤンデレ。お見合いの前に実はリリアと出会っていて、彼女に想いを寄せていた。原作では全部の黒幕だったりする。
現実では愛するリリアと婚約できたので、ヤンデレ化していない。ヒメナによってリリアの悪評が立てられたので、心の内ではブチ切れていた。
【ヒメナ・コールマン】
原作ヒロイン。原作ではアルフレッドの寵愛を受け、リリアにいじめられていた。純真、健気、努力家で、周囲が自然と彼女を守ろうとする人たらしだった。
現実ではあざとく男に媚びて、努力はしない。転生者。
アリアは、その言葉に衝撃を受けた。あの時、アリアはリリアとの会話に夢中になって、前をよく見ていなかったのだ。
アルフレッドが、身を挺してアリアを――もしかしたらヒメナが狙ったのは、隣のリリアだったかもしれないが――庇ってくれたのだと気がついたのだ。それで、彼は探るようにヒメナをじっと見ていたのだろう。
「え……? 待って、アリアが婚約者? どういうこと? アルフレッドの婚約者はリリアじゃ――」
「おい、お前、不敬だぞ」
「いい、テオドール。どうせこいつは充分すぎるほど不敬を重ねている」
アルフレッドは、ゴミを見るような目でヒメナを見ている。そこには、アリアに対するときのような熱は一切宿っていない。
「ヒメナ・コールマン男爵令嬢。君は学内の風紀を乱し、リリア嬢の尊厳を踏みにじり――そして、近い未来に王子妃となる、アリア嬢を殺そうとした。幸い、未遂に終わったが、その罪は到底許されるものではない」
「そ、そんな……あたし、知らない。知らないっ!」
ヒメナは首を一生懸命に振って喚いていたが、騎士科の学生が二人で両脇を固めて、出入り口の方へ引っ張っていった。
「ヒメナ嬢。君の罪は重いが、まだ学生だ。君の身柄は、一旦学園長預かりとなる。ご両親にも、そろそろ連絡が行っている頃だろう。しばらく反省するのだな」
こうして、断罪劇は原作とは全く異なるものとなって、物語は幕を閉じた。
「皆、耳汚しをしてすまなかった。しかし、これで学内の心配事は解決したゆえ、今後は皆も安心して学園生活を送ってほしい。さあ、気を取り直して、パーティーを再開しよう」
アルフレッドが宣言すると、皆一様に明るい表情で、歓談を再開した。
アリアたちだけではなく、同級生たちも皆、突飛な行動で学内を騒がせていたヒメナのことが、気になっていたようだ。
パーティーが再開されたのを見て、アルフレッドは小さく息を吐き出すと、アリアの方へ歩み寄り――ぎゅう、とアリアを抱き寄せた。
「あ、アルフレッド殿下?」
「すまない、アリア。寂しい思いをさせた。学内でも大きな問題になっていたし、何より君に危害が及ばないように、私自身があのゴミ虫の監視をしておくのが最善手だったのだ」
「ゴミ虫って」
「その通りだろう?」
アルフレッドが身体を離して、当然のように言う。アリアはくすりと笑った。
「でも、それならそうと言ってくだされば良かったのに。私はてっきり、殿下がヒメナ様を好きになってしまわれたのかと」
「いや、私があんなゴミ虫を好きになる可能性など、万に一つもないが……伝えなかったことに関しては、本当にすまない。ヒメナ嬢と話している時、君が切なそうな顔をして私を見るのが、たまらなく嬉しくて……」
「まあ、どういうことですか、それ!」
「私はいつでも君からの愛情に飢えているということだよ」
アルフレッドはそう言って、アリアの手を取り、その甲に口づけを落とす。アリアの顔が、かあっと一気に熱を帯びた。
「でも、良かった」
ほうと息を吐くアリアの目から、きらめくものが一筋零れた。アルフレッドは愛おしげに目を細め、アリアの目元を指先で優しく拭う。
「……私、ヒメナ様がいるからって、自制していたのですわ。貴方のことをこれ以上好きにならないようにって」
「……っ」
「でも、もういいんですよね。私、貴方との幸せを望んでも……貴方の隣で生きていても、いいんですよね?」
「ああ、もちろんだ。一生、私の隣にいて、私を支えてほしい。私は、一人では立てないのだから」
アルフレッドは、アリアのおとがいに指を置く。アリアは、首肯する代わりに、ゆっくりと瞼を閉じた。
柔らかなぬくもりが、唇にそっと触れて、静かに離れていく。
「愛しているよ、アリア」
「私もお慕いしていますわ――アル」
アリアとアルフレッドの抱擁に、あたたかな拍手が巻き起こった。
リリアとテオドールも手を取り合い、肩を寄せて、その光景を幸せそうに眺めている。
こうして、悪役令嬢は、幸せな恋をした。
悪役令嬢を連れ去るヤンデレ男は、闇墜ちすることなく、愛する人を手に入れた。
傲慢な王子は愛を知り、支え合うことを知り、自ら新たな運命を切り開いた。
そして、死ぬはずだった悪役令嬢の妹は、あたたかな輪の中心で、朗らかに笑っていた――。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
お読みくださり、ありがとうございました!
【アリア・アイゼンハワー】
転生者。原作では婚約者テオドールに殺される。
アルフレッドと婚約したが、いずれ捨てられると思っていたので、彼に愛情も恋心も抱かないつもりだった。
しかしアルフレッドを質問攻めにしたことで彼の学習意欲に火を点け、無自覚に更生させ、溺愛される。
【リリア・アイゼンハワー】
アリアの双子の姉。原作ではアルフレッドと婚約していたが、断罪の末婚約破棄され、最終的にはテオドールに監禁される。
現実ではテオドールと婚約し、順調に愛を育んでいる。アリアとの仲は良好。真面目で、成績も上位。
【アルフレッド・フォーサイス】
第二王子。公爵家出身の正妃の子で、王太子の位を第一王子と争っている。原作では優秀な第一王子に劣等感を抱き、性格がねじ曲がっていた。
現実では、アリアの質問にきちんと答えられなかったのが悔しくて、勉強に力を入れるようになる。そして、アリアのように他人を素直に頼ることや、苦手を補い合うことの大切さを知る。
第一王子を王太子に据え、自分はその補佐をするのがベストだと今は思っている。
【テオドール・サンチェス】
教皇の息子。ヤンデレ。お見合いの前に実はリリアと出会っていて、彼女に想いを寄せていた。原作では全部の黒幕だったりする。
現実では愛するリリアと婚約できたので、ヤンデレ化していない。ヒメナによってリリアの悪評が立てられたので、心の内ではブチ切れていた。
【ヒメナ・コールマン】
原作ヒロイン。原作ではアルフレッドの寵愛を受け、リリアにいじめられていた。純真、健気、努力家で、周囲が自然と彼女を守ろうとする人たらしだった。
現実ではあざとく男に媚びて、努力はしない。転生者。
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