96 / 154
第六章 赤
第94話 聖王国にて(前編)★フレッド視点
しおりを挟むフレッド視点です。
時系列は、第84話(第六章の最初)の時点です。
********
地の精霊に会うために聖王都に潜入したフレッドとセオ、パステルの三人。
フレッドは今までずっと身を隠して生きてきたが、地の神殿で聖王国の騎士に見つかり、ついにその生存が発覚してしまう。
その晩、フレッドはセオの父オリヴァーの兄であるイーストウッド侯爵と共に、聖王城へと足を向けたのだった。
(第83話、第84話より)
____________________________________
「――何者だ、止まれ! 夜間の入城は禁止されている」
「おお、真面目に仕事しておるのう。えらいえらい」
ワシは、城門前で槍をクロスさせている騎士二人を見て、独りごちる。
騎士たちは怪訝な顔をして警戒を強めた。
若い騎士たちは、ワシの顔を知らぬようだ。
ワシが聖王だった時は、夜間の入城禁止なんて決まりはなかったのだが。
「大神官は何も伝えておらんのかのう? 昼間に強制的にアポ取らされたんじゃが」
「……何者だと聞いている。答える気がないのならば、どのような用件であれ、ここを通すわけにはいかない」
「ふむう、困ったのう」
ワシが隣に立つ侯爵に目配せをすると、侯爵はすぐに心得たようで、頷いて一歩前に出る。
「イーストウッド侯爵家の者だ。至急、大神官様に取り次いで貰えないだろうか。地の神殿で伝えた件だと言えば、分かるだろう」
騎士たちは頷き合って、一人が城内へと入っていく。
入れ替わりに、中に控えていた騎士が外へと出てくる。
ガチャンと大きな音を立てて扉が閉まると、騎士たちは再び槍をクロスさせた。
吹きさらしの、冷たい風が肌を刺す。
『水晶の街』の名に相応しく、氷のように透き通った城壁は、昼間はキラキラと輝き、この上なく美しく荘厳だ。
だが夜になると、ただただ冷たく青白い、月の光を反射している。
壁の向こうには暖かい火が焚かれ、明るく照らされている筈だが、魔力が満ちた水晶の内側を透かし見ることは叶わない。
「それにしても、随分様変わりしたのう。――あれから、何年経ったか」
「十三年、と記憶しています」
「そうか。もうそんなに経つか。ワシが風の神殿を見に行くといってここを出た時は、セオはよちよち歩きじゃったのう、そういえば」
エーデルシュタイン聖王国の王位継承は、特殊だ。
成人を迎えて仕事に就く、もしくは一部の貴族が高等教育、専門教育に進む年齢は十五歳。
貴族が爵位を継ぐ、または王族が即位可能になる年齢が十八歳。
ここまでは、この大陸全ての国で共通している。
国によって異なっているのが、王位継承権の定め方だ。
ベルメール帝国では皇帝、ファブロ王国では国王が崩御もしくは譲位することで、王の長男・長女である王太子が次の王として即位する。
それに対して、聖王国では、最も位の高い精霊の加護を受けている者が、成年王族の中から聖王として即位するという決まりだ。
だからこそ、ワシが即位する時はちょっとばかり兄に恨まれることにもなった。
ワシの兄、ジェイコブは祝子だった。
六大精霊に加護を授かっている神子に次ぐ、高位精霊の加護を授かっていたのだ。
前聖王だった父を除いて成年王族の中で最も強い精霊の加護を持っていたため、兄は今から四十五年前、父の崩御と共に、聖王として即位した。
ところが、その三年後、ワシが十八歳の誕生日を迎えると、兄は、たった三年で聖王の座を辞することになった。
ワシが六大精霊のひとり、地の精霊の加護を授かる神子だったためである。
ワシは正直、兄が聖王のままでも良いのではないかと思っていた。
兄は勉強家で覇気のある人間だったし、聖王として忙しなくも充実した日々を送っていたようだ。
ちいとばかり強引な側面はあったが、その手腕を存分に発揮し、地位も権力も完璧に使いこなして、国を治めていた。
対して、ワシは権力にそんなに興味はなかったし、美味しいものを食べてのんびり生活したかった。
だから、聖王の仕事なぞ兄に任せて、辞退しようとしたのだ。
しかし、当然そのようなことが認められる訳がなかった。
ワシが十八歳になると、あれよあれよと聖王に即位させられ、何だかんだで三十年近くも聖王としてこき使われることになったのである。
そして、ワシは十三年前、ある情報を耳にする。
セオに加護を授けている風の精霊が、何かトラブルに巻き込まれているようだという情報だった。
『空の神子』であるセオはまだ一歳の赤子。
同様に風の力を使える『虹の巫女』ソフィアも、息子のセオと夫のオリヴァーと三人で地方へ挨拶回りに出ていて、連絡にも帰城にも時間がかかる。
ワシも魔法と魔法道具を駆使すれば風の神殿には行けないこともないから、準備を整えてすぐに出発した。
なんせ、風の神殿の存在する崖山は岩だらけの山。
『岩石の神子』であるワシには、登ること自体は造作もない。
地の魔法は防御に特化しているから、襲い来る魔物も、ワシにかかればどうということもなかった。
問題は薄くなっていく空気と水、食料などだが、魔法の家を応用した魔法道具を用意すれば解決出来る。
ワシは無事風の神殿に到着したものの、風の精霊アエーラスにトラブルという話は誤情報だったと判明した。
ワシとラスは意気投合して宴会となり、翌朝、二日酔いのラスがうっかり自分で神殿を破壊してしまい、ワシが修繕する羽目に。
ラスの黒歴史として刻まれているであろう事件である。
ラスはワシに礼をすると言ったのだが、セオが困っている時に一度だけ直接手を貸すようにと頼んで、ワシは自力で山を降りた。
山を降りたワシを待っていたのは、ある噂話だった。
ワシが突如行方不明になり、遺体で発見されたと。
そして、新しい聖王として、ワシの兄ジェイコブが再び即位した、と。
ワシは、そもそも聖王の器ではなかった。
今聖王国に帰っても、手続きも煩雑になるしまた兄に恨まれるし、トラブルにしかならない。
兄が聖王を務めるなら、ワシはこのまま居なくなった方が良いに違いない――ワシはそう考えたのだ。
それからは、ファブロ王国の端に位置する魔の森に居を構え、近くにある小さな街で粘土細工や陶芸品を売って生計を立てていた。
念願だったスローライフだ。
だが、王国内には聖王国の噂も届かない。
あれから長い年月が経って、感情を失くしたセオが目の前に現れた時、ワシは全てを知り、衝撃を受けた。
娘のソフィアがもうこの世にいないことも、孫のセオが針のむしろで生を繋いできたことも、信じたくなかった。
セオは情報屋に都合良く利用され、その代わりにワシの居場所を探りあてたようだ。
セオは、ワシを見つけた後は、ソフィアの次代にあたる『虹の巫女』を探す予定らしい。
ワシには、その人物に心当たりがあった。
ワシは、十四年前にパステル嬢ちゃんが生まれた時、ソフィアが込めた願いと魔法を知っていた。
だからこそ、セオの望む『虹の巫女』が誰なのか、どこにいるのか、どうやったら会えるのか、ワシは正しく理解していたのだ。
ソフィアが繋がりを結んだ時、目の前で、しっかり見ていたのだから。
パステル嬢ちゃんに会うには、ソフィアの残した魔力の残滓を辿れば良い――そして、セオにもそれを辿る手段、『虹の巫女』の想い、その繋がりが残っているようだった。
ワシはセオに、心に残る繋がりに耳を傾け、繋がりが導く先に向かうように告げた。
その後は、セオは昼間にワシの家で情報交換と旅の準備、夕方にはロイド子爵家へ戻る日々――そう、パステル嬢ちゃんとの物語が始まったのだ。
「お待たせ致しました。ご案内致します」
ワシが昔のことを思い出して感傷に浸っていたその時、目の前の扉が再び開いた。
見知らぬ顔の神官に案内され、ワシは十三年ぶりに、生まれ育った城の中に足を踏み入れたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる