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第二章
七話 貴族はみんな温室育ち!?
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マーサさんと賭けの話をした日から私は、毎日早起きをしてマーサさんに様々な嫌がらせをした。
あるときは靴箱に画びょうを入れ、あるときはカイル親衛隊を使ってマーサさんに悪い印象を与える陰口を広め、またあるときはマーサさんの机をごみ収集に出したりもした。
そんなことをしていくうちに、周りの人は私のことを「最低」や「ありえない」、「何であんなことが出来るの?」などと言うようになった。
もちろん、温室育ちである彼らは私に向かって思っていることを伝えることは出来ないだろう、私はそう高を括っていたんだ。
あの日までは…。
あの日は丁度、百周年記念パーティーの6日前だった。
周りはどんなドレスを着ていくか、誰と一緒に行くかなどとにかく浮き足立っていた。
そんな空気の中、とてもケバ…、いや派手な服装の三人のご令嬢の方々が私に声をかけてきた。
満面の笑みで「ナナ・グレイス様、少しよろしいですか?」と。
大人しく三人について行くと、人気のない旧校舎まで連れていかれ、
ードンッ
いきなり壁ドンをされた。
壁ドンと言っても少女漫画にある可愛らしいものではなく、ちょっと強面の人がやったりする方の壁ドンである。
「あんた、自分が何してるか分かってんの?」
「えっ…?」
「あんたのせいでマーサがどれだけ傷ついてると思ってんのよ!」
その一言で私は気づいた。
彼女たちがマーサさんの親衛隊の人だということに。
そういえば聞いたことあったな。
まだ私が悪役令嬢になる前、クラスメイトの子が「マーサ先輩の親衛隊の人ってすっごく野蛮な方々らしいから関わらないようにした方がいいんですって」って話してるのを聞いたことがある。
この人達か「すっごく野蛮な方々」って。
ーガンッ
「聞いてんのっ?」
壁ドンされながらボケーっとしてる私にイラついたのかその人はもう一度壁ドンをしてきた。
「聞いてますよ」
「じゃあ、もう二度とマーサを傷つけるようなことはしないで。今度やったら許さないから」
捨て台詞を吐き、この場を去ろうとする壁ドンさん(面倒くさいので壁ドンさんと命名します)とその他二人。
『今回は何もされなかったけど次は何されるか分かんないし、このまま嫌がらせなんてやめればいいんじゃない?』
心の中でもう一人の私がそう提案してくる。
正直、嫌がらせなんてするの嫌だし、陰口言われるのも辛い。
本当は今すぐ家に帰って、カイルやマーサさんのことなんか忘れてしまいたいけど…。
嫌がらせなんてもうやめたいけど…。
でもそんな無責任なことできないから。
「無理です、何をされようが私はマーサさんへの嫌がらせを続けます」
私は彼女たちの背中に向かってそう叫んだ。
私が言うと壁ドンさんは立ち止まり、私の方を振り向いた。
「聞き取れなかったから、もう一回言ってくれる?」
「私は先程”無理です”と申し上げました」
「はぁ!?あんた、自分が何言ってるか分かって言ってるの?」
「勿論、理解してますよ」
「じゃあ、私がさっきなんて言ったか分かる?」
「はい、”今度マーサさんに嫌がらせをしたら許さない”って言いました」
「なら、覚悟は出来てんのね」
壁ドンさんはそう言って手をバキバキと鳴らしながら私の方へ近づいてきた。
そして私の胸ぐらを掴み、手を振りあげた。
「あなたの方こそ、覚悟は出来てるんですか?」
「はぁっ?何で私が覚悟しなきゃいけないの!?」
「例えばこれからあなたが私を殴るとします。その事を私が教授達に伝えたら、あなたは停学ではすみませんよ。それに、そこで見ているあなた方も停学は免れないでしょうね」
胸ぐらを掴まれながらそう言って壁ドンさんの行動を見ているだけの彼女たちに目を向けると、彼女たちはあからさまに困惑した顔をしてこちらを見ていた。
「そ、そんなのあんたがマーサに嫌がらせをしていたって言えばあんたの方が悪者になるわ」
「証拠は?あるの?」
「私たちは持ってないけど、マーサならきっと」
「こんなことをして欲しいってマーサさんに言われたの?もし言われてないのに私のことを殴ったりなんてしたら、マーサさんはなんて言うかしら。さすがに”ありがとう”とは言わないと思うけど。しかも殴ってしまった自分たちが悪者にならないために嫌がらせの証拠を出してくれなんて、虫がいいにも程があるんじゃない?」
私は確信していた。
これは彼女たちが勝手に行っているのだと。
だってマーサさんは私の賭けを受けたんだからこんな所で私に怪我でも負わせたら、私がカイルに何か言うかもしれないし。
まぁ、言っても何も変わらないんだけどね。
しかし彼女たちはそんなことも露知らず、慌て始めた。
「はぁっ?だっ、だって嫌がらせしてるあんたの方が悪いんだから、マーサだってきっと…」
「きっと、何?”勝手に人のこと殴っても『マーサのためなの』って言えば許される”って?」
図星だったのか、私がそう言うと彼女たちは口をパクパクさせていた。
ーパシッ
私は壁ドンさんの手を払い、彼女の目を見た。
「それでも、私を殴りますか?」
そう言って微笑んでみせると、彼女は悔しそうに唇を噛み締めた。
「覚えてなさいよ」
いかにも悪役が言いそうな捨て台詞を吐きながら、壁ドンさんと他二名は去っていった。
「はぁ、貴族ってみんな温室育ちだと思ってたのに…」
まさか、あんなに行動力のある令嬢がいるなんて。
ふと、自分の手のひらを見ると震えているのがわかった。
柄にもなく私は怖かったのかもしれない。
今までは陰口を言われるだけで直接何かをされたりすることはなかったけど、今日初めて面と向かって言われて実感したんだ。
”自分が嫌われている”ってことを。
「ふぅ…」
でも、これもあと一週間の辛抱だから。
私はそう思い、ギュッと手を握りしめた。
そして、私のことを噂してザワついているであろう教室へと足を進めた。
通りすがりの男子生徒 side
「…やったら許さないから」
気分転換に散歩をしていたら、女の子の声が聞こえてきた。
声のする方に向かうと、そこにはクラスメイトのマーサ・ミシェルの親衛隊と彼女に対して嫌がらせをしているというナナ・グレイスがいて。
修羅場を目にするのは初めてだった俺は、ワクワクしながらその現場を見ていたのだが…。
「無理です、何をされようが私はマーサさんへの嫌がらせを続けます」
あの子、何言ってんの?
嫌がらせしてる方が悪いのに、すっごく堂々としてるし。
相手は三人もいるんだから普通もっと怯えてもいいはずなのに。
というか、論破してるし。
ちょっと見たらすぐ立ち去るつもりだった俺は、結局親衛隊の三人が立ち去るまでその場に留まっていた。
最後まで見て俺が思ったのは、
・ 嫌がらせをしているナナって子には何かしらの理由があるって事。
そして、
・彼女は頭が良くて冷たいように思えるけど、本当はすごくいい子だって事。
ーパタパタ
足早に走り去る彼女の後ろ姿を見ながら、俺はまた会えたらいいな、なんて呑気なことを考えていた。
そんな俺はこの数秒後になるチャイムを聞いて全速力で教室まで走ることになりしたとさ。
あるときは靴箱に画びょうを入れ、あるときはカイル親衛隊を使ってマーサさんに悪い印象を与える陰口を広め、またあるときはマーサさんの机をごみ収集に出したりもした。
そんなことをしていくうちに、周りの人は私のことを「最低」や「ありえない」、「何であんなことが出来るの?」などと言うようになった。
もちろん、温室育ちである彼らは私に向かって思っていることを伝えることは出来ないだろう、私はそう高を括っていたんだ。
あの日までは…。
あの日は丁度、百周年記念パーティーの6日前だった。
周りはどんなドレスを着ていくか、誰と一緒に行くかなどとにかく浮き足立っていた。
そんな空気の中、とてもケバ…、いや派手な服装の三人のご令嬢の方々が私に声をかけてきた。
満面の笑みで「ナナ・グレイス様、少しよろしいですか?」と。
大人しく三人について行くと、人気のない旧校舎まで連れていかれ、
ードンッ
いきなり壁ドンをされた。
壁ドンと言っても少女漫画にある可愛らしいものではなく、ちょっと強面の人がやったりする方の壁ドンである。
「あんた、自分が何してるか分かってんの?」
「えっ…?」
「あんたのせいでマーサがどれだけ傷ついてると思ってんのよ!」
その一言で私は気づいた。
彼女たちがマーサさんの親衛隊の人だということに。
そういえば聞いたことあったな。
まだ私が悪役令嬢になる前、クラスメイトの子が「マーサ先輩の親衛隊の人ってすっごく野蛮な方々らしいから関わらないようにした方がいいんですって」って話してるのを聞いたことがある。
この人達か「すっごく野蛮な方々」って。
ーガンッ
「聞いてんのっ?」
壁ドンされながらボケーっとしてる私にイラついたのかその人はもう一度壁ドンをしてきた。
「聞いてますよ」
「じゃあ、もう二度とマーサを傷つけるようなことはしないで。今度やったら許さないから」
捨て台詞を吐き、この場を去ろうとする壁ドンさん(面倒くさいので壁ドンさんと命名します)とその他二人。
『今回は何もされなかったけど次は何されるか分かんないし、このまま嫌がらせなんてやめればいいんじゃない?』
心の中でもう一人の私がそう提案してくる。
正直、嫌がらせなんてするの嫌だし、陰口言われるのも辛い。
本当は今すぐ家に帰って、カイルやマーサさんのことなんか忘れてしまいたいけど…。
嫌がらせなんてもうやめたいけど…。
でもそんな無責任なことできないから。
「無理です、何をされようが私はマーサさんへの嫌がらせを続けます」
私は彼女たちの背中に向かってそう叫んだ。
私が言うと壁ドンさんは立ち止まり、私の方を振り向いた。
「聞き取れなかったから、もう一回言ってくれる?」
「私は先程”無理です”と申し上げました」
「はぁ!?あんた、自分が何言ってるか分かって言ってるの?」
「勿論、理解してますよ」
「じゃあ、私がさっきなんて言ったか分かる?」
「はい、”今度マーサさんに嫌がらせをしたら許さない”って言いました」
「なら、覚悟は出来てんのね」
壁ドンさんはそう言って手をバキバキと鳴らしながら私の方へ近づいてきた。
そして私の胸ぐらを掴み、手を振りあげた。
「あなたの方こそ、覚悟は出来てるんですか?」
「はぁっ?何で私が覚悟しなきゃいけないの!?」
「例えばこれからあなたが私を殴るとします。その事を私が教授達に伝えたら、あなたは停学ではすみませんよ。それに、そこで見ているあなた方も停学は免れないでしょうね」
胸ぐらを掴まれながらそう言って壁ドンさんの行動を見ているだけの彼女たちに目を向けると、彼女たちはあからさまに困惑した顔をしてこちらを見ていた。
「そ、そんなのあんたがマーサに嫌がらせをしていたって言えばあんたの方が悪者になるわ」
「証拠は?あるの?」
「私たちは持ってないけど、マーサならきっと」
「こんなことをして欲しいってマーサさんに言われたの?もし言われてないのに私のことを殴ったりなんてしたら、マーサさんはなんて言うかしら。さすがに”ありがとう”とは言わないと思うけど。しかも殴ってしまった自分たちが悪者にならないために嫌がらせの証拠を出してくれなんて、虫がいいにも程があるんじゃない?」
私は確信していた。
これは彼女たちが勝手に行っているのだと。
だってマーサさんは私の賭けを受けたんだからこんな所で私に怪我でも負わせたら、私がカイルに何か言うかもしれないし。
まぁ、言っても何も変わらないんだけどね。
しかし彼女たちはそんなことも露知らず、慌て始めた。
「はぁっ?だっ、だって嫌がらせしてるあんたの方が悪いんだから、マーサだってきっと…」
「きっと、何?”勝手に人のこと殴っても『マーサのためなの』って言えば許される”って?」
図星だったのか、私がそう言うと彼女たちは口をパクパクさせていた。
ーパシッ
私は壁ドンさんの手を払い、彼女の目を見た。
「それでも、私を殴りますか?」
そう言って微笑んでみせると、彼女は悔しそうに唇を噛み締めた。
「覚えてなさいよ」
いかにも悪役が言いそうな捨て台詞を吐きながら、壁ドンさんと他二名は去っていった。
「はぁ、貴族ってみんな温室育ちだと思ってたのに…」
まさか、あんなに行動力のある令嬢がいるなんて。
ふと、自分の手のひらを見ると震えているのがわかった。
柄にもなく私は怖かったのかもしれない。
今までは陰口を言われるだけで直接何かをされたりすることはなかったけど、今日初めて面と向かって言われて実感したんだ。
”自分が嫌われている”ってことを。
「ふぅ…」
でも、これもあと一週間の辛抱だから。
私はそう思い、ギュッと手を握りしめた。
そして、私のことを噂してザワついているであろう教室へと足を進めた。
通りすがりの男子生徒 side
「…やったら許さないから」
気分転換に散歩をしていたら、女の子の声が聞こえてきた。
声のする方に向かうと、そこにはクラスメイトのマーサ・ミシェルの親衛隊と彼女に対して嫌がらせをしているというナナ・グレイスがいて。
修羅場を目にするのは初めてだった俺は、ワクワクしながらその現場を見ていたのだが…。
「無理です、何をされようが私はマーサさんへの嫌がらせを続けます」
あの子、何言ってんの?
嫌がらせしてる方が悪いのに、すっごく堂々としてるし。
相手は三人もいるんだから普通もっと怯えてもいいはずなのに。
というか、論破してるし。
ちょっと見たらすぐ立ち去るつもりだった俺は、結局親衛隊の三人が立ち去るまでその場に留まっていた。
最後まで見て俺が思ったのは、
・ 嫌がらせをしているナナって子には何かしらの理由があるって事。
そして、
・彼女は頭が良くて冷たいように思えるけど、本当はすごくいい子だって事。
ーパタパタ
足早に走り去る彼女の後ろ姿を見ながら、俺はまた会えたらいいな、なんて呑気なことを考えていた。
そんな俺はこの数秒後になるチャイムを聞いて全速力で教室まで走ることになりしたとさ。
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