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4ヶ月後 いつもの通学時間
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靴を履きながら、見送りに来たよしふみを振り返る。
「今日は遅い?」
「あー、そうだな。色々かかりそうだから、かなめと夜ご飯、食べといてくれるか。」
「了解」
かなめも靴が履けたようで、戸の前に佇んでいる。
制服のスカーフが綺麗に結べていないので、解いた上ではやとが結び直す。
「ありがと」
「大したことじゃないよ」
にっこり笑ってかなめの頭に軽く手を乗せた。
「かなめとなりのクラスに行きすぎて迷惑かけんじゃねーぞ、過保護強火厄介シスコン。かなめに友達できなかったらどうすんだ。」
そう言ってよしふみは腕を組んだ。
二人の通う高校はエスカレーター式で、はやとは中学生の頃から通っている。部活に打ち込んではいたものの、家族を失った後のはやとは相当荒れていたし喧嘩っ早かったので、未だに怖がる者が多い。そんなのが四六時中いたら女子はかなめに近づきにくいだろう。ぐぬぬと口ごもるはやとの頭によしふみは手刀を食らわせた。
「そういう意味じゃねえよ。あれから品行方正の優等生になったことは俺だって知ってる。何度先生方に説明を求められたかわかんねえよ。ただただ、シスコンが常に張り付いてたら声がかけにくいってだけだ」
「き、気を付ける」
授業中はクラスが別だし、男女別の授業も一緒には受けられない。常に一緒ではないから大丈夫だろう、と心で呟くと、見透かしたようによしふみがじとっとした目で見つめてきた。
ほら、お弁当をちゃんと食べてるか見とかないといけないし、かなめ用に先生が用意してくれた算数ドリルとか見てやらなきゃいけないし…
「い、いってきます」
引き戸を開けて振り返ると、かなめもよしふみの方を振り返って手を振っていた。よしふみも小さく手を上げて応え、歩き出す二人の背後に引き戸を閉めた。
セミの大合唱の中、青々とした桜並木を二人は歩く。
はやとが前を歩き、斜め後ろ、はやとの袖をそっとつかんだかなめが続く。
もちろん、何かに怯えて俺の陰に隠れてるとかなら可哀想だし何とかしないといけないんだろうけど、かなめの顔を見る限りそんなこともなさそうなんだよな。
この道も通い始めてまだ一月しか経ってないから慣れないだろうし、純粋に人の後を歩くのが楽なだけかもしれない。
それに、頼られているみたいで正直嬉しい。
信号が赤に変わったので立ち止まり、軽く腕を上げてかなめを車からかばう。
…過保護な自覚はある。でも、主だった交通ルールを一切知らなかったかなめは最初赤信号でも渡ろうとして、立ち止まった俺の背中に鼻をぶつけていた。
何を知っていて何を知らないのか、正直まだ判別がつかないのが実情だ。話してくれるまではなにも聞かないつもりだが…
「かな、心臓病を治すために小さい頃から海外にいたって設定、今のところ大丈夫そうか?」
日本語が怪しいのに英語が流暢だとか、数学は分からないのにAIやPCを使った情報処理は得意だとか、そのアンバランスさをその「設定」で押し通している。
「だいじょうぶ。だけど、二年生になれるかわからないっていわれた。」
「はは、そりゃ大変だ。頑張ろう」
かなめは笑わないが、尖っていた空気がこの数ヶ月で大分柔らかくなっている。
順調だと思う。きっとこのまま生活に溶け込んでいける。だから、過去をわざわざほじくり返すことはしなくて良い。
自分の胸にそう宣言したところで、はやとは横断歩道の向こうにいる人影に気づき、露骨に嫌な顔をした。
「げ。長谷川先輩…」
人影は満面の笑みで、大きく手を振っていた。
「今日は遅い?」
「あー、そうだな。色々かかりそうだから、かなめと夜ご飯、食べといてくれるか。」
「了解」
かなめも靴が履けたようで、戸の前に佇んでいる。
制服のスカーフが綺麗に結べていないので、解いた上ではやとが結び直す。
「ありがと」
「大したことじゃないよ」
にっこり笑ってかなめの頭に軽く手を乗せた。
「かなめとなりのクラスに行きすぎて迷惑かけんじゃねーぞ、過保護強火厄介シスコン。かなめに友達できなかったらどうすんだ。」
そう言ってよしふみは腕を組んだ。
二人の通う高校はエスカレーター式で、はやとは中学生の頃から通っている。部活に打ち込んではいたものの、家族を失った後のはやとは相当荒れていたし喧嘩っ早かったので、未だに怖がる者が多い。そんなのが四六時中いたら女子はかなめに近づきにくいだろう。ぐぬぬと口ごもるはやとの頭によしふみは手刀を食らわせた。
「そういう意味じゃねえよ。あれから品行方正の優等生になったことは俺だって知ってる。何度先生方に説明を求められたかわかんねえよ。ただただ、シスコンが常に張り付いてたら声がかけにくいってだけだ」
「き、気を付ける」
授業中はクラスが別だし、男女別の授業も一緒には受けられない。常に一緒ではないから大丈夫だろう、と心で呟くと、見透かしたようによしふみがじとっとした目で見つめてきた。
ほら、お弁当をちゃんと食べてるか見とかないといけないし、かなめ用に先生が用意してくれた算数ドリルとか見てやらなきゃいけないし…
「い、いってきます」
引き戸を開けて振り返ると、かなめもよしふみの方を振り返って手を振っていた。よしふみも小さく手を上げて応え、歩き出す二人の背後に引き戸を閉めた。
セミの大合唱の中、青々とした桜並木を二人は歩く。
はやとが前を歩き、斜め後ろ、はやとの袖をそっとつかんだかなめが続く。
もちろん、何かに怯えて俺の陰に隠れてるとかなら可哀想だし何とかしないといけないんだろうけど、かなめの顔を見る限りそんなこともなさそうなんだよな。
この道も通い始めてまだ一月しか経ってないから慣れないだろうし、純粋に人の後を歩くのが楽なだけかもしれない。
それに、頼られているみたいで正直嬉しい。
信号が赤に変わったので立ち止まり、軽く腕を上げてかなめを車からかばう。
…過保護な自覚はある。でも、主だった交通ルールを一切知らなかったかなめは最初赤信号でも渡ろうとして、立ち止まった俺の背中に鼻をぶつけていた。
何を知っていて何を知らないのか、正直まだ判別がつかないのが実情だ。話してくれるまではなにも聞かないつもりだが…
「かな、心臓病を治すために小さい頃から海外にいたって設定、今のところ大丈夫そうか?」
日本語が怪しいのに英語が流暢だとか、数学は分からないのにAIやPCを使った情報処理は得意だとか、そのアンバランスさをその「設定」で押し通している。
「だいじょうぶ。だけど、二年生になれるかわからないっていわれた。」
「はは、そりゃ大変だ。頑張ろう」
かなめは笑わないが、尖っていた空気がこの数ヶ月で大分柔らかくなっている。
順調だと思う。きっとこのまま生活に溶け込んでいける。だから、過去をわざわざほじくり返すことはしなくて良い。
自分の胸にそう宣言したところで、はやとは横断歩道の向こうにいる人影に気づき、露骨に嫌な顔をした。
「げ。長谷川先輩…」
人影は満面の笑みで、大きく手を振っていた。
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