無色透明なきみへ

Okayakan

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4ヶ月後: 長谷川先輩②

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「また昼にな~」

 はやとはかなめが教室に入るのを見届けると、隣の教室に向かう。
 さっきのやり取りは何だったんだろう?
 かなめの動作を思い出す。
 互いに手のひらと手の甲を見せて、自分が無害であることを主張していた。



 まるで決められた型があるかのように、スムーズなやり取りだった。

 まさか本当に二人は会ったことがあるのか?
 それとも、俺の知らない間に隣の教室に先輩が来た? 
 ―いや、それはない。隣の教室だ、来ればすぐに分かるはずだ。それに昼休みは俺がいるから隠れて会いに来ることはできない。
 じゃあ、移動教室の行き帰りでちょっかいをかけられた?
 そもそも、ほんの少し会ってあんな暗号みたいなものを示し合わせる意味も分からない。

 むしゃくしゃしてたまらなくなり、はやとは教室の扉に手をかけ、勢い良く開いた。壊れんばかりの音を立てて引き戸が開く。

「おっはよー!!!」

 力の限り叫ぶと、扉の近くでたむろっている男子三人がびくりと肩を震わせた。

「はやと声うるせー」
「態度もうるせー」
「シスコン、おはよー」

 中学の頃からの友人なので、皆遠慮がない。
 はやとは不機嫌な顔のまま無言で友人の一人が読んでいる雑誌を奪い、教室の奥へぶん投げた。

「ひ、ひでー!俺はちゃんとおはようって言ったのに!!」

雑誌を拾いに行く友人を一瞥もせず、はやとはずんずんと教室に入った。

「俺はシスコンじゃねえ」
 ―クラスにいる全員が信じられないものを見るような顔でばっとはやとを見つめたので、さすがにはやとは気まずくなって肩をすくめた。

 過保護ではあるが、断じてシスコンではない。長らくこの地を離れ一般常識に疎い妹なのだ。守るのは普通だし、色々教えるのもごく自然なことではないか。
 断じてシスコンではない。

「はいはい。上まで聞こえてきたぞ?お前また長谷川さんに絡んでただろ」
「絡んでたのは向こうだ。俺じゃない。」
 自分の席にどかっと座り、通学かばんを机の上に下ろす。

「大体、おかしいだろ。長谷川先輩だぞ?いくら来るもの拒まずとはいえ、付き合ってたのは大体派手めな年上か大人っぽい同級生だっただろ。確かにかなめはかわいいが、もっとこう、他にいるだろ!?かなめじゃなくても良いじゃないか!!」
 友達の一人、ケイスケがため息をつく。

「お前、自分でも滅茶苦茶なこといってる自覚あるだろ?他って何だよ、他って。何でお前がそんなこと決めてんだよ。」
図星ではやとは黙り込む。

「むしろお前以外の奴らは大体が喜んでるんだぞ。先輩が誰かを追いかけてるのなんて初めてだろ?今は告られても全部断ってお前の妹一筋なんだ。あの人、すっげ面倒見良くて優しいけど、どこか人間味なかったんだから。」

 私怨でクズだと認定しているが、確かに長谷川先輩は良い人だ。
 生徒同士のトラブルがあればすぐに誰かが生徒会室に走って行き、現れるのは大体が長谷川先輩だ。他校とトラブルになっても、嫌な顔ひとつせず現れ、次の日には解決させている。

 喧嘩を丸く収めるコミュニケーション能力の高さもあるし、先生や学園との交渉にも良く駆り出されている。頭も良い。噂では、全学年の孤立している生徒を把握していて、適切なタイミングで介入するという、おおよそ一介の生徒とは思えない活躍ぶりである。聞けば聞くほど人間味がない。

優しく周りのことに良く気がつく。だけど、「特別」がいない。それがあの先輩だったのだ。

 だから、不可解なんだ。

 先輩が好きだなんだと絡んでくるまで、二人に接点はなかった。それが急に毎朝待ち伏せして来るのだから、からかわれていると考えてもおかしくはないだろう。
 でも、意味もなしにこんな風にからかう人でもない。

 予鈴が鳴ったのではやとは前を向き、姿勢を正した。

 かなめが戻ってきてから、自身がかなめにとっての不利益にならないように、はやとは懸命に努力してきた。
 悪童の評判を払拭、成績の向上、勉学や校内イベントに積極的に参加、教師との関係性の改善…かなめの利益に繋げられそうなことなら何でもする。
 
 …かなめが望んで誰かを好きになるなら構わない。
 でも、本気かどうかも分からない人に押し切られてなしくずし的に付き合ったり、そのせいで今までできなかった生活を奪われるのは嫌だ。
 何かあれば絶対に守りたい。だから。

 …そう決意したその日の昼に、事件は起きた。
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