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1章 お嬢生誕
3.挨拶と出会い
しおりを挟む見渡す限りの人、人、人。どこを見ても人ばかり。
あの式の後、気付いた時にはもう場所が変わっていて、広間の様な場所。点々とある机の上には、ちょっとした料理などがありパーティの様な光景。
貴族の子供は生まれてすぐにもう、こうしてパーティなんかになるのかと辺り――とは言ってもまだ首が動かないから目で見える範囲だけ――を見回した。
「久しいですね、ドュライア公」
不意に聞こえた声。
「ああ! 来てくれたか、ガーディス!! 何だ、いつもみたいに呼んでくれて構わんといつも言っているだろう」
話しかけに来る人来る人、色々考えている事が結構見え見えで赤ん坊ながら少し見ているのが嫌になった頃後ろからの声に振り返った二人。何よりも早く父が反応した。
「こういう場ではしょうがないと言っているだろう、全く…。ああ、アグネディア夫人。今回は誠におめでとう御座います。今日は私一人だけでの参加お許しください」
「リグラネルドから聞いています。奥様の体調は如何ですか?来てくれただけでも良いですのよ。夫もこうして喜んでいますから」
「それは良かった。それにしても、とても愛らしい子ですね」
ガーディスと呼ばれた人は、リグラネルドに言われたことに少し困ったような顔をし、苦笑したがそれも直ぐに居住まいを正し、腰を曲げアグネディア差し出された方の手に軽く口付けをひとつ。それと謝罪を述べた。
そして、優雅に姿勢をただし私の顔をのぞき込んだ。
「ええ、リグラネルドにそっくりでしょう? とても綺麗な子になると思うの。笑ったときの顔とかとても可愛いのよ」
「アグネディア夫人にも似ているではないですか、鼻や口元は貴女にそっくりだ。私の息子もそろそろ一歳になるという頃、リオネスフィアル様を護れるようちゃんと鍛え上げなければならないですね」
「もうそんなに経つのか、ならばリオネスフィアルの遊び相手を頼もうかな」
「我が息子ではこの愛らしい子を傷付けてしまうよ、結構力が強くなってきたからな。」
黒く、少し癖のある方につくかつかないか程の髪。とても艶があってきらきらとしている。その胸板は厚く、何処か野生を感じるような見た目。山吹色の様な目付きの悪い目は、ぎらぎらとしていてそれでもってとても今は敬愛?を感じるような目をしている。口数の少なかった祖父の舎弟の佐輔が、おじいちゃんを見ている目に似ている気がした。
手を触られているような感覚に、きゅっと指を握るとその山吹色の瞳が見開かれ
それと同時に、見えないものが見えた。
「ははは、どうしたガーディス」
「はっ、あ、いや、今…すまない、取り乱した」
「ふふふ、赤ん坊は急に握るものね。驚くわ」
さも当たり前かのような二人の対応。
その黒髪の上に出た二等辺三角形のものは紛れもない狼のものだ。そして、視界の端に見えた黒いもふもふしたものはきっと尻尾だろう。
とても抱きつきたい。もふもふしたい。
一瞬の出来事、何が起きたのか理解出来ていなかったようでリグラネルドが笑いつつ言うと本人は割とおろおろとしているように見えた。
「お恥ずかしい姿をお見せ致しました。」
「あら、何言ってるの貴方達はその姿が一番美しいわ」
そんなやり取りが頭上で行われている。
私は生き物が大好きだ。
体調など考慮して、今まで飼う事はできなかったけれど生き物にとても好かれるタイプであったと勝手に思っている。
生前…てなんか、この言い方は何か引っかかるけれど、ずっと仲良くしてた野良猫がいた。私を見かけると声をかけてくれたりよく一緒に過した。言葉が分かるわけじゃないし、その頃は分かればいいななんて思っていた。
動物園や水族館が好きだったけれど、動物達が皆近寄ってきて収集がつかなくなるから行くのが禁止となったが、聞いたところ、祖父が同じ質だったという。言葉は通じないけれど、どこか通じるところはあったと勝手ながら思う。
この世界では、この身体ではそれを気にしないで済む。まだ、産まれたばかりだから生き物という生き物にあった事はないけれど。
そういえば、あのキュティーとかいうアレは多分あれは違うものだと思っている。第一毛の塊で、顔があるかすらわからない妖精的な類のものではないかとシーレンも言っていたし。
「リオネスフィアル嬢に祝福を。今度、息子と妻を連れて挨拶に来てもいいか…?」
すっと、母にやった様に手を持ち上げるとその小さな手にそっと口付けをしたガーディス。気づいた頃にはもう、尻尾も耳も消えていた。
「ああ! いつでも歓迎だ。そんなに屋敷も離れていないが泊まりに来ればいい! そうだ、日取りを考えよう。いつなら空いてる?」
「ま、待て待て…流石にそんなに急には来られないだろう。夫人の体調もある。ニ旬が過ぎたら、二人を連れてくる。泊まりはまた別の日取りを…」
父に押されて困っているガーディスだが、母はそれを微笑み見ているだけでちょっと可哀想にも見えた。
しかし、それにしたって赤ん坊に対してあの目は無いだろう。この身体でなければ、相当身悶える程の色気のある瞳。少しの憂いが浮かべているところが更にそれを引き立てる。
この人は既婚者この人は既婚者。そう言い聞かせる赤ん坊なんてどこにいるのだろうか。
ここにいるのだけれど
「ふふふ、クーリアに会えるのね? 楽しみだわぁ!」
「アグネディア夫人まで…」
一人悩んでいる中、親達の会話は進んでいった。
「旦那様、そろそろ…」
「ああ。わかっている。」
話の途中で急に現れた従者。それはガーディスの者のようで、声をかけられるとそちらを確認した。
「じゃあ、気をつけて帰れよガーディス」
「はい。それでは、これにてお暇させて頂きます。ドュライア家へ、グレンダーナ家からの祝福を…」
優雅に頭を下げ、どこから現れたのか分からぬ執事を後ろに控え帰っていった。
二人の様子からするに、ガーディスとは旧知の仲無といったところだろうか。そのへんの貴族同士の関わりでは無い気がする。
「ガーディスも相変わらずだな。」
「そうね、クーリアも元気だといいわ…それにしても、この子は本当に大人しい良い子ね。」
「そうだな、人見知りもしないようだ。」
「もうちょっと、手が掛かってもいいのに」
モヤモヤとそんなことを考えていると、アグネディアがリオネスフィアルの頬を撫でながら優しく優しくそういった。その顔を見上げると、ほんのりと悲しさが混じって見えた。
手が掛かる…か。
***
ふと、興味を覚えた事がある。
それは何故【言葉が通じる】のか。
よくある話だが、音と口の動きが合っていない。なんてことは無く、でも何となく違和感は拭えない。脳内で変換でもされているのだろうと
そして、此処の年月の言い方は、ガーディスが言っていた【ニ旬】=【二ヶ月】の事だった。このことから【一ヶ月】は【一旬】となる。
その後貴族たちの話を聞いていると、この地域は四季がなく三季らしい。冬が長く夏が無い。冬が終わると春が続き、秋が来て、冬になる。日本では考えられない気候が保たれている。そして、【一巡】が【一年】。【一巡】は【十二旬】。
一日の長さは変わらないし、時間という概念もあるがそれはそこまで詳しくはまだ分からない。
しかし【一日】は【一日】らしい。そこだけ設定雑ではないだろうか。理由も、日が昇り下りる事から。だという。
なんてそんな、グダグダ説明長くなりましたが、私リオネスフィアルはニ旬目になりました。ニ旬目にはまたガーディスに会えるし、その子供と奥さんに会える!!
私はもふもふを期待してます。もふもふを!
ついでに補足すると、この間動くようになってきた身体を動かしていたら寝返りができました。
が、此処が問題です。まだ首が座っていない為、後少しシーレンに見つかるのが遅かったら窒息死が目の前でした。
もう、周りに誰もいないときに寝返り練習するのはやめようと思います。
「あの時はほんと、とても焦りましたよ…」
「赤ん坊ってそうだからねぇ、次から目を放しちゃ駄目だよシーレン」
「はい……こんな可愛いお嬢様なのだから、早く大きくなってもらって沢山お世話させてもらいたいですもの」
「ええ、そうね。あの御二人の子だもの間違いないわ」
その事を先輩のメイドに話をしていたシーレンが、微笑みながら身体を揺らすものだから欠伸が出た。
抱っこされているからシーレンしか見えないが、くるまれている布が少し退かされ先輩メイドに微笑まれた。
「あ、う…うう」
口から出るのはそんな言葉。声が出るようになっただけましか。
一人落ち込んでいると、ドアのノック音が聞こえた。
「シーレン」
「アデラメイド長?」
「ああ、ここに居ましたかメリー。グレンダーナ夫妻とお子様が到着なさいました。至急シーレン以外のメイドは集まってください」
「畏まりました。リオネスフィアル様、また後で」
あの人はメリーと言うらしい、多分初めましてだと思う。寝ているときに会ってる場合は仕方ない。
アデラにそう言われ、挨拶をしてからすぐに部屋から出ていったメリー。
いつも付きのメイドはシーレンなのだが、シーレン以外は基本私の面倒には手を出さない。普通交代制なのではないのだろうか?
しかも、子育ても普通乳母が居るはずなのだが居ない。ファンタジーだから、だろうか。ファンタジーだからこそ、だと思ったけれど違ったよう。
こんなことになるならもう少し読んでおけば良かったなぁ小説。
あ、まだ読み終わってない小説あったなそういえば…。
やって来たグレンダーナ家。
そして、待ちに待った瞬間、目に映ったのはもふもふでした。
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