4 / 4
第4話
──小鳥の囀ずる音が聞こえる。
瞼を照らす光も、眩しいように感じられる。
もしかして、もう朝……?
「……ん……っ」
朦朧とする意識の中、重たい瞼をゆっくりと開ける。目の前には、瞳を細めて私を見つめる旦那様の顔があった。
「サラ。おはよう」
抵抗する間も無く綺麗な顔が近付き、触れるだけのキスを落とされる。その後、何度もちゅっちゅっと口づけを交わされ、身も心も甘い気分に包まれていた──が、ふと我に返った。
「っ、お、お仕事!」
雇われメイドの身分で、何を呑気に寝ているんだ私は! 料理に掃除に洗濯、何もやってな──
「サラ。今の君の仕事は、俺の隣にいることだよ」
起こしかけた上体を、腕を引かれて旦那様の胸の中に戻される。そのまま何度も何度もおでこにキスをされて。再び蕩けるような心地好さに包まれていった。
「サラ。やっと俺のところに来てくれたね。夢みたいな気分だ」
「だ、旦那様……」
「悪いけど二度と離すつもりないから。覚悟してね」
旦那様は普段と同じように微笑むと、首筋に唇を這わせた。熱い吐息が肌に直接掛かり、淡い声が唇から溢れていく。
「だ、旦那様、ダメ、朝から……」
「やだ。もう一回サラの可愛い顔、見せて?」
抵抗しようと胸板を押そうとした手を掴まれ、旦那様の身体が覆い被さる。旦那様は、完全に獲物を捕らえた獣の目付きをしていた。
「だ、旦那様、あっ──」
結局、旦那様に逆らえるはずも無く。
部屋の中に二つの吐息と、甘い声と──
ベッドが軋む音が響き渡った。
それから数ヵ月の時が流れ、風の噂が運ばれてきた。ミシェルは仕事を首になり、リュシーは家から勘当されたとか。
まさかと思って、旦那様に心当たりがあるかと聞いたけど「何のこと?」と笑ってはぐらかされた。その時の笑顔が何だかとても恐ろしく感じられたのを覚えている。
間違っても旦那様だけは敵に回してはいけないと、心に刻んだ。
「……生まれてきたら、お父さんのこと怒らせちゃダメだからね?」
旦那様が私の為に用意してくれた部屋の中。揺り椅子に腰を掛けながら大きく膨らんだお腹を撫でる。
トン、とお腹から何かを蹴るような音が聞こえ、自然と笑みが溢れた。
まるで、この子が返事をしてくれたみたい。素直で優しい子に育ってくれるといいなぁ。間違っても旦那様みたいな腹黒には……。
「サラ。何か失礼なこと、考えてるね?」
頭上から聞き慣れた声が落ち、身体がビクンと跳ねる。顔を上げるなり旦那様の顔が近付き、そのまま唇を奪われた。
「んっ……旦那様……」
「可愛いサラ。元気な子を産んでね」
翡翠の瞳を細めて、旦那様はいつものように微笑む。
恋人の浮気現場を目撃したら、何故か旦那様に抱かれて、そして子供を授かって。
平民の自分では旦那様と釣り合わないからと逃げようとしたけれど、直ぐに捕まって。「二度と離さないって言ったよね? 俺はサラ以外に妻を娶る気は無いから」と言ってくれて。
優しく見えて、少し強引で、どこか子供みたいな部分もある旦那様。
「……何を笑っているんだ? サラ」
「ふふっ。別に?」
可愛い、私の旦那様。
貴方のことを一生愛します。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
離縁希望の側室と王の寵愛
イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。
国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。
いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──?
※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。
シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み
私の意地悪な旦那様
柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。
――《嗜虐趣味》って、なんですの?
※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話
※ムーンライトノベルズからの転載です
片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた
アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。
高校生くらいから何十回も告白した。
全て「好きなの」
「ごめん、断る」
その繰り返しだった。
だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。
紛らわしいと思う。
彼に好きな人がいるわけではない。
まだそれなら諦めがつく。
彼はカイル=クレシア23歳
イケメンでモテる。
私はアリア=ナターシャ20歳
普通で人には可愛い方だと言われた。
そんなある日
私が20歳になった時だった。
両親が見合い話を持ってきた。
最後の告白をしようと思った。
ダメなら見合いをすると言った。
その見合い相手に溺愛される。
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
良綏
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ