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第4話
しおりを挟む──小鳥の囀ずる音が聞こえる。
瞼を照らす光も、眩しいように感じられる。
もしかして、もう朝……?
「……ん……っ」
朦朧とする意識の中、重たい瞼をゆっくりと開ける。目の前には、瞳を細めて私を見つめる旦那様の顔があった。
「サラ。おはよう」
抵抗する間も無く綺麗な顔が近付き、触れるだけのキスを落とされる。その後、何度もちゅっちゅっと口づけを交わされ、身も心も甘い気分に包まれていた──が、ふと我に返った。
「っ、お、お仕事!」
雇われメイドの身分で、何を呑気に寝ているんだ私は! 料理に掃除に洗濯、何もやってな──
「サラ。今の君の仕事は、俺の隣にいることだよ」
起こしかけた上体を、腕を引かれて旦那様の胸の中に戻される。そのまま何度も何度もおでこにキスをされて。再び蕩けるような心地好さに包まれていった。
「サラ。やっと俺のところに来てくれたね。夢みたいな気分だ」
「だ、旦那様……」
「悪いけど二度と離すつもりないから。覚悟してね」
旦那様は普段と同じように微笑むと、首筋に唇を這わせた。熱い吐息が肌に直接掛かり、淡い声が唇から溢れていく。
「だ、旦那様、ダメ、朝から……」
「やだ。もう一回サラの可愛い顔、見せて?」
抵抗しようと胸板を押そうとした手を掴まれ、旦那様の身体が覆い被さる。旦那様は、完全に獲物を捕らえた獣の目付きをしていた。
「だ、旦那様、あっ──」
結局、旦那様に逆らえるはずも無く。
部屋の中に二つの吐息と、甘い声と──
ベッドが軋む音が響き渡った。
それから数ヵ月の時が流れ、風の噂が運ばれてきた。ミシェルは仕事を首になり、リュシーは家から勘当されたとか。
まさかと思って、旦那様に心当たりがあるかと聞いたけど「何のこと?」と笑ってはぐらかされた。その時の笑顔が何だかとても恐ろしく感じられたのを覚えている。
間違っても旦那様だけは敵に回してはいけないと、心に刻んだ。
「……生まれてきたら、お父さんのこと怒らせちゃダメだからね?」
旦那様が私の為に用意してくれた部屋の中。揺り椅子に腰を掛けながら大きく膨らんだお腹を撫でる。
トン、とお腹から何かを蹴るような音が聞こえ、自然と笑みが溢れた。
まるで、この子が返事をしてくれたみたい。素直で優しい子に育ってくれるといいなぁ。間違っても旦那様みたいな腹黒には……。
「サラ。何か失礼なこと、考えてるね?」
頭上から聞き慣れた声が落ち、身体がビクンと跳ねる。顔を上げるなり旦那様の顔が近付き、そのまま唇を奪われた。
「んっ……旦那様……」
「可愛いサラ。元気な子を産んでね」
翡翠の瞳を細めて、旦那様はいつものように微笑む。
恋人の浮気現場を目撃したら、何故か旦那様に抱かれて、そして子供を授かって。
平民の自分では旦那様と釣り合わないからと逃げようとしたけれど、直ぐに捕まって。「二度と離さないって言ったよね? 俺はサラ以外に妻を娶る気は無いから」と言ってくれて。
優しく見えて、少し強引で、どこか子供みたいな部分もある旦那様。
「……何を笑っているんだ? サラ」
「ふふっ。別に?」
可愛い、私の旦那様。
貴方のことを一生愛します。
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