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第1章
7話※
しおりを挟む「はっ、はぁ、あぁっ」
「サクラ……サク、ラ……」
魔力による灯火によって照らされた薄暗い部屋の中。ほぼ裸同然の状態となっていたサクラは、夫が齎す甘い熱に翻弄され続けていた。
「んっ、あぁっ、だめっ、やめてっ」
ふるふると揺れ動く双丘を揉みしだかれ、サクラは切なく鳴き声を上げる。ヴィクトールはそんな妻を愛おしそうに見つめながら、白い陶器のような肌に幾つもの蝶型の証を落とした。
──ヴィクトールに抱かれるのは、久方ぶりだった。
体調の優れないサクラを気遣って、無理に触れるのを控えていたのだとは思うが、心の奥底では自分の女としての部分に惹かれなくなったからなのではないかとサクラは胸を痛めていた。
しかし、それは浅はかな思い込みであった。
今、自分を組み敷いている夫は、荒々しい呼吸を繰り返し──寛げて露になった雄からは我慢汁がポタリポタリとあふれ出している。まるで餌を目の前にしながら、何日も空腹を凌いできた獣のようだった。
「……サクラ。どこにも行くな。頼む、愛しているんだ、行かないでくれ」
「ひっ、あっ、あぁん」
影のある大きな手が太腿の間に滑り、敏感に膨れ上がった蕾をぐにぐにと弄り出す。あんあんと喘ぎ声が漏れるサクラの唇はヴィクトールの薄い唇によって吸い取られ、快感に打ち震えるようにサクラは痙攣を起こした。
「あっ、んんっ、あぁっ」
──そして今、サクラの胸元からは禍々しい邪気が容赦なくあふれ出している。おそらく、この黒い靄はサクラにしか見えていない。夫に抱かれようとしている今ですら、心の隙を窺ってはサクラの身体を乗っ取ろうとする。
「んっ、んんっ……」
昔、浄化の旅で勇者と共に深淵の闇の間を訪れたとき。やっとの思いで倒したと思い込んだ黒竜に、死に際で同じような靄を放たれ、不運にもサクラはそれを浴びてしまったのだ。
その事実を知るのはサクラと勇者だけ。サクラを盾にして靄を免れた勇者は何知らぬ顔をしていたが故に、彼女は一人でそれを抱え込む他なかった。旅が終わったあとはなんとか抑え込んでいたものの、ヴィクトールの件で心の傷が更に抉られたあの日をきっかけに再び闇が彼女を蝕み始めてしまった。
長年の時を経て薄れてしまった聖なる力で浄めようとしても、じわりじわりと身体の内側から浸食されていく。このまま身体を支配されてしまえば、自分はどうなってしまうのだろうか。限界を迎えるのも時間の問題だ。手遅れになる前に、どうにかしなければならない。
だから、サクラは逃げようとした。
城から遠退いて、ヴィクトールの元から離れて、大切な人を傷つけない世界へ逃れようとした。
なのに。ヴィクトールは彼女を逃がしてくれなかった。
「っ、はぁ、あぁ、やっ」
涙で潤んだサクラの瞳に、ヴィクトールの胸元で光る首飾りが映し出される。彼がクリスチアーヌを妻として迎えてから、片身離さず身に付けているもの。
聞いたことはない。本当のことなんて、知りたくもないけれど、おそらくクリスチアーヌから貰ったものなのだろう。
他に大切な人ができたのならば、自分のことなんて放ってくれたらいいのに。一層のこと、無様に捨ててくれればいいのに。そうすれば心置きなくヴィクトールを忘れられるかもしれないのに。
愛する夫はそうやって、いつも身体と心を蝕んでくる。
「っ、はっ、あっ」
サクラはヴィクトールの首に腕を回し、月夜に照らされる白銀の髪を掻き毟る。
ヴィクトールの魔法によって窓と扉が閉ざされたこの部屋は、誰一人として中へ入ってくることができない。二人だけの空間だ。
「……サクラ。私が誰よりも愛しているのはお前なんだ。お前だけなんだ。あぁ、愛している愛している、サクラ、愛している」
「ヴィク、トール。いやっ、だめっ、あぁん」
唇を離そうとしても、ヴィクトールはすぐに唇を追いかける。おかげで言葉を伝えることは疎か、声を発することすら儘ならない。深すぎる口づけのせいでサクラの唇はわずかに腫れぼったくなっていたが、ヴィクトールは構わず愛らしい唇を貪欲に味わう。そして。
「っ、あっ……!」
どろどろと淫猥な愛液があふれ出した蜜口へ、雄々しい先端が宛がわれた。抵抗することも叶わず、大胆に広げられたサクラの秘部に欲望の塊がぐっと押し込められ。そのまま。
「あぁ、やぁぁ……!」
──ぐっちゅ、ぬちゅぬちゅ、ずりっ、ずりずりっ、ぬぷっ。
血管の浮き出た屹立が体液を纏って、ほぐされた蜜壺へ侵入する。
粘膜を擦り合わせる感覚に、久しぶりに触れた夫の熱に、痛みを遥かに凌ぐ快楽に。サクラは髪を振り乱しながら、叫び声をあげた。
「ひっ、あっ、あぁっ、だめっ、だめぇっ」
「あぁ、サクラ。好きだ、好きだ好きだ……」
ヴィクトールは壊れた玩具のように同じ言葉を繰り返しながら、ぬっぷぬっぷと敏感な媚肉を擦り上げる。
感情が双方から絡み合って涙腺を搾られたサクラは、大粒の涙をこぼした。
なぜ、どうして。やめて。これ以上身体を狂わせないで。本当にヴィクトールから離れられなくなってしまう。
わずかに残された想いにすがりたくなってしまう。
「あっ、あぁんっ、ヴィク、ヴィクトール」
「サクラ……サクラ……っ」
腰を抱え込まれたまま、ずんっと腰を奥まで打ち付けられる。果てそうになっても、ヴィクトールは行為を止めない。今まで彼女を優しく抱いてきた夫の姿はなく。獲物を捕らえた狂暴な獣は、サクラという小さな生き物を執拗に貪った。
「んっ、はっ、あっ」
緩やかに雄を引き抜かれたかと思えば、勢いよく貫かれて。ぱんぱんと肉壁を嬲られながら、サクラは幾度となく絶頂に達する。
乱暴にも受け取れる抱き方なのに、感じてしまう。
それもすべて、自分が彼を愛しているから。ヴィクトールに求められれば、結局は受け入れてしまうのだ。彼に触れられることを心が望んでしまう。
(──どうしたら、私はあなたを拒むことができるの?)
「あぁ、サクラ、サクラ、愛している、愛している愛している愛している」
「はっ、あっ、あぁ……!」
激しく腰を振っていたヴィクトールは、ぐちゅんと蕩けきったサクラの最奥に熱杭を突き上げる。
ビクンビクンと身体を震わすサクラのナカに、熱い欲望が弾け飛んで。ヴィクトールは彼女と秘部を繋げたまま、快感に惚けたサクラの身体を抱きしめた。
「愛している。サクラ、愛しているんだ。どこにも行かないでくれ……」
囁かれた震える声に、サクラは徐に顔をヴィクトールへ向ける。彼の翡翠の瞳からは、大粒の涙が頬を伝って零れ落ちていた。
初めて目にする夫の泣く姿。どうして、ヴィクトールが泣くのだろう。泣きたいのは、サクラの方なのに。
「……ヴィクトール」
自然と視線は絡み合い、顔がゆっくりと近づき──二人は互いを食い合うような激しい口づけを交わした。
「はっ、あっ、ふっ、ぅんっ」
「サクラ、サク、ラ」
ぬるぬると舌を舐め合い、雪崩れるように寝台に倒れ落ちる。
じわりじわりと熱を持ち始めた楔が、じゅっぽじゅっぽと接合部に白い泡をつくりながらサクラの蜜壺を狂ったように往き来して。サクラはただただ荒々しく降り頻るヴィクトールの愛に溺れていった。
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