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14話※
しおりを挟むソフィアは私の言葉に動揺しているのか、浅い呼吸を繰り返しながら怯えたような瞳で私を見つめている。
「は、し、仕事……? な、なに?」
分かりやすいくらいに声が震えている。
思わず笑ってしまうくらいに。
その仕事が何なのかを知った時には、きっと今よりも更に恐怖で震え上がるのだろう。
「……ふふっ。どうせ今の貴女に真っ当な仕事なんて得られないでしょうから、私が代わりに見つけておいてあげたの。手間暇掛かったんだから感謝してちょうだい」
身体を震わせるソフィアに微笑みかけ、突き飛ばすようにしてセバスチャンの前に差し出した。勢い余り床に転んだソフィアに、セバスチャンは紳士のようにそっと手を差し伸べる。
「さぁ、アデリー様。流石に裸で外を歩く訳にはいきませんから、服を着てください。私が貴女の仕事場まで案内させて頂きます」
「はっ、い、意味が分からない! 仕事って何のことよ!? そんなこと頼んでないわ! こんな勝手なことをして許されるとでも思っているの!?」
ソフィアは肩で大きく息をしながら荒々しい声を上げ、セバスチャンの手を払いのける。
これだけの事をしておいて、まだ反省の色を見せないなんて。フィンには怖い思いをさせてしまったけれど、凶悪な犯罪者が世に放たれないよう、余計な手出しをせずに見張っておいたのは正解かもしれない。
今更過ぎる抵抗を見せる彼女に呆れたように溜め息を吐いた刹那、ソフィアは血走った目で睨むように私を見据え──次にベッドで毛布にくるまるフィンに視線を移した。
「フィンさまっ、毎日セックスをしても妊娠すら出来ないこんな石女よりわたしの方がいいはずです! わたしだったらフィンさまの子供を……!」
──石女。
ソフィアの口から唾液と共に飛び散らかされた悪意ある言葉に、眉間が微かに痙攣する。
込み上げる怒りに耐える私に気付く様子一つ見せず、ソフィアはベッドを這い上がり、フィンに近付こうとする。その醜い姿は、まるで餌をねだる豚のようで。咄嗟に彼女をベッドから下ろそうと手を伸ばした──が、先に行動したのはフィンだった。
「近寄るな! ストーカー!」
フィンは容赦なく片足で彼女の顔面を蹴り付け、ストーカー女は裏返った蛙のようにベッドから床にひっくり返った。倒れ落ちたソフィアを見下ろすフィンの目付きは、完全にごみ屑を見るそれで。予想だにしなかった彼の行動に、ソフィアを止めようとベッドに伸ばしかけていた手が硬直してしまった。
「……俺のことはともかく、汚い口でシャーリーのことを喋るな。吐き気がする!」
息を震わせながら、拳を強く握り締めるフィン。呆然と彼を見つめていると、フィンは私を抱き寄せるようにして自らの腕の中に閉じ込めた。
「俺は子供を生ませる為にシャーリーとセックスをしているんじゃない。愛しているからシャーリーを抱くんだ! これ以上俺とシャーリーに関わるな!」
怒りからか、憎しみからか、それとも嫌悪感からか。心優しい夫は、今までに見たことがない憎悪に満ちた表情を浮かべていた。
「フィン……」
いつものように、優しく彼の名を呼んでみる。
すると、フィンは我に返ったように目を見開いて。抱いている私に穏やかな眼差しを向けた。
「フィン。ありがとう、愛しているわ」
「……シャーリー」
彼の頬を両手で包み込み、顔を近付ける。フィンも私に合わせるように睫毛をゆっくりと伏せて──唇が重なった瞬間、ソフィアの発狂したような叫び声が寝室に響き渡った。
「いやぁぁぁ! フィンさま、フィンさまぁ!」
ストーカー女の耳障りな声も、フィンと交わす甘く蕩けるような口づけを前には、一寸の邪魔にもならない。
唇が繋がって一つになってしまうのではないかと言うほどに、ぐぐぐっと互いの唇を押し潰し合って、強く吸い付き合った。
「シャーリー……」
「フィン……フィン……っ」
彼の唇から漏れる熱に促されて、唇を重ねたまま自分の服を脱いでいく。
フィンと素肌で抱き合って、唇がぐちゃぐちゃになるような激しいキスをして、彼と愛を分かち合いたい。フィンと一つになりたい。その想いだけが、私の身体を蝕んでいった。
「んっ、はぁ……はぁ……っ」
「シャーリー……!」
部屋に響き渡る二つの呼吸。私は脱ぎ去った服と下着をベッドの下に投げ、丸裸でフィンの太股に股がり──彼と向かい合って座っている状態になった。
互いの頬を両手で包み込み、熱を孕んだ瞳で見つめ合う。
今すぐにでもフィンに食べられて、私も彼を食べてしまいたい。お互いを貪り尽くしてしまいたい。
「フィン……好きよ。貴方を誰にも渡したくない。愛しているわ」
「シャーリー。俺もだ。シャーリーを世界で一番愛している」
どちらからともなく顔が近付き、再び唇が重なる。
熱い吐息を混じらせながら、フィンの柔らかな唇にむしゃぶりつき、唾液でべとべとになった唇を密着させたまま、ゆっくりとゆっくりと腰を上げた。
「んっ」
「あっ、あぁ」
くちゅりと卑猥な水音を立てて、フィンの熱すぎる先端を蜜口に宛がう。さっきの深い口づけだけで、蜜壷から溢れ出すほどの愛液がこぼれ出していて。
擦り付けるように腰を回すだけで、ぬちゅぬちゅと厭らしい音が際立った。
「はぁ……シャーリー……」
「フィン……」
互いの口内を貪り合ったまま、彼の首に手を回し、フィンは骨張った指で私の腰を撫で回す。微かに瞼を開ければ、フィンも薄目を開けていて。
深い海のような色の瞳を見つめたまま、腰をぐっと下ろした瞬間──空気が切り裂けるようなソフィアの泣き声が響き渡った。
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