【R18】半獣の見習い騎士が師匠の寝込みを襲おうとしたら、逆に襲われた話

みちょこ

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4話

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 ──ナーシャ。起きろ。


 遠くから聞こえる優しい声。朧気な意識の中、瞼をゆっくりと開くと──穏やかに微笑む師匠の顔が視界に飛び込んだ。

「おはよう。よく寝ていたな」

 師匠は僅かに笑みを綻ばしながら、私の頭を優しく撫でる。周囲をゆっくりと見渡すと、そこは宿屋の一室で。いつの間にか私はベッドの上で横になっていた。

 ──師匠が運んでくれたのか、な?

「んっ……師匠……」

 鉛のように重い身体をずらしながら、目の前の師匠の身体に擦り寄らせる。身体をピッタリと密着させたところで自分達が真っ裸であることに気付き、昨夜の行為が鮮明に浮かび上がった。

 師匠と熱い口づけをして、肌を重ねて、一つに結ばれて。好きな人に想いが届いて嬉しいはずなのに、焦れったい恥ずかしさのような感情が込み上げる。

「どうした、ナーシャ。顔を上げないのか」

「ん、嫌です」

 首を横に振りながら、師匠の厚い胸板に顔をぎゅぎゅっと押し付けるようにして埋める。暫くその体勢でいたものの、師匠の手が然り気無く背中に回り──尻尾の生えた部分の周囲を這うように撫でられ、身体が大きく跳ね上がった。

「や、やだっ、師匠……!」

「犬は尻尾の上の部分を撫でられると弱いらしいな」

「も、やっ……!」

 師匠は悪魔のように微笑みながら、手の動きを厭らしくさせていく。為されるがままの状態が悔しくなり、師匠にぐっと顔を近付け、下唇にカプリと噛み付いた。

「っ!」

「知らないんですか? 私の犬歯は人間のそれより鋭いんですよ?」

 咄嗟に唇を離して顔を歪める師匠に、やり返してやったと余裕の笑みをこぼした──けれど、後頭部を掴まれ、顔を性急に引き寄せられた。

「ん、んんんんっ」

 そのまま唇を塞がれ、僅かに開いた隙間から舌を捩じ込まれる。最初は抵抗しようと胸を押し返していたものの、口内を這う熱い感触に脳が蕩け始め、気付けば無我夢中で舌を絡め合っていた。

「し、しょう……あっ」

「んっ……」

 首に腕を回しながら口内を堪能し、腹部に熱が帯び始めたところで唇をゆっくりと離した。
 熱を孕んだ師匠の瞳をじっと見つめながら、頬に手を添える。

「師匠……もう一度、愛しているって言って下さい」

「嫌だ」

「えっ」

 秒速で拒まれ、思わず口をぽかんと開ける。一方の師匠は何かを誤魔化すように目を逸らすだけで。

「き、昨日は言ってくれたのに何でですか!」

「俺の愛しているは安くない」

「意味が分からないです!」

 中々目を合わせようとしない師匠。暫くその顔を睨んでいたものの、ぱっと身体を離して、師匠に背中を向けた。

「ナーシャ。拗ねているのか」

「別に拗ねていません。言ってくれないならもういいです」

 ふんっ、と声を漏らして唇をきゅっと結ぶ。暫くして背後から師匠の大きな溜め息が聞こえ、振り返りそうになったその時──身体を後ろから強い力で抱き寄せられた。

「し、しょ……」

「ナーシャ」

 耳元に唇が当てられ、師匠の熱い吐息が掛かる。その感触にゾクゾクと肌が粟立ったのと同時に、生温かい感触が耳の縁を這った。

「愛しているぞ。誰よりも」

「──っ!」

 低く、優しく、心の中を掻き立てるような声に、全身の血液が熱を持って駆け巡る。溢れそうになった吐息を呑み込み、再び師匠に身体を向けた。

「師匠……」

 師匠は振り返った私に優しい眼差しを向けながら、耳を優しく撫でる。堪らず師匠の首に再び腕を回し、唇を師匠のそれに押し当てた。

「ししょ、う……私も、好きです……」

「ああ。知っている」

 唇を食むようなキスを繰り返し、紡がれる愛に身を捩らせる。そして、ふと頬を熱い感触が伝っていることに気付き、師匠から唇を離された。

「……ナーシャ。泣いているのか」

 師匠は私を見つめながら、指先で瞳から伝った雫を拭う。

 そうか、私泣いていたんだ。何故だろう、分からない。分からないけど、これは悲しみの涙じゃなくて、きっと──

「師匠……」

 頬を包み込む師匠の手に自分の手を重ね、再び触れるだけの口付けを交わした。

「もう一回好きって言って下さい」

「……さっき言ったぞ」

「もう一回聞きたいんです」

 僅かに戸惑いを見せる師匠に愛おしさが込み上げ、身体を密着させるように足を絡ませ、腕を背中に回す。そして鼻先をピッタリとくっ付け、そっと囁いた。

「言ってくれないなら、言わせてみせます」

 私の言葉に師匠は目を細め、口元に笑みを浮かべる。

「……ほう。襲い返された奴が言うのか」

「今度は思う通りにさせませんよ?」

「面白い。やってみろ」

 挑発的に笑う師匠に、負けじと私もニヤリと笑う。そしてどちらからとも無く顔を近付け、唇を重ねた。

「ん……し、しょ……」

「……ナーシャ……」

 部屋に甘い吐息を含んだ声が響き渡り、ベッドが僅かに軋む音を立て始めて。私達はまた、互いの身体を求め合った。




 ──この時は、師匠と肌を重ねることがただただ嬉しくて。師匠との今後の関係とか、これから自分に起こり得ることとかは、頭から完全にすっぽ抜けていた。

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