【R18】半獣の見習い騎士が師匠の寝込みを襲おうとしたら、逆に襲われた話

みちょこ

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5話

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 ──師匠に出会ったのは、二年前。

 確か私はあの時、まだ十六にも満たなくて。故郷を燃やされて、住む家も家族も失ってしまい、路頭に迷っていた。

 孤独と成り果てた私は、流されるように見知らぬ道をさ迷い、偶然見つけた無人の村へと足を踏み入れた。そこで食べ物を漁っていたところを、出会してしまったのが師匠率いる騎士団。彼等を故郷を奪った敵と勘違いした私は、先頭に立っていた男──そう、騎士団長の師匠に飛び掛かった。まぁ、一瞬にして攻撃は躱されたけど。
 襲い掛かった勢いでスッ転んだ私を、師匠は冷たい視線で見下ろしていた。眼力だけで人を殺せそうなくらい恐ろしい形相で。今思えば、あれは元々そういう顔だったんだと納得がいく。

 師匠は無言で私の前にしゃがみ込むと、手を私の顔に近付けた。首を絞められるか、殴られるか、目潰しされるか、何れにしても殺されると思った、顔が怖すぎて。けど違った。師匠は私の頭を撫でて。「大変だったな」って言いながら優しい眼差しを向けて。

 私はあの時にはもう──





「はわわ……っ」

 師匠と夜を共にした宿屋の一室。スヤスヤと小さな寝息を立ててあどけない表情で眠る師匠を、息を殺してじっと見つめる。
 ヤバイ。師匠、可愛い。寝顔が可愛すぎる。昨日、エッチなことしていた時はあんなに男らしい顔してたのに。これはノアが言っていたギャップ萌え……?

「んっ……」

 師匠は小さな声を漏らして、瞼を閉じたまま私の腰をグッと引き寄せる。元々近かった顔が、唇が触れてしまいそうな程近くに。

「っ……」

 ……一昨日の夜も、昨日も、沢山したのに。またキスしたくなっちゃった。してもいいよね? 寝ているんだし、バレないよね?

「し、しょ……んっ」

 僅かに開いた師匠の唇に自分のそれを軽く押し当てる。柔らかな感触が唇を覆い、身体が小さく震える。直ぐに離そうと思っていたのに、心地よくて、唇を離すことが出来ない。もうこのまま、永遠に──

「ししょ……んむっ!?」

 突然後頭部を何かに掴まれ、優しく触れていただけの唇が強く押し付けられた。薄目を開けると、既に目を覚ましている師匠の顔が──

「あ、ふっ、んんっ」

 師匠は私の腰を更に抱き寄せ、逃さないと言わんばかりに唇を密着させる。唇の隙間から侵入した師匠の舌が、熱い。熱くて、気持ち良くて、蕩けてしまいそう。

「……ナーシャ」

 唇をゆっくりと離され、切れ長の瞳に見つめられる。あうっ、かっこいい……。

「間抜け面になっているぞ」

「んえ?」

 師匠は僅かに口元を綻ばすと、私の額に唇をそっと落とした。ダメ、また顔がふにゃふにゃとニヤけていく……!

 緩みそうになる頬の筋肉を手で隠すように覆っていると、師匠は床に投げ捨ててあった服に手を伸ばした。そのまま背を向けて着替え出した師匠を、後ろからそっと覗き込む。

「師匠、お外行くんですか?」

「見廻りだ。暫くの拠点は此の町だからな、今夜にはまた戻る」

 師匠は視線を私に向けると、頭に優しく手を置いた。

「ナーシャ、お前は今日は休め」

「え、でも、私も」

「無理をするな。碌に寝ていないだろう」

 それは師匠だって同じ──と突っ込もうとしたところで、一昨日の夜から今朝にまで及んだ師匠との行為が鮮明に甦り、顔が熱さに見舞われた。

 そんな私には気付くことなく、師匠はコートを羽織り、部屋の扉へと向かう。慌てて師匠を追いかけようとしたものの、自分が素っ裸であることに気付き、毛布で身体を覆った。

「待って! 師匠!」

 裸足でペタペタと床を踏み、師匠の服裾を引っ張る。

「師匠……んっ」

 目蓋を閉じ、突き出すようにして顔を近付けた。所謂、キス待ち状態。しかし、待てと待てども唇には何の感触も得られず。恐る恐る瞼を開けると、呆れたような表情を浮かべる師匠の顔が目に入った。

「何をしているんだ、お前は」

「行ってらっしゃいのちゅーのおねだりです」

「さっきしただろ」

「それはおはようのちゅーです!」

「同じだろうが」

「違います!」

 冷ややかな視線を向ける師匠に、不貞腐れるように頬を膨らます。師匠はそんな私の両頬を指で摘まみ、顔を僅かに近付けた。

「ナーシャ。耳が垂れ下がっているぞ」

「だ、だって、それは師匠が……あっ」

 師匠の顔が近付いてくる。瞼が閉じられた、綺麗な師匠の顔。師匠につられるように、私も自然と視界を狭めていく。鼻先が触れ合い、唇に吐息が掛かる。心臓が鼓動を打つのを全身で感じながら、師匠からの口付けを待ったその時だった。

「おーい、リーク。いい加減外に……って、え?」

 扉が開く音と共に、突然耳に流れた声。目をパッチリと開け、視線を扉の前へ向けると──同じ騎士団に属するパウロ副団長の姿があった。

「お、お前ら何やって……」

 目を見開いて呆然とするパウロ副団長を前に、銅像のように身体が硬直する。そして暫くして状況を脳がやっと理解した刹那、あろうことか身体を覆っていた毛布がハラリと床に落ちた。

「きゃぁぁぁ!」

 断末魔のような悲鳴を上げ、身体を隠すようにその場にしゃがみ込む。

 見られた! 
 見られた、見られた、見られた!
 師匠以外の男の人に裸を見られた!

「パウロ! 何故ノックをせずに開ける!」

「いや、したけど……」

「取り敢えず後ろを向け! ナーシャを見るな!」

「ええっ。何だそれ、俺が悪いみた……」

 副団長の言葉を待たずに、師匠は部屋の扉を勢い良く閉める。扉越しに何かがぶつかったような音と、副団長の唸り声が響き渡った。

「ナーシャ」

 裸で縮こまりながら震えていると、師匠は目線を合わせるように屈んで私の顔を覗き込んだ。頭を優しく撫でられ、安堵からか一粒の涙が溢れる。

「ししょ……私、おっぱ……裸見られちゃいました。もうお嫁に行けないです」

「大丈夫だ。嫁には俺が貰ってやる」

「ふぇっ」

 情けない声を漏らしたのと同時に、優しく重ねられる唇。ちゅ、と音を立てて離され、硝子のように透き通った碧色の瞳で見つめられて。堪らず師匠に抱き付こうとしたものの、既の所で師匠が立ち上がり、勢い余り床に膝を付いた。

「それじゃ、行ってくる。ちゃんと寝てろよ」

「あっ、師匠、待っ」

 手を伸ばすも、師匠は颯と扉の外へと出ていってしまった。行き場のなくなった手をゆっくりと下ろし、後方を見渡す。

 部屋の空気は僅かに熱気が籠り、ベッドのシーツは酷くよれている。私、師匠とこの部屋でずっと身体を重ねて──

「──っ!」

 再び羞恥に見舞われ、全身が火照る。毛布で再度自分の身体を包み込み、そのままベッドの上へと飛び込んだ。

 師匠の匂いが鼻腔に広がり、幸せな気持ちに包まれる。

 嫁に貰ってやるって、あれ本当かな? それとも冗談なのかな。冗談だとしても嬉しいなぁ。

「へへっ……」

 口元を緩ませながら、毛布にくるまりベッドを転がる。今日は一日、師匠の匂いを堪能しようっと。寝てやるもんか。うへへ。

「し、しょ……んっ……」

 柔らかな毛布と師匠の匂いの心地好さに、瞼が次第に重くなっていく。
 身体が相当疲れていたのだろうか。その数分後には、眠りに就いていた。

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