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01-フィロは蘇る
前編
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フィロ・ゾーグモックの髪は見事な金茶で白い肌によく生え、淡褐色の瞳は黄味掛かっていて光の加減で輝いて見えた。
フィロはダヴァガ王国の片田舎に住み、貧しいながらも両親や近隣住人と幸せな時を過ごしていたが、五歳の頃、近所に住む仲の良い子が転び、膝から血を出した時に治癒力が発現してしまうと、瞬く間に親元から引き離される事となった。行き先は王都であるエジュゴン市の、マルエンセス教のワウラ大聖堂だ。
ワウラ大聖堂は広大且つ荘厳だが、最高位聖職者である大神官の椅子がある謁見の間は、豪華絢爛で目が眩む程だった。
その装飾とは対照的な格好をしているセジーン・タビッタは、フィロと目が合うと温和に微笑んだ。タビッタ大神官に対する第一印象は、フィロも釣られて笑顔になる程に好ましいものだった。
「フィロ・ゾーグモック、マルエンセス様からもらった力を大事にし、自分を磨きなさい」
「みがきなさい? わからない……」
「これ、大神官様にそのような口の利き方はいけません」
フィロの側に付いていたイサミリカ・シヒバト神官が諫める。
「良い。五歳の子供には難しいだろう。フィロ・ゾーグモック、マルエンセス様に良く仕え、良く学び、人を思いやり、許す心を持ちなさい」
やはり難しく、理解が出来なかったが、微笑んで「はい」と返事をした。
それから治癒力の源である霊気を計測する水晶で明確になったフィロのそれは歴代最高とされ、後日にそれを知った国王であるラッカ・ダヴァガの命により、見習い聖女として貴族のみを治療する日々が始まった。
その二週間後、ワウラ大聖堂で休息時に中庭へ出ていた時、時を同じくして第一王子のチトゥキ・ダヴァガが中庭で涼んでいた。チトゥキはフィロより二歳年上で、可憐な花を目の当たりにすると、筆舌に尽くし難い感情に支配された。
(あれがほしい! かならず手に入れる!!)
フィロは意図せずチトゥキの覚えがめでたくなり、婚約する運びとなったが、それは内々にしか告知されなかった。フィロが平民だった所為なのだが、婚約が可能になる程に霊気が大きかった。その為、フィロはいずれ女神派の侯爵家の養女となるが、それは王太子妃教育の始まる十六歳になってからになる。そして、同時に後継者指名が執行される予定となっている。その為、先んじて教育係が王宮から派遣された。
ワウラ大聖堂には見習い聖女を始めとして聖女が沢山いるが、長らく空席の大聖女の座にフィロが就く事を、王家を始めたとした貴族は大いに期待し、その反面、聖女のみならず、見習いからの嫉妬がフィロを苦痛へと誘った。
先ず、フィロの世話係が虐めの対象となり、足を引っ掛けられる、髪を引っ張られる、後ろから突き飛ばされる、掃除をした傍から汚される等の嫌がらせが続いた。
「フィロ様、申し訳ございません。私にはもう……、耐えられません」
涙ながらにハゴット・ヒーノが言った。フィロの最初の世話係だった。
「ヒーノさん、私のせいでごめんなさい。なかないで……。やめても元気でいてね」
そう言うのが精一杯だった。しかし、こういう事が続き、最初の頃こそ世話係の名を覚えていたが、半年も持てば良い方で、四人目以降は名を覚えなくなった。そして、フィロの目から輝きが消失した。
教育係として派遣された人物はキイ・モッテオ侯爵夫人だった。彼女は五歳のフィロに必要な事を教え始めた。素直な性格のフィロは飲み込みが早く、教育係としては非常に助かった。
ある日からフィロの目の奥に闇が見え始めた。その事に気付いていたが、キイの実家は王家派であってもモッテオ家は新興貴族で問題に巻き込まれる訳にはいかない。甘えて来ないように、厳しく接していた。
フィロは厳しいながらも、優しさを垣間見せるモッテオ侯爵夫人が好きだった。しかし、彼女は徐々に厳しさを増し、いつしか鞭を手にするようになっていた。鞭は肩や背中に打たれたが、傷は不思議と残らなかった。その事を知っているのはフィロだけだった。
フィロはダヴァガ王国の片田舎に住み、貧しいながらも両親や近隣住人と幸せな時を過ごしていたが、五歳の頃、近所に住む仲の良い子が転び、膝から血を出した時に治癒力が発現してしまうと、瞬く間に親元から引き離される事となった。行き先は王都であるエジュゴン市の、マルエンセス教のワウラ大聖堂だ。
ワウラ大聖堂は広大且つ荘厳だが、最高位聖職者である大神官の椅子がある謁見の間は、豪華絢爛で目が眩む程だった。
その装飾とは対照的な格好をしているセジーン・タビッタは、フィロと目が合うと温和に微笑んだ。タビッタ大神官に対する第一印象は、フィロも釣られて笑顔になる程に好ましいものだった。
「フィロ・ゾーグモック、マルエンセス様からもらった力を大事にし、自分を磨きなさい」
「みがきなさい? わからない……」
「これ、大神官様にそのような口の利き方はいけません」
フィロの側に付いていたイサミリカ・シヒバト神官が諫める。
「良い。五歳の子供には難しいだろう。フィロ・ゾーグモック、マルエンセス様に良く仕え、良く学び、人を思いやり、許す心を持ちなさい」
やはり難しく、理解が出来なかったが、微笑んで「はい」と返事をした。
それから治癒力の源である霊気を計測する水晶で明確になったフィロのそれは歴代最高とされ、後日にそれを知った国王であるラッカ・ダヴァガの命により、見習い聖女として貴族のみを治療する日々が始まった。
その二週間後、ワウラ大聖堂で休息時に中庭へ出ていた時、時を同じくして第一王子のチトゥキ・ダヴァガが中庭で涼んでいた。チトゥキはフィロより二歳年上で、可憐な花を目の当たりにすると、筆舌に尽くし難い感情に支配された。
(あれがほしい! かならず手に入れる!!)
フィロは意図せずチトゥキの覚えがめでたくなり、婚約する運びとなったが、それは内々にしか告知されなかった。フィロが平民だった所為なのだが、婚約が可能になる程に霊気が大きかった。その為、フィロはいずれ女神派の侯爵家の養女となるが、それは王太子妃教育の始まる十六歳になってからになる。そして、同時に後継者指名が執行される予定となっている。その為、先んじて教育係が王宮から派遣された。
ワウラ大聖堂には見習い聖女を始めとして聖女が沢山いるが、長らく空席の大聖女の座にフィロが就く事を、王家を始めたとした貴族は大いに期待し、その反面、聖女のみならず、見習いからの嫉妬がフィロを苦痛へと誘った。
先ず、フィロの世話係が虐めの対象となり、足を引っ掛けられる、髪を引っ張られる、後ろから突き飛ばされる、掃除をした傍から汚される等の嫌がらせが続いた。
「フィロ様、申し訳ございません。私にはもう……、耐えられません」
涙ながらにハゴット・ヒーノが言った。フィロの最初の世話係だった。
「ヒーノさん、私のせいでごめんなさい。なかないで……。やめても元気でいてね」
そう言うのが精一杯だった。しかし、こういう事が続き、最初の頃こそ世話係の名を覚えていたが、半年も持てば良い方で、四人目以降は名を覚えなくなった。そして、フィロの目から輝きが消失した。
教育係として派遣された人物はキイ・モッテオ侯爵夫人だった。彼女は五歳のフィロに必要な事を教え始めた。素直な性格のフィロは飲み込みが早く、教育係としては非常に助かった。
ある日からフィロの目の奥に闇が見え始めた。その事に気付いていたが、キイの実家は王家派であってもモッテオ家は新興貴族で問題に巻き込まれる訳にはいかない。甘えて来ないように、厳しく接していた。
フィロは厳しいながらも、優しさを垣間見せるモッテオ侯爵夫人が好きだった。しかし、彼女は徐々に厳しさを増し、いつしか鞭を手にするようになっていた。鞭は肩や背中に打たれたが、傷は不思議と残らなかった。その事を知っているのはフィロだけだった。
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