14 / 42
05-フィロは復活する
前編
しおりを挟む
緑の一月の七日、フィロとボタリクは国境を越え、ニウネンジュ国に入国した。二人が再会して十日目の事だった。
国境検問所での入国審査はボタリクのダヴァガ王国での職業とその証明書の確認、入国の目的を訊かれただけだった。
「嬢ちゃん、早く両親と会えるといいな」
そう声を掛けられたフィロは、笑顔で「はい。ありがとうございます」とお辞儀をした。この数日で有り得ない程に肉付きが良くなり、頬に寄る皺が減っていた。
黒く染まっている髪を一つに纏め、露になっている耳には買ってもらった耳飾りが輝いている。髪を纏めている紐は装飾品と一緒に買ってくれていた物で、黄色と橙と黒の三種類の紐で編まれていて、フィロは一目で気に入った。
黒髪は道中に寄った小さな村の雑貨屋に魔導具の指輪が置いてあり、その中に髪を黒くする物もあって、そのお陰で黒くなっている。これもまた黄水晶が嵌め込まれていて、ボタリクは迷わず購入した。フィロの細い中指でも緩い程だったが、縮んで丁度良い大きさになった。これなら両親と対面する時、外せば髪色も元に戻り、フィロだと認識がし易くなるだろう。
フィロは今まで手にした事のない装飾品を立て続けに手に入れ、嬉しいやら、戸惑うやらで気持ちが落ち着かなかった。
入国をしてから四町村目で大きな村となり、そのクドコノイ村で宿泊をする事にした。午後の二の半刻を過ぎていて、じきに太陽が沈むだろう。
馬を車借に返し、雑貨屋で地図を買って宿屋の場所を訊き、そちらへ向かった。道中に魔導具屋を見付け、一旦宿屋へ行って不要な荷物を置いて戻って来た。扉を開けると付いている鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
店内に入り、フィロは目新しい物が沢山置かれていて店内を見回していた。
「わぁ……、兄さん、見ているだけでも楽しいわね」
表情は明るく、声が弾んでいる。
「ゆっくり見るといいよ。俺は後ろを付いて行くから」
「あら、兄さんは別で見なくていいの? 何かいい物があるかも知れないわよ?」
「心配だから付いてるよ」
思わず声を出して笑った。
「あはは、兄さんは本当に心配性ね」
そう言うと端から見て行った。苦笑したボタリクは、フィロが立ち止まる度に伸びる手の先を見ていた。
「まぁ、可愛い」
手に取る度にそう呟く。ボタリクはそれを見て微笑んでいる。
「目の色を変える魔導具があればそれを買おう」
「あら、それまで変えてしまうの? このままで大丈夫よ。それよりも旅で有効に使える物があれば、それにしましょうよ」
「例えば?」
「うーん、そうねぇ……。このウサギさんとか。目が光って先を照らしてくれるのですって。暗い時刻に使えそう」
「それではこの籠へ入れて」
「え、買うの?」
「欲しいんだろ?」
フィロはウサギを暫く見詰めて、それからボタリクを見詰めた。
「駄目よ。勿体ないわ」
「これから父さん達を捜しに内陸へ向かう。時には暗くなっても村に辿り着けない事もあるだろ?」
「そうかしら? ……でもそれなら、もう少し大きい物がいいと思うわ」
「そうなると邪魔になりそう」
「あら、私が持つわ」
「それなら余計小さい方がいいんじゃないのか?」
「大きくても手の平の大きさよ? ほら」
「あのー……」
二人は声のする方に振り返ると、笑顔の店員がいた。
「小さい方は二刻、大きい方は六刻が灯りの持ち時刻です。お客さまが試しにつけたりしているので、それより短くなりますけどね」
フィロはボタリクを見る。
「兄さん、大きい方が六刻ですって」
「大きい方を買おう」
それを聞いてフィロの表情が和らいだ。そして、店員を見て微笑んだ。
「あの、それから瞳の色を変える魔導具はありますか?」
「ありますよ~! お嬢さんがご使用ですか?」
「そうです。何色に変えられますか?」
「指輪で変えるんですけど、こちらにあります」
そう言いながら先導した。二人は付いて行く。
「書いてある通り、目の色を赤、茶、黄、緑、青、紫の六色に変えられます。これは回数式なのでお試しは出来ません。五回まで変えられます。飾りの石は全て水晶です。大きさは自動で変わりますから、どの指でもはめられますよ」
「ありがとうございます。リタはどれがいい?」
フィロは玻璃張りの陳列棚を覗き込んだ。水晶が五枚の花弁を模っていた。小さな花を見て目を思わず細める。
「色を緑に変える物で、黄水晶をお願いします」
悩まずにそう言い、ボタリクが無言でフィロを見ていると、フィロが顔を向けて微笑んだ。
「ふふ、兄さんとお揃いよ」
嬉しそうに言う。
「ふ、分かった。すみませんが、それは置いといてもらえますか? 他も見て来ます」
店員を見ると、店員は笑顔で頷いた。
「分かりました。何か分からない事がありましたら、いつでもお声がけください」
「はい、ありがとうございます」
「見てまいります」
ボタリクに続いて、フィロもお辞儀をした。
国境検問所での入国審査はボタリクのダヴァガ王国での職業とその証明書の確認、入国の目的を訊かれただけだった。
「嬢ちゃん、早く両親と会えるといいな」
そう声を掛けられたフィロは、笑顔で「はい。ありがとうございます」とお辞儀をした。この数日で有り得ない程に肉付きが良くなり、頬に寄る皺が減っていた。
黒く染まっている髪を一つに纏め、露になっている耳には買ってもらった耳飾りが輝いている。髪を纏めている紐は装飾品と一緒に買ってくれていた物で、黄色と橙と黒の三種類の紐で編まれていて、フィロは一目で気に入った。
黒髪は道中に寄った小さな村の雑貨屋に魔導具の指輪が置いてあり、その中に髪を黒くする物もあって、そのお陰で黒くなっている。これもまた黄水晶が嵌め込まれていて、ボタリクは迷わず購入した。フィロの細い中指でも緩い程だったが、縮んで丁度良い大きさになった。これなら両親と対面する時、外せば髪色も元に戻り、フィロだと認識がし易くなるだろう。
フィロは今まで手にした事のない装飾品を立て続けに手に入れ、嬉しいやら、戸惑うやらで気持ちが落ち着かなかった。
入国をしてから四町村目で大きな村となり、そのクドコノイ村で宿泊をする事にした。午後の二の半刻を過ぎていて、じきに太陽が沈むだろう。
馬を車借に返し、雑貨屋で地図を買って宿屋の場所を訊き、そちらへ向かった。道中に魔導具屋を見付け、一旦宿屋へ行って不要な荷物を置いて戻って来た。扉を開けると付いている鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
店内に入り、フィロは目新しい物が沢山置かれていて店内を見回していた。
「わぁ……、兄さん、見ているだけでも楽しいわね」
表情は明るく、声が弾んでいる。
「ゆっくり見るといいよ。俺は後ろを付いて行くから」
「あら、兄さんは別で見なくていいの? 何かいい物があるかも知れないわよ?」
「心配だから付いてるよ」
思わず声を出して笑った。
「あはは、兄さんは本当に心配性ね」
そう言うと端から見て行った。苦笑したボタリクは、フィロが立ち止まる度に伸びる手の先を見ていた。
「まぁ、可愛い」
手に取る度にそう呟く。ボタリクはそれを見て微笑んでいる。
「目の色を変える魔導具があればそれを買おう」
「あら、それまで変えてしまうの? このままで大丈夫よ。それよりも旅で有効に使える物があれば、それにしましょうよ」
「例えば?」
「うーん、そうねぇ……。このウサギさんとか。目が光って先を照らしてくれるのですって。暗い時刻に使えそう」
「それではこの籠へ入れて」
「え、買うの?」
「欲しいんだろ?」
フィロはウサギを暫く見詰めて、それからボタリクを見詰めた。
「駄目よ。勿体ないわ」
「これから父さん達を捜しに内陸へ向かう。時には暗くなっても村に辿り着けない事もあるだろ?」
「そうかしら? ……でもそれなら、もう少し大きい物がいいと思うわ」
「そうなると邪魔になりそう」
「あら、私が持つわ」
「それなら余計小さい方がいいんじゃないのか?」
「大きくても手の平の大きさよ? ほら」
「あのー……」
二人は声のする方に振り返ると、笑顔の店員がいた。
「小さい方は二刻、大きい方は六刻が灯りの持ち時刻です。お客さまが試しにつけたりしているので、それより短くなりますけどね」
フィロはボタリクを見る。
「兄さん、大きい方が六刻ですって」
「大きい方を買おう」
それを聞いてフィロの表情が和らいだ。そして、店員を見て微笑んだ。
「あの、それから瞳の色を変える魔導具はありますか?」
「ありますよ~! お嬢さんがご使用ですか?」
「そうです。何色に変えられますか?」
「指輪で変えるんですけど、こちらにあります」
そう言いながら先導した。二人は付いて行く。
「書いてある通り、目の色を赤、茶、黄、緑、青、紫の六色に変えられます。これは回数式なのでお試しは出来ません。五回まで変えられます。飾りの石は全て水晶です。大きさは自動で変わりますから、どの指でもはめられますよ」
「ありがとうございます。リタはどれがいい?」
フィロは玻璃張りの陳列棚を覗き込んだ。水晶が五枚の花弁を模っていた。小さな花を見て目を思わず細める。
「色を緑に変える物で、黄水晶をお願いします」
悩まずにそう言い、ボタリクが無言でフィロを見ていると、フィロが顔を向けて微笑んだ。
「ふふ、兄さんとお揃いよ」
嬉しそうに言う。
「ふ、分かった。すみませんが、それは置いといてもらえますか? 他も見て来ます」
店員を見ると、店員は笑顔で頷いた。
「分かりました。何か分からない事がありましたら、いつでもお声がけください」
「はい、ありがとうございます」
「見てまいります」
ボタリクに続いて、フィロもお辞儀をした。
0
あなたにおすすめの小説
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる