解き放たれた癒し手

今戸日予

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05-フィロは復活する

前編

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 緑の一月ひとつきの七日、フィロとボタリクは国境を越え、ニウネンジュ国に入国した。二人が再会して十日目の事だった。
 国境検問所での入国審査はボタリクのダヴァガ王国での職業とその証明書の確認、入国の目的を訊かれただけだった。
「嬢ちゃん、早く両親と会えるといいな」
 そう声を掛けられたフィロは、笑顔で「はい。ありがとうございます」とお辞儀をした。この数日で有り得ない程に肉付きが良くなり、頬に寄る皺が減っていた。
 黒く染まっている髪を一つに纏め、あらわになっている耳には買ってもらった耳飾りが輝いている。髪を纏めている紐は装飾品と一緒に買ってくれていた物で、黄色と橙と黒の三種類の紐で編まれていて、フィロは一目で気に入った。
 黒髪は道中に寄った小さな村の雑貨屋に魔導具の指輪が置いてあり、その中に髪を黒くする物もあって、そのお陰で黒くなっている。これもまた黄水晶が嵌め込まれていて、ボタリクは迷わず購入した。フィロの細い中指でも緩い程だったが、縮んで丁度良い大きさになった。これなら両親と対面する時、外せば髪色も元に戻り、フィロだと認識がし易くなるだろう。
 フィロは今まで手にした事のない装飾品を立て続けに手に入れ、嬉しいやら、戸惑うやらで気持ちが落ち着かなかった。

 入国をしてから四町村目で大きな村となり、そのクドコノイ村で宿泊をする事にした。午後の二の半刻はんこくを過ぎていて、じきに太陽が沈むだろう。
 馬を車借しゃしゃくに返し、雑貨屋で地図を買って宿屋の場所を訊き、そちらへ向かった。道中に魔導具屋を見付け、一旦宿屋へ行って不要な荷物を置いて戻って来た。扉を開けると付いている鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
 店内に入り、フィロは目新しい物が沢山置かれていて店内を見回していた。
「わぁ……、兄さん、見ているだけでも楽しいわね」
 表情は明るく、声が弾んでいる。
「ゆっくり見るといいよ。俺は後ろを付いて行くから」
「あら、兄さんは別で見なくていいの? 何かいい物があるかも知れないわよ?」
「心配だから付いてるよ」
 思わず声を出して笑った。
「あはは、兄さんは本当に心配性ね」
 そう言うと端から見て行った。苦笑したボタリクは、フィロが立ち止まる度に伸びる手の先を見ていた。
「まぁ、可愛い」
 手に取る度にそう呟く。ボタリクはそれを見て微笑んでいる。
「目の色を変える魔導具があればそれを買おう」
「あら、それまで変えてしまうの? このままで大丈夫よ。それよりも旅で有効に使える物があれば、それにしましょうよ」
「例えば?」
「うーん、そうねぇ……。このウサギさんとか。目が光って先を照らしてくれるのですって。暗い時刻に使えそう」
「それではこの籠へ入れて」
「え、買うの?」
「欲しいんだろ?」
 フィロはウサギを暫く見詰めて、それからボタリクを見詰めた。
「駄目よ。勿体ないわ」
「これから父さん達を捜しに内陸へ向かう。時には暗くなっても村に辿り着けない事もあるだろ?」
「そうかしら? ……でもそれなら、もう少し大きい物がいいと思うわ」
「そうなると邪魔になりそう」
「あら、私が持つわ」
「それなら余計小さい方がいいんじゃないのか?」
「大きくても手の平の大きさよ? ほら」
「あのー……」
 二人は声のする方に振り返ると、笑顔の店員がいた。
「小さい方は二刻ふたとき、大きい方は六刻むつどきが灯りの持ち時刻です。お客さまが試しにつけたりしているので、それより短くなりますけどね」
 フィロはボタリクを見る。
「兄さん、大きい方が六刻ですって」
「大きい方を買おう」
 それを聞いてフィロの表情が和らいだ。そして、店員を見て微笑んだ。
「あの、それから瞳の色を変える魔導具はありますか?」
「ありますよ~! お嬢さんがご使用ですか?」
「そうです。何色に変えられますか?」
「指輪で変えるんですけど、こちらにあります」
 そう言いながら先導した。二人は付いて行く。
「書いてある通り、目の色を赤、茶、黄、緑、青、紫の六色に変えられます。これは回数式なのでお試しは出来ません。五回まで変えられます。飾りの石は全て水晶です。大きさは自動で変わりますから、どの指でもはめられますよ」
「ありがとうございます。リタはどれがいい?」
 フィロは玻璃はり張りの陳列棚を覗き込んだ。水晶が五枚の花弁をかたどっていた。小さな花を見て目を思わず細める。
「色を緑に変える物で、黄水晶をお願いします」
 悩まずにそう言い、ボタリクが無言でフィロを見ていると、フィロが顔を向けて微笑んだ。
「ふふ、兄さんとお揃いよ」
 嬉しそうに言う。
「ふ、分かった。すみませんが、それは置いといてもらえますか? 他も見て来ます」
 店員を見ると、店員は笑顔で頷いた。
「分かりました。何か分からない事がありましたら、いつでもお声がけください」
「はい、ありがとうございます」
「見てまいります」
 ボタリクに続いて、フィロもお辞儀をした。
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