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プロローグ~序章
小さな幽鬼
しおりを挟む遠いむかし、龍神の棲む神聖な山のふもとには、海と繋がる洞窟があり死と穢れの集まる根の国へつづく道があった。洞窟から這いでた鬼は、ふもとの人々を攫い喰った。
鬼は自由に人間の世界へ行き来していた。いくたびかの戦やあらそいを経て鬼と人の世界は隔たれた。道を知る者も減り鬼が現れることも無くなったが、恐れた人々は洞窟を鬼の国への入り口として語り継ぐ。
閉じられた道、しかし裏道も存在する。横穴の多い大きな洞窟は曲がりくねり人が迷いこむことも度々あった。知っている者は、これを通って鬼と人の世界を往復した。
急流の河原を飛びはねる影がひとつ。
小さな影は時折何かをつぶやいて立ち止まる。しわくちゃの青白い顔に、平安時代の装束に似たボロボロの狩衣を着た小さな幽鬼。額に生えていたであろう2本の角は根元から折れて、顔に無残な傷跡があった。
腹が減った幽鬼は、近くにいた獣を狩って引き裂き肉を喰らう。茂みから見ていた老齢の猟師が銃を構えたまま悲鳴を上げ、血走った目の鬼は人間を喰らおうと近づく。だが猟師の連れた2匹の犬が死にもの狂いで吠えたてたので早々にその場を去った。
隠れながら移動した小さな鬼は、河原にあった洞窟のへと姿を消した。
幽鬼は古の時代、藤原千方と呼ばれていた。藤原千方は元々人間だったが、過去人間同士の争いに負けて山中から洞窟へ落ちのび、身を潜めながら余生を送った。没後、海岸の洞窟より鬼の住む世界へ入って鬼と化す。
鬼となった現在は、人であった頃の名もなくなり『方鬼』と名乗る。
かつて積年の遺恨を晴らすため、 方鬼は鬼の軍勢を引き連れて人の世を蹂躙しようと目論んだ。
ところが鬼の世界から出る直前、待ちかまえていた兵に叩きのめされ角を折られた。相対した敵も鬼の兵、立派な体つきの2本角の赤い鬼が率いる猛者どもだった。よせ集めの方鬼の軍勢は、猛者達の前に敗退し散り散りとなった。
「おのれぇ、この恨みはらさでおくべきか」
赤い鬼にやられて顔に大きな傷を負い、鬼の世界の奥深くへ逃走した方鬼の野望は人知れず潰える。
赤い鬼は、鬼たちが人の世界へ勝手に出入りしないよう洞窟を封じた。そして鬼の世界から出て角を落とし、人との間に子供を授かって穏やかに暮らす。
しかし平和な世は悠久には続かないのであった。
―――――――――――――――
お読み頂きありがとうございます。
この話は長編小説「月読-つくよみ-」から派生した鬼たちの物語で主役は月読です。本編を知らなくても楽しんで読んで頂けるように進行しています。冒頭はBLのカケラもないですが、中ほどからR18になって行きます。
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