1 / 19
プロローグ~序章
小さな幽鬼
しおりを挟む遠いむかし、龍神の棲む神聖な山のふもとには、海と繋がる洞窟があり死と穢れの集まる根の国へつづく道があった。洞窟から這いでた鬼は、ふもとの人々を攫い喰った。
鬼は自由に人間の世界へ行き来していた。いくたびかの戦やあらそいを経て鬼と人の世界は隔たれた。道を知る者も減り鬼が現れることも無くなったが、恐れた人々は洞窟を鬼の国への入り口として語り継ぐ。
閉じられた道、しかし裏道も存在する。横穴の多い大きな洞窟は曲がりくねり人が迷いこむことも度々あった。知っている者は、これを通って鬼と人の世界を往復した。
急流の河原を飛びはねる影がひとつ。
小さな影は時折何かをつぶやいて立ち止まる。しわくちゃの青白い顔に、平安時代の装束に似たボロボロの狩衣を着た小さな幽鬼。額に生えていたであろう2本の角は根元から折れて、顔に無残な傷跡があった。
腹が減った幽鬼は、近くにいた獣を狩って引き裂き肉を喰らう。茂みから見ていた老齢の猟師が銃を構えたまま悲鳴を上げ、血走った目の鬼は人間を喰らおうと近づく。だが猟師の連れた2匹の犬が死にもの狂いで吠えたてたので早々にその場を去った。
隠れながら移動した小さな鬼は、河原にあった洞窟のへと姿を消した。
幽鬼は古の時代、藤原千方と呼ばれていた。藤原千方は元々人間だったが、過去人間同士の争いに負けて山中から洞窟へ落ちのび、身を潜めながら余生を送った。没後、海岸の洞窟より鬼の住む世界へ入って鬼と化す。
鬼となった現在は、人であった頃の名もなくなり『方鬼』と名乗る。
かつて積年の遺恨を晴らすため、 方鬼は鬼の軍勢を引き連れて人の世を蹂躙しようと目論んだ。
ところが鬼の世界から出る直前、待ちかまえていた兵に叩きのめされ角を折られた。相対した敵も鬼の兵、立派な体つきの2本角の赤い鬼が率いる猛者どもだった。よせ集めの方鬼の軍勢は、猛者達の前に敗退し散り散りとなった。
「おのれぇ、この恨みはらさでおくべきか」
赤い鬼にやられて顔に大きな傷を負い、鬼の世界の奥深くへ逃走した方鬼の野望は人知れず潰える。
赤い鬼は、鬼たちが人の世界へ勝手に出入りしないよう洞窟を封じた。そして鬼の世界から出て角を落とし、人との間に子供を授かって穏やかに暮らす。
しかし平和な世は悠久には続かないのであった。
―――――――――――――――
お読み頂きありがとうございます。
この話は長編小説「月読-つくよみ-」から派生した鬼たちの物語で主役は月読です。本編を知らなくても楽しんで読んで頂けるように進行しています。冒頭はBLのカケラもないですが、中ほどからR18になって行きます。
0
あなたにおすすめの小説
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
