双子の鬼(月読シリーズ)

風見鶏ーKazamidoriー

文字の大きさ
2 / 19
プロローグ~序章

双子の鬼1

しおりを挟む




 異国いこくの血が混ざったようなりのふかい顔立ちに、ボサッとした赤毛で長髪の大男。彼の右額みぎぬかには1本だけ白いつのが伸びていた。

磐井いわい隼英はやひでは、その容姿から先祖返せんぞがえりや鬼と人間の混血とうわさされる。

御山おやまとよばれる山の中腹に広壮こうそうな邸宅をかまえ、【鬼】の異名をもつ磐井いわい鬼平おにへいの息子であった。



 隼英はやひでには多娥丸たがまるという双子の兄がいた。

爛々らんらんと燃える赤いひとみに、弟とは対照的に左額ひだりぬかだけ黒い角がえていた。しかし弟は兄と接する機会がほとんどなく、双子だったという記憶もおぼろげだ。

多娥丸は生まれるさい、腹を角でつき破り出てきたといわれる。血まみれの双子は産声うぶごえをあげ、母親はその場で息を引き取った。

腹を裂いたのは双子の兄だが、のちに知った弟の隼英も自責じせきの念にかられ【鬼】を嫌う理由になる。



 多娥丸は暴力的な性質を持っていた。その片鱗へんりんは赤子の頃からあって、無邪気むじゃきに笑いながら加減のない力で人の腕など簡単に折る。

父親の鬼平おにへいは悩んだすえ、彼が人を傷つけないように邸宅の奥へなかば閉じこめた。だが身に宿やどす力が強大すぎた多娥丸は体が耐えきれず、生まれてから3年もたない内に早世そうせいした。

 いたむ者もいないひっそりとした送葬そうそう、布に包まれた小さな遺体の入った箱を鬼平は運ぶ。洞窟を抜けひらけた河原を掘り、小作りの箱を地中ふかく埋めて石をみ上げる。

まわりはきりただよい、河原の向こうはくにだと伝えられている場所だった。

鬼平は海の洞窟奥ふかく、鬼の世界で我が子をとむらほうむった。



 それを物陰ものかげからのぞいていた者がいる。

ボロボロの狩衣かりぎぬをまとった幽鬼はさとられないよう身をかくし、うらめし気な目で鬼平を見つめる。河原に人がいなくなったのを見計みはからい、小さな遺体を掘り起こして持ち去った。

角を折られた方鬼ほうきは、復讐ふくしゅうの機会を虎視眈々こしたんたんと狙っていたのだ。



 十数年後、方鬼はついに反魂はんごんじゅつを成功させた。

持ち去った遺体からよみがえった子は、見る間に成長して大きな鬼になった。肌の色は死人のように青黒く変色して、生前と同じく黒い角が1本ある。

 常闇とこやみの黒い鬼は、父も弟もにくんだ。

多娥丸はうとまれひとり鬼の世界へ捨てられた。なのに双子の弟は父に可愛がられて生きている。黄泉帰よみがえった鬼は黒く染まりし体のごとく心も怨嗟えんさに満ちていた。



「そうじゃ多娥丸よ、いまこそ復讐ふくしゅうの時じゃ! 」

 いやしい笑みを浮かべた方鬼は、黒き鬼をきつける。有象無象うぞうむぞうの黄泉の鬼たちを集めて軍団を結成し、洞窟にほどされた封を多娥丸の力で打ち破った。鬼の軍勢は洞窟に満ちあふれ、人の世界を侵略しようと押しよせた。

しかしまたもや立ちふさがる者達がいた。

数百年の時をこえて、ふたたび常世の鬼と地上の鬼が対峙たいじする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

処理中です...