双子の鬼(月読シリーズ)

風見鶏ーKazamidoriー

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プロローグ~序章

双子の鬼2

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 いちはやく危機を察知さっちした地上の鬼達は洞窟へ侵攻した。

 先頭に小さい老人が立ちいどむ。

「ぐひゃひゃ、鬼平おにへいよ老いたものじゃ。角も無くなってあわれな姿じゃのう! 」
 鬼平の姿をの当たりにした方鬼ほうきが勝ちほこったように笑う。

「なんとでも言うがよい。今日の相手はわしではないぞ」

 鬼平の横へ大剣をかついだ傲岸不遜ごうがんふそんな青年が立つ。無造作むぞうさに赤毛をかき上げると白い角が1本ある。よわい17にもかかわらず隼英はやひでは威圧感をまとっていた。

方鬼はたじろぎくやしそうに歯がみした。

「どけ、奴の相手は俺だ」

 地をうほど重い声が黄泉の鬼軍団を押しのけた。燃えさかる赤い瞳に黒い角が生えて隼英に相似そうじした顔、鬼平は驚愕きょうがくで目を見ひらく。

「そんな……まさか多娥丸たがまるなのか!? 」

「ひゃっひゃっ。蘇ったおのが子の力で地にすがいい、鬼平!! 」
 黒い鬼の後ろへ隠れた方鬼の高笑いが洞窟にこだまする。



 えた黒い鬼は、大剣を持つ青年へ襲いかかった。

「隼英っ! あやつは――――」
「かんけーねぇな、向かってくる奴はぶった切る!! 」

 ガキンと音がして大剣の腹が黒い鬼の爪を防ぐ。牙をいた双子の兄と弟は至近距離からにらみ合った。

鼻で笑った隼英が大剣でふり払うと、黒い鬼は野生の獣のごとく動きまわり攻撃を仕掛しかけた。隼英も速度を上げ、目に見えない速さの火花と音が岩窟へひびき渡る。



 しばらく目を見開いていた鬼平は我に返り、常世とこよの鬼を止めるため地上の鬼達へ命令を下す。

「ゆけ、お前たちの力を存分に見せてやれ」

 合図で武装した男たちが方鬼の軍勢と対峙たいじする。

通常よりもはるかに長い槍や、雷をまとう斧をもった者らが前へ進みでる。その者達の頭には牛のような2本角があり、一角獣いっかくじゅうほど長い角を持つ者もいた。かぶとではなく直接生えていて、姿は人なのに眼光はするどい。

屈強な男達の中でもさらに大柄な男の槍はうなりをあげて鬼の軍団を瞬時につらぬき、雷撃とともに飛んでくる斧は鬼の硬い頭蓋骨ずがいこつをたやすく叩き割る。

地上の鬼たちの所有する【神宝しんぽう】の武具がしげもなく使用され、その破壊力の前には有象無象の鬼などちりにもひとしかった。数の多い方鬼の軍勢だったが、地形が洞窟だったことと統制のとれた猛者もさたちの前に敗走をはじめた。

「おのれっ鬼平! またもや――ぎぃやぁっ!! 」

 放たれた一筋の光る矢が方鬼へ刺さった。足を引きずった方鬼は、敗走するれに飛び込んで鬼の背へしがみついた。

「方鬼め、逃げおったか! 」
 方鬼を追う鬼平は洞窟の奥へたどり着いた。そこはかつて我が子をほうむった地だった。



 鬼の世界へ逃げ帰る軍勢をながめ、黒い鬼はつばを吐いた。

「ちっ方鬼め、役に立たねぇヤツらばかり集めたな」
「オマエもさっさと地べたいつくばって、命乞いのちごいでもしたらどうだ? 」
「ぬかせ! 血反吐ちへどをはいて這いつくばるのはお前のほうだ!! 」

 挑発に牙をいた黒い鬼は隆々りゅうりゅうとした腕をふり上げた。しかし剣が剛腕を受け止めて多娥丸の拳が風圧でける。

「くっ、ぐがぁ!? 」

 ひるんだすきを隼英はのがさなかった。大剣の刀身が光り疾風しっぷうのごとく振り下ろされる。腕を斬り捨てられ心臓を一突ひとつきされた多娥丸からドス黒い血が流れて隼英の足元へまった。

「ぐ……ふ……ふははっ……無駄ムダだ!! 」

 大剣で洞窟の壁へいつけられた黒い鬼は、血のしたたる大口をあけて笑う。瀕死ひんしでも滅びない、反魂はんごんの術を行なった方鬼がいるかぎり多娥丸は不死身ふじみだった。



「『八戒はっかい』を使え」

「……はっ」

 鬼達ですら心臓がちぢみあがるほど冷酷れいこくな声が隼英から聞こえた。

指示をうけた術師は神宝の呪具じゅぐ八戒はっかい』を取りだす。手の中で浮かぶはこは閉じられているにも拘わらず、禍々まがまがしい気を発している。

術師が呪いをうたい匣の境目さかいめが少しずつ開き、すきまから得体えたいの知れぬ音が聞こえてくる。

「待つのだっ!! 」
 鬼平が咄嗟とっさに止めた。術師が静止して、剣を持っていた隼英は鬼平の行動をとがめる。

「おやじ、コイツの怨念は消えねぇ。あきらめない奴が一番厄介だ。呪具の『八戒』を使えば、魂ごとそれすら食い尽くす」

「……そこまでする必要もあるまい。死なぬのなら出られぬ所へ封じるまでじゃ」

 隼英はおそらく黒い鬼が双子の兄だと気づいていた。分かったうえで魂を食らいつくす神宝『八戒』を使えと命じたのだ。しかし鬼平が垣間見かいまみせた慈悲じひに、それ以上何も言うことはなかった。



 黒い鬼は洞窟の狭間はざまに開かれた次元の穴へ封印ふういんされた。またもや野心のついえた方鬼は鬼の世界深くへ行方ゆくえをくらまし、人の世は鬼の反乱を知るよしもなく平和は維持された。

異空間へ閉じこめられた多娥丸は、2度と現れないと思われていた。



 時をて隼英が若くしてこの世を去り、海のマガツヒと呼ばれる魔の出現と強大な龍神高龗たかおかみを呼びだした反動で洞窟の空間はひずみ、多娥丸の封印された狭間へひび割れがしょうじる。

すきまの奥で赤い目が光り、青黒い手は空間をつかんでじ開ける。黒い鬼は解き放たれる時機じきをずっと待っていた。
 
方鬼と鬼平の因縁いんねん、そして多娥丸たがまるの再来だった。




***************

 浜辺はまべさとから来た使者が【鬼】の邸宅をおとずれ洞窟の異変を知らせる。

知らせを聞いた鬼平は湯谷ゆやという男を調査へ向かわせた。ところが調査を途中で切りあげた湯谷は邸宅へもどってきた。

「ふうむ、どうした事かの? 」

「あらゆる場所から瘴気しょうきが出てまっています。岩窟に隣接している古い洞窟が特にひどく、探索するにも瘴気がすぎて……放って置けば、さとの者も影響えいきょうを受けるかもしれません」

「しょうがないわしも調査に加わろう、原因を突き止めるのが先決じゃ。ところでまごはどうしておる? 」

千隼ちはや様なら、別件の調査に出ていると聞いています」
 湯谷の後ろにひかえていた若いしゅうが答えた。

 鬼平の孫――隼英には千隼ちはやという息子がいる。ハタチを過ぎたばかりだが優秀で【鬼】家の当主とうしゅの座にいた。千隼を同行させるつもりだったが別件の仕事が入っているのなら仕方しかたがないと、鬼平は湯谷と共に洞窟へおもむいた。



 満潮時に海水が流れこむ洞窟は、陰鬱いんうつな風を吐きだして生き物の姿はない。

到着した鬼平は手下をひきいて浜辺の洞窟へ入った。調査をしてみれば、岩の隙間から羅量の瘴気があふれ出しとどこおっている。

「すさまじい量の瘴気じゃ、いったいどこから……」
 瘴気の出どころを調べていた鬼平は、洞窟の奥から流れてくる邪悪な気配けはいを感じとって厳しい顔つきになった。

向こう・・・の世界か。あまり時間はないのかもしれぬ……湯谷、ひとまず戻って出立しゅったつの準備をするよう伝えよ」

 鬼平の命を受けた湯谷は、ひと足先に邸宅へ戻った。
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