月読-つくよみ-

風見鶏ーKazamidoriー

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第一章

九郎の変遷

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 5月も終わり、夏越なごしの月。

 月読つくよみ一進いっしんに押し切られ加茂モモリンの世話役は5月で終了して、今日から新たに九郎くろうが屋敷へ来る予定だ。

 朝っぱらから、屋敷へ沢山たくさんの荷物が運びこまれていた。なにが起こっているのかを知るため、月読は玄関で荷物を運び入れてる【からす】の1人をつかまえた。

「これは一体どういうことだ!? 」

「おはようございます。九郎様の指示で必要な物を運んでいます」

 話している間にも、どんどん荷物は運び入れられる。あっけに取られて眺めていたら、九郎が玄関からぬっと入ってきた。居間いまどなりのかど部屋へ、荷物を運ぶよう指示している。引きめた烏も荷物を持ってササッと行ってしまった。

「……九郎」

 月読は説明を求め、じろりとにらむ。

「1年ここへ住む」
「はぁ? 」

 頓狂とんきょうな声が口からでた、じつに間抜まぬけな声だ。

ふもとへ住む、加茂でも通って来ていたのだぞ。だいたいお前の屋敷まで歩いて5分もからんだろう!? 」

 ここへ住むとは聞いていない、九郎の行動を押しとどめる。

「家で仕事をすると、世話役との調整がむずかしい」



――――何故なぜ、世話役に候補したんだ。

 月読は床へ手をついて項垂うなだれたい衝動にられたが、すんでの所で思いとどまった。こういう無駄ムダに行動的で予想のななめ上を行くところは、前ノ坊まえのぼうの親子共々てる気がする。

 がっくり肩を落とし、月読は情けない顔で溜息ためいきいた。そして烏どもがせっせと荷物を運んでいる部屋が気になった。月読が居間で過ごす時間は多い、生活スペースまで浸食されそうだった。

「なんで其処そこなんだ? ひろい西側もいてるぞ」

 たまにだけど一応いちおう使っていると、抗議こうぎの声をあげる。

 玄関を入って坪庭つぼにわ横をぬけた東の部屋は、元茶室ちゃしつで時代のながれと共に書斎へ改装している。客間のある西側は縁側えんがわもあり開放的だ。しかし九郎は書斎のほうが烏の屋敷に近く便利だと主張する。たしかに東側には裏口がって便利だが、玄関から出ても距離はたいして変わらない。こまかいところで合理的なヤツだと思いつつ月読はれた。

「窓も小さいし、せまいぞ」
「かまわない。隣に広い居間がある」

――――コイツ、あたりまえに使うつもりだ。

 月読はこめかみへ手をあてしなびそうになる心を支えた。こうして九郎との共同生活が始まった。





 気持ちよく寝ていると、身体をさぶられる。

「うん……あと10分……モモリリ……」

 今日はなにも予定は無いはず。月読は身体を揺すっているのは加茂だと思い、目を閉じたまま呟いた。

「あきら」

 耳元でドスのいた声がひびく。ゾクッとして目を開けると、真っ黒い双眸そうぼうの凶悪な顔がのぞきこんだ。月読は寝ぼけた頭で状況を整理する。

 九郎が居たことを思い出した。

「朝っぱらから見る顔じゃねぇな……」

 顔をしかめながら布団へもぐりどくづいた。聞こえたらしく布団をがれ、さらに凶悪な声がする。

「起きろ」

 布団のそばには身を乗りだして座る九郎がいる。黒い道着どうぎを着て朝の準備をとっくに終えている。月読は体を起こし長い髪をかき上げた。まだハッキリしない頭でのそのそ風呂場へ向かう。



 日課の水垢離みずごりを済ませ居間へと足をはこぶ、九郎は台所で2人分の朝食を作っていた。座っていろと言われたものの落ちつかず、月読も食事運びを手伝う。

「朝の修練しゅうれんがある日は用意しなくていいぞ」

 【烏】の道場では定期的に朝の修練を行なっている。それなりの準備もあって忙しいことだろう。月読は自身でも料理できるし、西の会館には食堂もあるからと九郎へ気をつかった。加茂の場合は大門ちかくの事務所で働き、る時に来てやるべき仕事をしていた。世話役と言っても四六時中しろくじちゅう一緒にいるわけではない、住みこみだとしてもしかり。

 それを伝えれば九郎はこちらをじっと見つめる。なぜか黒々と不満そうなオーラをただよわせていたが、あえて無視してはし茶碗ちゃわんを取った。

「言葉づかいもどうにかしろよ」

 烏達へ指示を出していた時とは打って変わり、無愛想ぶあいそうな顔にぶっきらぼうな話し方は九郎本来の気質なのだろう。

「2人だけの時に、気を使う必要があるか? 」

「ちょっとは取りつくろえ、私は月読だぞ。それからあきらと呼ぶのもやめろ」

「断る」

 九郎に断られた。同い年の所為せいか2人だけのときの会話は当たりが強い。4年離れている内に忘れてしまったようだ。昔を回想しながら海苔のりをご飯へのせる。ふと初日の打合せを思い出した月読は大げさに眉毛まゆげをよせた。

「打ち合わせの時はビジネスライクだったのか? 」
「あの時は少し緊張していた」

 こちらが逆に試されていたのでは無いかと考えてしまう、ハの字眉の月読はこんな鉄面皮てつめんぴでも緊張することがあるのかと感心した。玉子焼きを口へ放りこみ、あらためて向かい側の男を見ると黒くつぶされた瞳と目が合った。

 真剣に見ているのを察知された様子で九郎が顔をしかめる。

「いや……、玉子焼きちょっと甘くない? 」
「甘い方が好きだっただろう」
「…………う」

 月読はかわすように話題を変えた。ところが昔のことを覚えていた九郎に不意ふいを食らい言葉にきゅうしてしまった。照れてし目になり黙々と玉子焼きをはしでつまむ。きれいにたいらげた皿を持っていこうとすれば、すでに食べ終えた九郎が自分の皿と一緒に持っていく。食器を洗い、行ってくると出掛ける背中を見送った。



「本当に、相変あいかわらず読めん」

 真顔になった月読はひとちた。






―――――――――――――――
お読み頂きありがとうございます。
加茂モモリンとは対照的な九郎が世話役になって屋敷へ
いったいどうなってしまうのか。

もろもろの用語説明になります。

夏越なごしの月…夏越しのはらえの行われる月。6月頃を表わす季語。旧暦の6月。
縁側えんがわ…日本家屋の部屋と庭の間にある板張りの通路。
鉄面皮てつめんぴ…鉄でできたツラの皮。厚かましいこと、その人やそのさま。
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