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第八章
反動
しおりを挟む月読は欠片封じの結界を張ったことで力を使いきり、まる2日寝こんでしまった。眠気もひどく寝たきりの状態、そのあいだ九郎がずっと介抱していた。
器が欠けたことにより奈落へいく前とくらべ、保持できる力の量がへんかしていた。
すでに暖房がついた部屋はあたたかい、月読は力の入らない身体を起こした。
腹は減ってないけど空腹がひどくなった眩暈がする。辺りに人の気配はなく、九郎を探してさまよった。
すきま明かりに吸いよせられ覗くと、道場で体錬をしている彼がいた。居場所がわかり安心した月読は部屋へもどるため向きをかえた。
「あきら! 」
察知した九郎が引き戸をあける。修行の邪魔をしてしまい、月読は困ったように眉頭をあげた。
「……おはよう、九郎」
「おはよう、起きて大丈夫か? 」
「そう心配するなって大丈夫だよ……」
修練していた彼の体は外気にふれて湯気が立ちのぼる。逃亡中にのびた髪は依然として跳ねているが、こうして見ると九郎もかなりの男前だ。ぼんやり眺めていたら、気遣った男が頬へふれた。さきほどまでトレーニングをしていた手は熱く脈うっている。
「……すまない、邪魔をしたな」
踵をかえし、ふらつく足を出来るだけまっすぐ動かす。心配させないように歩いたのに心配した男はピッタリ寄りそった。
着がえを用意して脱衣所へ入ったら、九郎も道着の帯をほどいた。いっしょに風呂へ入る気らしい。全裸をさらすのは少々恥ずかしい気もするけど、寝込んでるあいだは身体を拭いてもらったり云々世話になった。
――――いまさらか。
月読は苦笑して寝巻をカゴへ置いた。九郎の引きしまった腿が視界へ入り、なんとなく目を逸らす。
浴槽から湯気が上がっていた。
おとな2人くらい入っても余裕はある。シャワーは1つなので九郎と交互に使用した。
「手伝おうか? 」
いきなり響いた声にびっくりして体を洗っていた月読は足元がふらついた。泡ですべってバランスを崩し九郎の腕に支えられる。意識しないようにしていたが、泡のついた肌は合わさって筋肉の隆起がこすれあう。月読が狼狽えたら支えた男は耳のうしろへ唇を這わせた。唇は首筋から肩へ移動し、撫でるようにキスをする。
月読はイスへ乗せられ、柔らかいタオルで背中を洗われる。タオルは腰元を撫でて足のつけ根を往復する。脛から足先をていねいに洗われ、くすぐったさを感じる。
タオルを置いた手は、もこもこした泡を身体の中心へ塗りつけた。
「あっ待て、九郎……そこは自分でっ」
筋張った指は泡だらけの陰茎をにぎってやわやわと揉みあらう。力がぬけた月読はもたれかかり、されるがままになった。茎をすみずみまで洗われ、根元のふくらみを手の平で包まれる。
裏側をきれいになぞられて、うめき声をおさえた月読は目をとじた。
「そんな顔をされると、したくなる」
意地悪な声がきこえ、熱い唇が耳へふれる。あたらしい泡をつけた手は両膝をかかえ、太ももの裏がわから双丘をもみ、尻の谷間をなぞった指が奥まった場所へもぐりこんだ。
「うぅっ……くろ、う」
おさえきれない声がもれた。泡ですべる指はいくども挿しこまれ、窄まりをひろげ洗う。シャワーで泡が取りのぞかれると、指はあっさりと引きぬかれた。
泡をくまなく流した九郎は、耳元と首筋へふたたび唇をおとした。
シャワーだけであがる予定だったけど九郎と湯船へ浸かった。倦怠感がぶり返し月読は気だるそうにもたれた。
「大丈夫か? 」
「うん……だるいだけ……」
温まったところで湯船から抱えだされた。だっこされて脱衣所の籐椅子へ寝かされ、彼に体を拭かれる。
せめて服ぐらいは自分で着ようと、浴衣へ手をのばし袖をとおした。九郎が髪を梳きながらドライヤーをあて、気持ちよくて月読は目をつむる。
気がついたらまた抱えられ、寝室へはこばれる最中だった。
月読は寝室へいくのをことわり、居間のクッションへおりた。クッションでウトウトしていると、風呂場と道場の片づけをした九郎がもどってきた。
「なにか食べられそうか? 」
「おまえ」
なにもしたくないほど気怠い。風呂場の行為ではんぱにくすぶり不機嫌になった月読は鼻でうなった。わずかに困り顔になった九郎は、まぶたへキスして台所へいった。どうやら体調が回復するまでおあずけのようだ。
甘めのフレンチトーストを食し、九郎へもたれかかって顔を埋める。安心して身も心も充電されてる感じ、顔をすりつけていたら頭へ口づけられた。普段なら恥ずかしくて転げまわる状況も体調の悪いときは不思議と気にならない。
さっき食べていたフレンチトーストくらい甘いと、月読はひとり言ちる。
「私は白のなかでは、どのくらい生きる者になるのだろう……」
安らぎ弛んでポツリとこぼした。
時代の変化と共に寿命を延ばしつつある白だが、苛烈な戦いをへて晩年は妖につけねらわれることも多く平均寿命はみじかい。
「近年だと佐伯長政という白が長寿だった、散歩中に河原で足をすべらせて逝去されたのはおしまれるな」
長政は10人目の月読の白。御山の西を散歩中に転び、河原の石で頭を打って亡くなったらしい。なんとも滑稽でおだやかな逝きかた。
「うん……? 確かに長生きだったけど、なぜお前が知ってる? 」
10人目の白の記録は月読家にもある、けれども知るかぎり死因までは書いてなかったはず。気まずそうに目をそらす九郎を問いつめれば、烏の秘文書のそんざいをあかした。
「分家が本家に関する秘文書もってるって、どういうことだよ? 」
秘文書とは名ばかりのものだと彼は濁す。月読が粘った結果、ちょっとだけ聞きだせた。
「白の対になった烏の日誌や手紙をあつめた文書だ」
【引き留め人】となった烏たちは、後世のために白との生活や戦闘の記録を書きのこす。ともに織りなす生活や戦いの手法、引き留めの失敗や失くした者の後悔、さまざまな記録と思いが綴られている。
なかには恋文のようなものまであるという。
それを読んで育った九郎の書いた物もいずれ文書に加わる。くわしい内容は引き留め人のみにあかされる。
しずかに聴いていた月読は顔をあげた。
「……まさかとは思うが、こういうのもぜんぶ書くつもりじゃないだろうなっ!? 」
「さあ? どうだろう」
重大なことに気づき月読が文句をつけたら、かすかに笑った九郎はおでこへキスをした。
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